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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
修学旅行にはアクシデントがつきもの?
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96話

 修学旅行で京都と大阪を回るのだが、日程表にあったように1泊は京都、2泊目は大阪、最終日は帰るという日程だ。帰宅まで新幹線で3~4時間もかかるので本当に行動できるのは1日ずつのようで、京都で自由行動、大阪で自由行動になっている。

 恵は新幹線は初めて乗ったのだが、なんと乗り物酔いもなく京都に着いてしまう。席は誰とも仲が良くないためか一応名前の知らない女子の隣に座ったのだが、彼女が周囲に彼女の友人たちが座ったことで、恵は一人窓から外を眺めていた。それが逆によかったのか、快適に京都まで着いてしまう。


「京都だ。」


 東京駅も人は多いのだが、京都駅も負けず劣らずの大賑わいだ。


「西さん、分かっていますよね?」

「わかっていますよ。乗り物酔いでホテルに先に行く予定が崩れましたから。」

「わかっていてくれたならよかったです。そのおまけがいればたいていのことは問題ないとは思いますが。念のため落とさないように気を付けてください。」


 恵は頷く。

 グループが分かれたことで、瑛斗は別グループで行動しなければならず、それから彼はいちいちと確認してくるので恵はため息が出る。確かに、彼女は自他共に認める方向音痴だけれどもそこまで心配されるほどの問題は起こしていないはずなので、彼女にとっては不服だ。しかし、それを言えば平行線になり会話が終わらないので恵は黙って従うことにする。

 彼の言うおまけは肩にいるクモと背後の美貌の浮遊霊のことだ。


『主の傍を離れるはずがない。』

『当たり前だ。半端なお前よりはよっぽど腕が立つ。』


 彼らは鼻で笑って瑛斗を一蹴する。


「そうだといいが、1年ぐらい前からこの辺りも結構不安定な場所だから頼んだ。」

「そうなんですか?」


 恵は初耳情報に飛びつくと、瑛斗は頷く。


「はい、あなたは大丈夫だとは思いますが、人が突然姿を消してしまうことが数多く確認されていますから。神隠しと騒がれています。新聞やニュースでも、特にこの1か月はひどいですね。」

「関西だけなんですか?」

「関西というより京都だけです。」


 恵は彼の説明に相槌を打つ。

 それで周囲を見渡すと、恵は周囲が少しばかり緊張しているように見える。それは大人、恵の周りでは教師が中心で、学生はこれからの自由行動に胸を躍らせている人ばかりだ。


「わかりました。大丈夫ですよ。鳴海先生。」


 恵は瑛斗との話が終わり、生徒の数が多いので恵は担任を探すよりは呼んでみることにする。鳴海教師からの返事はすぐにもらえて、それをたどっていくと彼は案外近くに立っている。


「どうした?」

「乗り物酔いはないみたいなんですけど、グループのメンバーの顔がわからなくてグループ行動はできないと思います。それで、先生と一緒に行動させてもらってもいいですか?」


 恵は提案してみる。これはダメもとだ。

 予想通り、鳴海教師は却下して恵が入るグループのリーダーをしている女子を呼んで恵に面通しをする。「忘れるなよ」とだけ彼は言い、恵はそこで分かれて人生で初めての学校グループ行動をする。


 自由行動とはいえ、事前に回るルートを決めていたらしく、恵は他のメンバー5人についていく。リーダーは周りを引っ張っていくタイプのようで慣れているのかミスなく案内をしてくれて恵は安堵する。

 有名スポットを回って集合時間が決められており、その時間までに戻ろうと思ったのだが、乗ろうと思っていたバスに乗り遅れて少しオーバーすることになる。ただ、少々のオーバーも教師たちは旅行ということなので甘く、恵たちは無事にホテルにチェックインする。


 3人用の和室で、恵が寝る布団と次の布団は少しばかりスペースが広くとられているが、彼女は決して気にしない。今まで1人で寝て来て、香港の時に初めて同じ空間で誰かがいる体験をしたぐらいなのだから、1人の方が気楽なぐらいだ。これだけのスペースを開けられるような小さな抵抗に恵は何かを思う暇はない。


「私たちもあなたと一緒は嫌なんだけど、誰かは一緒でないといけないでしょ。」

「そうね。部屋から出て廊下で寝てもらいたいぐらい。」

「廊下?布団を廊下に敷いて寝てもいいのなら、喜んで廊下に行きますよ。」


 恵は彼女たちからの避難に答えるのだが、それが彼女たちの怒りボルテージを上げる。


「あなた、前から思っていたけど私たちのことを見下しているよね!?」

「そうよ。勉強ができるからってそんなに上から目線だから、こういう時に友人の1人もできないのよ。」


 彼女たちは恵に詰め寄る。

 恵は顔を俯かせてやり過ごそうと考えながら、肩に手を添える。

 何しろ、恵には今好戦的な2名がいるから、彼らを落ち着かせようとしているのだ。1人はクモ、もう1人は神様だ。そんな2人が暴れたら、この部屋の弁償まで考えなければならない。恵は自分が犠牲になるか、他者に迷惑をかけるかの2択を迫られている。彼女はヒーローではないので痛いのは嫌なのだ。できれば、それからは逃げたいのだが、彼女はため息を吐いて布団と自分の荷物を持って部屋から出る。


 向かった先は教師たち、それも男性用の部屋だ。ここもホテルの従業員に場所を聞いたから判明したのだ。その際、大荷物で移動する彼女に不審者を見るような視線を向けられたのは恵にとっては納得いかないことだった。


「こんばんは、鳴海先生はいますか?」


 ノックをして声をかけると、ゆっくりと開いたドアから顔を出したのは見たことがない40代ぐらいの丸眼鏡をして優しい顔だち教師だ。


「君は?」

「2年の西寺と言います。鳴海先生はいませんか?」

「ああ、彼ならお風呂なんだ。しばらく中で待つ?そんな大荷物でなんで来たの?」


 彼は部屋に招きながら恵に尋ねる。恵は同室者になるべく非がないように話してここに1晩おいてほしいとお願いする。さすがに、男性ばかりの部屋にいくら生徒とはいえ女子を1人泊めるのは躊躇されたのか、その教師は悩まし気な顔をする。

 そんな時に、鳴海教師がこのホテルについている大浴場から戻ってくる。そして、彼と一緒に別クラスを受け持っている秋元教師というおまけまでついてくる。彼とはもう関わりがないので本当に久しぶりに顔を合わせる。


 秋元教師は恵を見るなりニコリと笑って近づいてきて隣に座る。


「西寺さん、お久しぶりです。とても長い間見なかった気がしますし、ますますきれいになりましたね。」

「ありがとうございます。そんな歯の浮くような言葉でお世辞を言っていただかなくても結構です。」

「つれないですね。」

「何かわかりません。」


 2人の言葉の応酬が続く。

 それを早々に断ち切ったのはもちろん鳴海教師だ。


「お前はこんな場所になんで来たんだ?その大荷物でだいたいの予想がついているが。」

「端的に言うと、泊めてください。」


 鳴海教師の質問に恵は完結に述べる。

 すると、彼はため息をついて、やっぱりか、という顔をする。そんな彼に補足するのは最初に対応してくれた教師だ。


「まあまあ、西寺さんも色々ありますし、熱を出されて病院に走る羽目になるよりはいいでしょう。幸い、この部屋は3人で使うには広いですから。」


 彼が両手を広げて言うと、鳴海教師は納得して仕方なくという態度は崩さずに布団を敷く場所を確保してくれる。

 確かに教師が言ったように、彼らの部屋は恵が使っている3人部屋の倍の広さがあるのだ。


「なんで先生たちはこんなに広い部屋を使っているんですか?」


 恵が尋ねると名前の知らない男性が人差し指を立てて口に当てる。


「それは秘密ですけど、しいて言うなら、大人ですからね。」

「なるほど。」


 恵は何となく彼の口ぶりで察する。


 京都は物騒という話を瑛斗に聞いていたのだが、恵が警戒しすぎだったようで平常運転で1晩が明ける。


 恵は油断をしており、翌朝、教師たちの部屋に男子生徒が2人で飛び込んできて、


「先生、いなくなった。」


 と言った瞬間、頭が働かなくなる。

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