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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
修学旅行にはアクシデントがつきもの?
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99話

 国内で指折りの国立大学の医学部の学生である環に案内してもらい、現時点で一番怪しい教授の元に向かう途中、恵は1つの建物の前で立ち止まる。理由はその少し開いている扉から良い匂い、とても抗いがたい誘惑、が鼻腔をくすぐるからだ。


「食べていくか?」


 それに気づいた環が恵に尋ね、彼女は頷く。

 先ほど喫茶店に寄ったのだがすぐに出ると思ったのとお昼には少し早かったので恵は飲み物だけにした。


 その建物は学食専用のようで恵は初めて入る食堂の雰囲気を味わい、自分も少しだけ大学生気分だ。それに、食堂の価格設定がとてもお手頃で恵にとってはありがたいことだ。外食だと千円は確実に超えていただろうから。

 そうして、全員で食事をしていると誰かが環に声をかけてくる。同じ学部なのかわからないが、その男性は環に対して何か頼みごとをしているようだ。それは関係ないと思い、恵は食事の手を休めない。


「あー、サンキュ。西寺。ありがとう。」

「いや、これくらいはいいが、出席日数が足りていない問題は俺では対応できないから。」

「それはこっちでどうにかするからいい。」


 男性は心底感謝しているようで環に頭を下げている。

 男性はそのまま立ち去るかと思ったのだが、環の周囲に視線を移す。


「ところで、お前の親族か、なんか?」

「まあ、そんなところだ。来年受験らしく大学内を案内しているんだよ。これから社会学の方も回る。」


 男性は環の言葉に慌てる。


「おい、あそこは止めておけって。この間もまた3人消えたことは話しただろう?」

「そうだったか?俺は最初の旧校舎に入った数人しか聞いていない。」

「それはお前が興味がなくてスルーしていただけだ。とりあえず、今、向こうの学部生の奴らが行方不明で色々問題なんだよ。それも浅間教授がアドバイザーをしている二年の奴らばかりだ。」

「二年なのか?俺らと同期の?」

「そうだ。浅間教授がこっちに来て1年目に面倒を見た奴ららしい。社会学部の奴らなんて震えあがって休んだり、転科したり大騒ぎだ。だから、やめておいた方がいい。」

「そうか。まあ、考えておく。」


「本当にやめろよ」と最後にもう一度念を押した男性は後ろ髪を引かれたような様子だが学食から去る。環は肩をすくめて何事もなかったように食事をする。


「環さんはよく私たちが来年受験生ってわかりましたね。」


 恵は先ほどの会話で環の観察の高さに感心して言う。


「関西弁ではなく、こんな平日に歩き回る高校生なんて修学旅行で来たとしか考えられなかった。そして、修学旅行はたいてい二年の時に実施されているはずだ。俺の時もそうだった。」

「なるほど。私、高校生って言いました?」

「さっき、恵のカバンからチラリと学生証が見えた。」

「うわ、刑事さんみたい。」


 環の推理力に恵は感動し思わず立ち上がる。

 こんなに気持ちが昂るのは彼女にとっていつぶりか。


「とりあえず落ち着け。それで、聞いての通り、社会学は危険らしいけど行くのか?」

「はい、行きます。浅間教授に会ってみたいですし。」

「そうか。それなら、この浮遊霊を連れて行くといい。こいつはいろいろ迷惑をかけているそうだからな。こういう時でしか役に立たんし、授業や勉強中は歴史と英語以外の言葉の翻訳以外は邪魔だから。」

『ええー、そんなこと言うなや。まあ、でも、確かに前に力がそこそこあるおじさんを攻撃してしまったことあったな。あれは不可抗力やけどな。』

「やっぱり迷惑かけているんじゃないか!協力して少しは人様の役に立て!」

『了解や。せやけど、わしはお前に何か危険があった時は必ずお前の方を優先するからな。』

「それでいいですよ。」


 恵は男性浮遊霊の提案を了承して、そこで話し合いが終わる。あのままであれば、環と浮遊霊の話し合いが一向に平行線のような気がしたので恵が間に入ったのだ。浮遊霊、ライ、も連れてお腹を満たした恵たちは社会学の校舎に向かう。


 社会学の校舎は異様な雰囲気だ。お化けが出そうなそういうたぐいではなく、何か人に害を与えそうな悪いもので纏われているような感じがして、恵には校舎自体が薄暗い靄で覆われているように見える。快晴なのに。


「大丈夫ですか?」


 環と別れて恵たちは中に入るのだが、恵のことを気にかけて瑛斗が話しかける。


「はい、大丈夫です。」


 恵は頷いてただ浅間教授の教授室に向かう。

 教授室をノックしようかと思ったのだが、ドアの前には不在の札がかけられているので恵たちは無駄足だったかと諦めて帰ろうとする。ただ、そのドアの周辺には呪いグッズと知られるわら人形や釘があり、そのほかにオカルト系の書物が机の上にびっしりと並べられていて、浅間教授のそれへの熱意が恵に伝わってくる。


「本当に好きなんですね。」

「ここまでだと畏怖さえ感じますね。」


 恵の言葉に瑛斗も同意する。


「ねえ、君たち、これを見てよ。」


 レイドリックに呼ばれて恵と瑛斗は少し廊下を進んだ彼の元に行くと新聞が色々と飾ってある。記事を切り抜いたものでそれにはどれも浅間教授の栄光の瞬間ばかりが写真とともに記載されている。こういうオカルト的な研究の最先端《《だった》》らしく、彼は世界でも認められていたようだ。

 どれもちょうど浅間教授がこの大学に赴任してくる前のものでこの大学に来て2年の間の新聞記事は載っていない。


「こんな分野の研究が行われていること自体がすごいよね。」

「人はいつの時代もこういうホラーに憧れるものだと思うけど、ホラーは目で見えないからねえ。」


 レイドリックは嘲笑するが、秋元教師はそれも人の性としてとらえているようだ。恵はレイドリックの感想を聞いて何かをひらめく。


「もしかして、オールウィン君の感想が正しいのかもしれません。」

「どういうことですか?」


 恵のつぶやきに瑛斗が反応する。


「この大学に入ってこんなことを勉強する分野があると、一部の人はオールウィン君のように馬鹿にするじゃないですか。それも、この大学の生徒はみんな優秀ですよ。そんな人たちに今まで研究してこんな風に他人から認められるようになったのに、この大学でそんな風に扱われたら怒りだって湧くでしょう?」

「確かに、そう言われてみればそうですね。それじゃあ、もしかして2年ばかりが消えるのは?」

「はい、もしかしたら、赴任1年目で何かしらあったんじゃないんですか?彼がどうしても許せないことが。ただ、その線だと、私の学校の生徒が消えた理由もどうやってこの1年で消したのかもわかりません。」

「そこは何かしらの力を借りているって見たほうが自然じゃない?」

「そうですね。その力の正体が。」


「おや、君たちは?」


 恵はギリギリになって口を閉じる。そこに聞いてはいけない人物が入ってきたからだ。その人は新聞に映った顔より明らかにやつれてひげを伸ばした男性、浅間教授、だ。


「こんにちは、浅間教授ですよね?」


 恵はにこやかに笑って見せる。作り笑いなのは目に見えてわかるが、浅間教授は気づかないようだ。彼女の顔を見て周囲は口を押えているというのに。


「ああ、そうだよ。私が教授をしている浅間だ。」


 そう胸を張って彼が言った瞬間、黒い霧が彼の体から色濃く放出される。範囲は狭いが明らかに何らかの力の作用だ。


「少しお話をお聞きしたいんですけど、良いですか?私たち、来年受験でこの大学を受けようと思って色んな先生にお話しをうかがっているところなんです。」

「そうか。それなら研究室に行こう。君たちの知的好奇心は財産だからね。」


 彼にいざなわれて彼の研究室に入ることに成功する。


 そこで見たのは、昼なのにカーテンを閉め切って明かりも蝋燭という不気味なまさにオカルトを研究する人が住む部屋だ。

 これにはさすがに恵も笑えず口もとがひくひくとして顔の筋肉が強張る。


「すごいですね。」

「確かに最初に入った子たちはみんなそう言うね。私はこういう雰囲気のほうが筆が進むし考えもまとまりやすいんだ。暗闇が苦手なら我慢してもらうしかない。」

「そうなんですね。ところで、その黒い布で覆われているものは何ですか?」


 恵は部屋に入って気になった右手側の黒い布で覆われて場所を指さして尋ねると、彼は曖昧にして流す。正直に答えてもらえないことで恵は彼について怪しさが募る。

 それから、恵は気取られないようにいろんな質問を投げて、浅間教授は終始にこやかに答えている。その間、瑛斗や秋元教師、レイドリックは一切飲み物に手を付けない。もちろん、恵も同様に。なぜなら、用意した浅間教授自身が喉を通さないからだ


「それでは、私たちはこれで。貴重なお時間を頂きましてありがとうございました。」


 恵たちは教授室から出ていく。その間、後ろの浮遊霊2名と1匹のクモがすごい怒号の嵐だったが、恵たちは気にしない。そして、その怒号はきつい忠告になって教授室を出てからは恵に向けられる。この3人の反応で恵たちは浅間教授が最も怪しいと思い、瑛斗はつてをたどってこの地を縄張りにしている異能者の家に連絡をしたり、佐久良か李家に連絡して話をする。恵にできることはここまでなので、あとは向こうに任せて、その日はホテルでゆっくりと眠る。

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