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はるはるの式部  作者: はるはるの式部
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序章

「えー!なんかこういうの緊張しますよね!」

 彼女は屈託のない笑顔を見せた。しかし彼女の本心はわからない。彼女の眼の奥にある深い闇を、私はまだ理解しきれていない。彼女の口は明るく、そして暗い表情を隠しているようだった。

「そうそう!私も初めてだからよくわかんないんだよね!」

 私も彼女に対して明るくふるまう。私は彼女の一挙手一投足に注目する。

 かつて、彼女の手には人を殺めうるモノを握られたことがある。それゆえに、私は、一切の妥協をできないでいた。


「じゃあ、ゆづちゃんに質問していくね!」

「はーい!」

 若干19歳の彼女は私の目の前に置かれた椅子に腰かけた。もう間もなく7月になるというのに彼女の服は重く暑く重なっていた。自然と私の視線は彼女の手首や首に注目してしまう。それを無理やり目線を外すのに必死だった。

「まず、ゆづちゃんの理想の彼氏を教えてください!」

 萩原結月。先日19歳になったばかりの彼女は本来この場所にいるべき人ではない。私と彼女は一切かかわりを持ってはいけない間柄。相容れないはずの私たちは間違いなく、この場所で話をしている。

「理想の彼氏か……、やっぱり無難に『優しい人』かな!」

「えー、絶対他にもあるでしょ!」

 最初の質問に応えた彼女はやはり屈託のない笑顔をしている。その笑顔を見るだけで、いったんは私の心がホッとするのだった。

「逆に、和奏ちゃんはどんな人が好きなの!」

 髪を赤く染め上げて、濃すぎるメイクをした彼女の対して、私は質素に長い髪をまとめただけの男っ気の全くない恰好をしている。

「そりゃ、私も『優しい人』がいいに決まってるじゃない!」

 一見、かかわりがなさそうなお互いの容姿とは異なり、意外にも応えは同じ。

 私にとっては、応えは重要ではない。そこに彼女の偽りがないか、そして、私のことを信頼してくれるかが重要だった。

「じゃあ、次の質問をするね!」

 私は手元に用意したカンペを見る。手が震えている。今の私には、今までとは考えられないくらいの重圧がある。その重圧に、私は耐えられるかわからない。


 彼女は、微笑んでいた。

 目には一切の明かりを感じず、ただ口元を緩めて。

 すました顔で、ただ、私の手元が震えているのを見ていた。

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