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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
修学旅行にはアクシデントがつきもの?
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97話

 修学旅行2日目、恵たちは大阪に移動する予定だったが、早朝に数人の生徒がいなくなったことで急遽中止になる事態だ。

 恵は男性教師の部屋に居てその状況をいち早く知ることができ、彼女はそれを外から見て2人の専門家の声と絡めて何が起きているのか推察する。

 ただ、そんな格好つけた言い方はできない。なぜなら、その専門家たちは全くあてにならないからだ。


『主は関係ないんだから。』

『お前は関わらない方がいい。』


 なんて、神様とクモは言うのだ。

 恵はただどんな状況だったかのかを知らせに来た男子生徒から話を聞けたので、情報は人より多く、その知らせが生徒たちに伝わることは早く早い段階で生徒たちは帰宅を命じられ、ほとんどの生徒が午前中に新幹線で戻ることになる。

 失踪した数名の男子生徒はその日の午後に教師たちで探したのだが見つからず、彼らは生徒の親と警察に連絡して諸々の手続きをして、2日目も同じホテルに空いていたから延長して泊まり、翌日の捜索に協力するのだ。

 恵は瑛斗とともにその部屋にいて、教師たちの会議に参加している。理由は簡単で秋元教師が恵と瑛斗、そして、レイドリックを引き留めたからだ。鳴海教師はあからさまに喜んでいて、他の教師陣も安堵の表情だ。なんと、話を聞くと瑛斗とレイドリック、秋元教師の素性は彼らに何となく伝えられていたようだ。ただ、秋元教師と瑛斗の血筋までは一切触れていない。


「それで何かいい策があるのか?桜井。」


 鳴海教師が瑛斗に尋ねる。


「ここの地域はもともと別の家が管理していますから、そこにまずは連絡を取りましょう。京都は1年ぐらい前から神隠しが多くなっていたのはニュースでご存じでしょう?もしかしたら、そのあたりの情報を掴んでいるかもしれません。」


 瑛斗は1日歩き回って疲れている大人の体に鞭を打つ。

 恵はその声と口調に寒気がする。もう少し感情を表してくれればいいのだが、こんな風に淡々と話されると恐怖がある。


「うーん、ここは桜井君に任せた方がいいのでは?僕は外国でつてはないです。」


 そんな中、レイドリックが発言をする。

 確かに外国から来たばかりの彼に何かを任せるには荷が重いだろう。恵が言えることではないが、地理もあやふやだ。


「だが、レイドリックもこういう事件に立ち会ったことがあるって言ってなかったか?」

「まあ、それはありますけど。」

「それなら頼む。」

「はい、お役に立てるといいんですけどね。」


 レイドリックは頭を下げる鳴海教師の態度に押されて頷くが苦笑する。

 

 そんな話をしているとフロントから電話があり、瑛斗が呼んでいた客人が来たとのことで秋元教師を含めた教師数名と瑛斗、レイドリックが向かい、恵を含めた数名は留守番になる。彼らが戻ってくるまでは暇になった恵は鞄からノートパソコンを取り出して仕事をする。


「あの子はなんで残されたんだ?」

「さあ、確かに見たところ特にそういった特殊な子ではなさそうだけど。」

「そういえば、桜井君の主人の娘とか言っていなかったか?」

「え?それって佐久良家ですか?いや、でも、あの子の苗字って西寺って聞きましたけど。」


 恵の耳には不安からか苛立ちや戸惑いの声で自分のことをコソコソと話す声が聞こえる。ノイズのようなそれに集中しないように画面だけに彼女は集中する。


「西寺さん、1人女の子でごめんね。この学年に女性教師がいなくて。前は1人いたんだけど。」

「いいえ、とくには気にしません。」


 この部屋を最初に訪れた際に対応してくれた優しげな男性がお茶を置いて気遣ってくれるが、恵はそれを受け流す。


「西寺さんはパソコンを持っているんだね。何をしているの?」

「サーバー管理とプログラミングでの設計です。」

「難しいことをしているんだね。それって仕事?」

「そうですね。大学にもいかず就職もしませんから。今のうちに稼ぐことにしました。」

「そうなんだ。偉いね。」


 男性との会話は恵にはただの世間話だったが、嫌な感じはしない。それよりも、彼と話していると彼に対してどこか既視感があるので、彼女は内心不思議に思っている。


「西寺さんの家族はその進路について何か言わないの?」

「家族っていう部類の人がいませんから。」

「そうなんだ。それは苦労しているんだね。」

「いいえ、お金を援助してくれる人がいて、その人たちの家でお世話になっています。」

「そっか。それなら自分のことに集中できるね。」

「はい、いい環境で生まれたので感謝しています。」

「そうなんだ。」


 男性と話しているうちに恵はまだ最初の認識を超えられない自分に気づく。


 佐久良家が家族ではなく、お金を援助してくれている人たち。


 確かに特に奏とは会話が増え、気軽に話せるようになったのだが、それでも、呼称は変えることができても、最初に根強く彼女の中に認識というのは残っている。

 そうしている間に、瑛斗らが戻ってくるのだが、瑛斗は神妙な顔をして男性教師と恵の間に座るやいなや、男性教師に断りを入れると彼の方が離れる。恵は不信に思っていると彼は手で口元を見えなくして彼女にささやく。


「恵さん、ちょっといいですか?」


 恵は若干こそばゆいが、それを我慢して小さく頷き電源を切ったパソコンをカバンに戻して彼について部屋を出る。そして、部屋から離れた休憩スペースのような場所に行くと瑛斗は恵を振り返る。


「今、エントランスの方に三条家、つまり、あなたの母方の親族が来ています。向こうはあなたにお会いになりたいそうですが、いかがなさいますか?」


 えーっと、それって選択肢ある?


 恵は首をかしげる。

 選択権を恵に譲っているように思えるが、その口調では明らかに嫌がっているようにしか聞こえない。彼は相当その相手方がお気に召さないようで、恵もあまり興味もないしこれ以上そういった人と関わることに二の足を踏むので首を横に振る。その瞬間の瑛斗の晴れやかな顔に恵は、おいおい、と呆れる。


「断ってもよかったんですか?行方不明になった男子生徒はそれで見つかるんでしょうか?」

「気にすることはありません。彼らはこの1年神隠しの原因も消えた人物の発見も情報は皆無に等しいですからね。ただ、京都は彼らの縄張りで地理も詳しいのでそういった面での協力は必要かもしれませんが、それなら佐久良の分家にも詳しい者がいるので派遣してもらえばいい話です。だから、あなたは《《何一つ》》気にする必要はありませんよ。」

「あ、うん。そうなんですね。」


 瑛斗の貶すような説明に恵はドンびく。

 ここまで悪意のある説明を笑顔で話せるのは彼の血筋ゆえか、それとも彼の性格か恵にはどちらも原因になっているように思える。


「そういえば、私の西寺って京都の人の苗字だって聞いたような気がしますね。お菓子でも持って行った方がいいのでしょうか?」


 恵はただ思い出したように言っただけだ。別に他意はなく、ただ、あの時に自分に苗字をくれた人に対してお礼でもしておくべきかとふと思っただけだ。めったに京都に来ないから。

 その瞬間、瑛斗が固まる。


「い、いいえ、必要ありません。西寺というのは、確かに三条家の分家の1つですが、彼らは分家の中でも末端であり、ほとんど関わりはありません。それに、あなたに苗字を分けていること自体を忘れているでしょう。」

「それもそうですね。」


 少しきょどっていて怪しい様子の瑛斗だが、彼の言うことも一理あるので恵は潔く引く。


「それで、明日からはどうするんですか?」

「恵さん、興味があるんですか?もしかして、そいつらがまた何か言いました?」

「いいえ、そういうわけではありません。むしろ、彼らは私にかかわらないように言っていますね。」

「それならその通りにしてください。」


 瑛斗は強い口調で言う。それだけ、現状が危険だということだろう。だが、恵はそれに怯むことはない。


「この件に関してはごめんなさい。私も理由はわかりませんが関わりたいと思っています。それも盛大に。」

「その表現はおかしくないですか?」

「え?おかしいですか?」


 話がそれるので、恵は首を横に振って話を切る。


「とりあえず関わりたいです。乗り物酔いしませんし、銀行があったのでお金を当分暮らせるように下ろしてきましたし。」

「・・・・・お金は大丈夫です。私の方で払いますから。ただ約束してください。」

「約束?」

「私から離れないことです。」

「できるだけ?」

「いいえ、絶対です。これが第一条件です。」

「故意ではなく、不可抗力は見逃してくれますか?」

「ええ、それは仕方ないでしょう。緊急事態の時も。あなたは自分の体のことだけに目を向けてください。」

「わかりました。私が自分を大好きなのは知っているのに変な約束をさせますね。」

「そうだったらどれほどいいか。」


 最後にぽつりと瑛斗がつぶやいたが、聞き取れない。ただ、それは少しだけワクワクしている恵の耳には通らないどころか興味もなかったので流される。

 2人は翌日から神隠し事件のことを調査開始することになる。

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