95話
17歳になった恵は高校にはいって二年生になり、理系に分かれ、なぜか進学希望の特進クラスに振り分けられる。それには疑問があったのだが、瑛斗はニコニコと笑みを浮かべている。彼は佐久良家に泊まり恵の部屋からほど近い部屋に住んでおり、通学も恵と同じである。車には酔わないようで恵は近くまで瑛斗と同じように車通学だ。彼は運転できるようだが、17歳という設定上、それは許されていないらしい。
そうして、すでに数か月。青々と輝く木々の道の通学路と汗ばむほどの紫外線が始まった頃、ロングホームルームで1年と同様に担任の鳴海教師から恵には関係ない連絡がある。
「もうすぐ修学旅行なのでグループを決めることになる。今のうちに6人グループを作っておけ。学級委員を中心にしてな。このクラスは運がいいことに男女半数ずつの上にちょうど3で割り切れる。3人ずつの男女グループになるように調整するように。この時間はグループを作ることに使うから、早く決まれば自由時間が増える。」
恵はそれを聞いて手を挙げる。鳴海教師は首をかしげて彼女を当てる。
「どうした?」
「私は修学旅行は欠席なので、実際にグループはどこか5人になると思いますけど。」
「いや、お前は参加だ。」
「は??」
恵は訳が分からず、思わず素の声が出る。
あまり目立たないように髪で目を隠し声もあまり荒げないようにして、さらに、顔を俯かせるのが通常状態なのだが、予想外の言葉に思わず顔をあげてしまう。
「西寺はちょっと別室で話そう。他は彼女も入れることを想定して話しておくように。西寺、今のうちに仲がいいやつに声をかけておけよ。」
・・・・・・・
教師が言うが、その言葉に恵は彼から悪意を向けられている気がする。
恵は顔ぶれが大きく変わったクラスで知り合いといえば、瑛斗ぐらいなのだが彼にも何も言わずに教師について教室を出る。
別にどうでもいいか。
恵の率直な感想はそれである。もともと、遠出したところで、彼女はパソコン1台持っていってホテルでゆっくりと過ごす予定だ。それに、電車での移動の場合、ほとんど行動は不可能になるのは恵が身をもってわかっている。2時間移動でさえ厳しいのだから、それ以上の移動距離がある場所だろう修学旅行はもたないだろう。
別室で恵と鳴海教師は向かい合う形で座る。
「西寺、お前が聞きたいことはわかっている。修学旅行用の積み立てのことだろう?」
「はい。私は一銭もお金を払っていませんよ。それなのに、どうして修学旅行に参加することになっているんですか?」
「知らないことは予想ついていたが、本当だったとは。」
「何ですか?」
恵の質問に鳴海教師は小声で言っていたために彼女は聞き返すが、彼はため息を吐くばかりだ。
「お前ではなくてお前の《《家族》》が払ったんだ。滞納した分を全て。」
「何となく私も予想していましたよ。そんな愉快なことをする人はこの世にあの人たちだけですからね。」
「だろうな。桜井っていう候補はなかったのか?」
鳴海教師は面白そうに尋ねる。それを恵は鼻で笑う。
「桜井さんはないです。絶対に。これだけは全財産賭けてもいいですよ。」
「なぜだ?」
恵の言い切りに鳴海教師は驚く。
「あの人はたいがいおかしいところがあります。」
「おいおい、そんな風に言ってやるなよ。お前がそれぐらい好きってことだろう?」
「いいえ、あれはそんな可愛いものではありません。」
「かわいいって、、高校生が言う言葉か?」
「まあ、実際あの人が高校生には見えませんからね。」
「それは、まあな。」
恵の言葉に鳴海教師は説得され苦笑する。
「それで、あの人は確かに色々とおかしいですが、私が嫌がることは絶対にしません。私は電車に酔います。それなのに、長時間移動がある修学旅行に行かせると思いますか?そんなことをしたら、私が憎悪を抱くことが分かっているのに。」
「それは、ないか。あいつは確かにお前と同じクラスになるためならどんなことでもしそうな勢いではあったが、修学旅行積立の件はノータッチだったな。」
「でしょうね。逆に、私の家族を名乗るあの人達はなぜか私が嫌がることばかりしますけど。」
「・・・・それは許してやれよ。お前たちは圧倒的に他の親子と違って会話が足りないし、過ごした時間も短い。だから、好きなことや嫌いなことがわからないんだからな。それと、お前が香港へ行って楽しそうに帰ってきたから旅行が好きだと思うって言っていたぞ。お前の《《父》》が。」
「そんな情報はいらないし、プライベートはないんですか?」
「あるだろう。それ以外知らない。それに、これは俺が聞いたんじゃない。」
じゃあ、誰が?
と心で疑問が浮かんだ恵だったが、すぐに彼の父親の立場を思い出す。だが、それほどに親しい仲だったとは彼女も知らなかった。仕事上の付き合いのみだと考えていたのだ。もし、立場を利用したなら職権乱用になる。
「乗り物酔いの件はわかった。そっちはこちらで考えてみる。だが、お前が参加する事実は変わりない。」
「そうですか。ところで、旅行先ってどこなんですか?しおりってもらいましたか?」
「お前、本当に興味ないんだな。」
「はい、とくには。」
「全く。しおりは先週渡した。旅行先は関西。京都と大阪で2泊3日。」
「関西、お好み焼きとたこ焼きですね。」
「べただな。そして、京都の要素が1つもないし、食べ物ばっかりだ。」
「それしか楽しみがありません。誰かとはしゃぐのは性に合いませんし。京都は抹茶しか思いつきませんでした。メインになるようなもので有名なものありました?」
「京料理。」
「うわ、さすが金持ちですね。」
恵は鳴海教師を茶化す。それに、彼は嫌な顔をせずに肩をすくめるのは大人の対応だ。全く乗ってこないので恵は早々に諦めて席を立つ。
「私はこれで失礼します。そろそろグループも決まっていると思いますから。」
「ああ、そうだな。俺も戻るか。」
時計を見れば、すでに30分は経過している。恵はまるで時間を見計らったようだと感心しつつも、教室に戻ると、そこは修羅場と化している。
中心になっているのは瑛斗とレイドリック、ではなく、2人を囲む女子と言い合いしている男子の計15人だ。傍観している控え目の男女はすでにグループが決まっているようだ。恵と鳴海教師が教室に入ると、一斉に注目を浴びる。
「何をしているんだ?」
鳴海教師は入ってそうそう呆れたように声をかけると、女子がわめきだす。
「先生、男子らがうちらと組みたくないって言うんです。」
「そうなんですよ。瑛斗君とレイドリック君がいるグループには入りたくないって。女子は3人決まっていて、男子はあと1人必要なのに、誰も入りたくないって言うんですよ。」
彼女たちの訴えは正当に聞こえる。
私も入りたくはないな。
恵は内心思う。
「俺も、そんなグループには入りたくないな。」
鳴海教師の一言に場が凍る。
恵は呆れながらもこの後どうなるのか見つつ、恵は自分のグループの確認をするために黒板に書かれているグループメンバー表を見る。
しかし、なんと、恵の名前はどこにも入っておらず7グループ作るのだが、4グループがすでにできているのに、彼女は属していない。
「ちなみに、西寺も行くからどこかのグループに入れてやれよ。桜井と仲がいいからそこに入れてやったらどうだ?」
「け・・・西さんは私と同じグループであることは決定ですね。なので、私が抜けますよ。レイドリックと他男子2名が入って女性が決まっている3名で同じグループになればよいかと思います。西さんと私と同じグループになりたいなら名前書いてください。」
「それはだめよ。だって、瑛斗君はいつもあの子と一緒じゃない。それじゃあ、きっと、瑛斗君が楽しめないわ。」
「そうよ。それに、もっと有意義に時間を使った方がいいわ。だって、彼女は成績も運動もあなたより下で親がえらいのか知らないけど、そんなのに瑛斗君が縛られているのは見ているこっちがつらいの。」
急に話題にされて貶されているのだが、恵は反論できない。確かに、彼より恵の方が能力は明らかに劣っている。半悪魔という時点ですでに彼はチートな存在だ。それに、彼が縛られているのは親ではなく、彼女の目だ。それ以外に何もない。本当なら目を義眼にしようかと考えているが、彼曰く、目は中の力が形となったものなので義眼にしたところでそれが何等かの形で外に現れてくる。
確かにほとんどあっているんだよね。
恵は納得する。
「私は別に空いているところ入りますよ。あと、グループを決めていただいてもグループ行動はしませんし、ホテルに引きこもり予定なのでそんなにグループを意識していただかなくても結構です。これについては許可をもらいますから。ということで、桜井さんは他の人とグループを作ってください。」
「西さん、そんな悲しいことを言わないでください。私は私の意思であなたのげ・・付き人になったんですから。別に縛られてもいませんし。」
「そうですか。それは今は関係ないと思いますが。さて、私は自分の席で本でも読んでいますから。どうか、話し合って決めてください。人数が足りないところに私が入ります。」
恵はそれだけ言って席で本を広げる。
彼女の言葉に何を思ったのか、騒いでいた男女は嘘のように静かになる。そして、それからすぐにメンバーが決まり、恵の名前は最後に入る。
瑛斗は強く望まなかったこともあったのか、恵は顔も知らないメンバーの中に放り込まれる形になる。
怖い、女子って。
まあ、何とかなるでしょう。
恵は何の確信材料もないが、不安ではなかった。




