Radio Evil Truth Special Program!!
Radio Evil Truth Special Program!!
木と畳のイ草が漂わせる心地よい香り。白地に赤い彼岸花が咲く襖。障子を開いた先には、モッキンバードタウンの昼下がりの景色が広がる。そんな和室で、円形のちゃぶ台を囲む浴衣姿の彼氏と彼女。ふたりが座るのは、彼岸花柄のお座布団。
「昨日は大変だったねえ」
そう言いながら、彼女は小さなお釜で炊いたご飯に、レトルトカレーをかけながら言った。
「まさか宇宙戦艦が、この街に降りてくるなんてね……」
そう言って彼氏は、ちゃぶ台の上にならんだ味噌汁と小皿の梅干しをみつめる。
「戦争かと思ったけど、悪質ないたずらだったのかな?」
カレーを注いだ炊きたてご飯が入った小さな釜を、彼氏の前に並べながら彼女が言った。
「いたずらにしては……ちょっとどころじゃ済まないやり過ぎだったよね?」
彼氏は昨日、自分達に向けられた宇宙戦艦の主砲のことを思う。
「そうね……。System Self-Defense Force が出てきてあっという間に逃げて行ったけど……」
そう言って彼女は、木製のTV台に乗ったレトロデザインの最新式TVに視線をうつす。
TVはちょうどニュースがはじまったところで、System Self-Defense Force SSFの制服に身を包んだ幕僚長達が、大々的に記者会見を始めているところだった。
「あ、ちょうど、昨日の件についてみたいだね」
と彼氏。
赤い彼岸花柄の浴衣を着た彼女と、青い彼岸花柄の浴衣を着た彼氏は、しばしTV画面に注目する。
「昨日、モッキンバード星系首都モッキンバードタウンに降下し、威嚇射撃および意味不明の宣言を行った所属不明の宇宙戦艦は、昨日中にSystem Self-Defense Force SSF支援要撃隊によって、ビッグウエスト海洋沖にて完全に平定されたとのことです。これより所属不明艦を平定したSystem Self-Defense Force SSF支援要撃隊隊長、ヘル・ツゲル主任特務大尉へのインタビューを行います」
アナウンサーの言葉の後、カメラは会見中の幕僚達から、全身黒づくめの男へと焦点を変える。
「私はSpace Synthesis System モッキンバード星系宙域 System Self-Defense Force SSF支援要撃隊隊長、ヘル・ツゲル主任特務大尉である! 昨日は敵の欺瞞工作によって、私の偽装音声が違法電波として流れたようだが、本来の私はこのようにまことに紳士的な男である!」
直立不動の姿勢で答えるヘル・ツゲルの出で立ちは、全身を覆う真っ黒いボディーアーマ、黒いヘルメットにガスマスクの装着で、一切の表情は読み取れない。
「お聞きの通り、昨日96.9銀河標準メガヘルツで流された違法ラジオ放送での音声は、所属不明艦による欺瞞工作のようです」
インタビュアーが言うと、さらにヘル・ツゲルが続ける。
「System Self-Defense Force 略称SSFは諸君らの平和を先制し、積極的に維持するために、強大な平和力の保有と維持に努める強靭な組織である。その組織の前では、たった一隻の所属不明の宇宙戦艦など、ものの数秒で平定される運命に過ぎず、事実! 今現在奴らはビッグウエスト海洋の海底で今頃、モッキンバード星にやさしくエコロジカルに魚のエサに……」
黒いヘルメットにガスマスク姿でヘル・ツゲルがまくしたてる真っ黒い姿が急速に歪んで、TVの画面から消える。
「あれ?」
TVを消そうとリモコンに手をのばしていた、彼女の動きが停止する。
真っ黒になったTV画面がゆっくりと濃厚なブルーに染まり、昨日、空から降ってきた宇宙戦艦の艦首に描かれていたのと同じドクロが、画面の中心に現れる。
「えええ!?」
彼氏はカレーが入った小さなお釜を手にしたまま、その画面に釘付けになる。
「Radio Evil Truth Special Program on TV! now on air!!」
禍々しいドクロの上に真っ赤な文字が現れる。
「どうも! こちらは、SSFのクソ野郎に沈められたことになっているRADIO・イービル・トゥルース。アークがやってる海賊放送だ。こんにちは、モッキンバード星系の君! 今回はデビュー記念のはじめましての大炎上式大宣伝ということで、ラジオ放送らしからぬ、TVジャックに打って出てみたけれど、サウンドオンリーのラジオ放送の魂は忘れてないぜ。ただいまよりナイン・シックス・ポイント・ナイン、96.9銀河標準メガヘルツにて、アークの海賊放送を開始する。紳士と淑女とクソ野郎とビッチにガキンチョとお年寄り達へ、熱い音楽と嘘みたいな本当の話を届けるぜ! 受信料は無料だし、なんと宣伝も入らない! この銀河のあらゆる同調圧力をぶっちぎる、嘘みたいな本当の海賊放送だ! 君が住むのとは違う銀河の音楽を、違う銀河の話を聞いてみたくはないか? それじゃあいまから、ナイン・シックス・ポイント・ナイン、96.9銀河標準メガヘルツで君に俺は語りかけるよ。ずっと眠らせてる防災ラジオを引っ張り出して、点検および動作確認のつもりでいいから、俺の声を聞いてくれ! よろしくな!」
そして画面は急に乱れ、画面は再び黒尽くめのボディーアーマーとガスマスクのヘル・ツゲルに戻る。
「このマジクソのドぐされ外道がぁぁぁぁぁっ!」
System Self-Defense Force SSF支援要撃隊隊長、主任特務大尉ヘル・ツゲルの雄叫びを聞いた瞬間、彼女はちゃぶ台の上からリモコンを手にとりTVを消すと、押入れにしまってあるはずの防災用ラジオを探しに、隣の部屋へと消えていった。
 




