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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
新たな付き添いは神様?
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91話

 夕食は続いていて、最後のデザートを選ぶことになる。


「奏さんたちは何がいいですか?」


 恵が尋ねると、彼らはなんでもいいと答える。

 大皿提供なので、杏仁豆腐とゴマ団子、マーラーカオの3種類から1つを選ぶことになり、恵に選択権が与えられてしまい戸惑っている。何しろ、彼女は外食をしたことがなく、今までしていても、誰かが選んだものを食べるだけだったからだ。

 選ぶことにつかれた恵はナプキンを1枚とってその近くに置いてあったボールペンを掴んで線をかいて、それら全てに3種類のデザート名を書く。


「恵さん、それってもしかして。」

「あみだくじに決まっています。これで、どれになっても恨みっこなしです。」


 奏の言葉を遮って恵は断言する。


「いや、恵さんが好きなものを頼んでくれればよかったんだけど。それにどれを頼んでも僕らは別に恨み言なんて言わないよ。」

「言うかもしれないじゃないですか。まだ、小さいころの話ですけど、”なんでもいい”って言った女性が男性の連れて行ったお店の前まで来たら、”いや”とか言って喧嘩していた場面を見たんです。つまり、”なんでもいい”とか”好きなの選んで”とかは相手が自分の好きなものを分かっているでしょ?っていう含みがあるんですよ。言われた方は恐怖心でいっぱいです。」


 恵の説明に少なからず説得力があったのか、3人は呆然とする。


「いや、確かにそういうことはあるかも。」

「そういうことはあるんです。それも頻繁です。」

「なんだか現実味がこもっていますね。」


 奏の言葉を遮ってでも断言する恵に瑛斗が苦笑して言う。


「もちろんです。その場面は1度や2度じゃなくて何度も見ましたし、テレビでもよく言っています。」

「そうですか。」

「恵、俺らは本当にデザートはなんでもよくてだな。」


 瑛斗から今度は白鳳が言う。恵はピシッと彼を指さす。


「ほら、そんな言葉が引き金になるんですよ。」

「いや、俺らはお前の好みを知りたいだけで。」

「好み?」


 白鳳から出てきた予想外の言葉に恵は首をかしげる。

 彼は一瞬しかめっ面をしたが、すぐに諦めたようにそれらを解いて体の力を抜く。


「俺らはお前の好みが知りたかったんだ。なんでも出されたものは食べていたから全く好き嫌いがわからなかった。」

「実際、好き嫌いなんてありません。そんなことをできるのは1歳児とか小さいころとお金に余裕がある人だけです。私はそうではありませんでしたから。」


・・・・・・・・・


 3人の空気が一気に暗くなり、3人とも顔を俯かせる。ただ、ここには空気を読めない人、人ではないが、が2名存在する。


『主は貧しいのか?』

『確かに、恵はそんなに裕福ではないな。服がお前らでいう1週間毎日同じ服だったからな。今では毎日違う服を着ることが多いが。』


 ・・・・・・


 2名の失礼な発言だが、恵は頷いてしまう。全く言い返せないほどに的を得た言葉だからだ。


「まあ、余裕はないけどそれなりにやれているレベルだけど。」

『そうなのか。私が金でもあげようか?』

「要らない。」


 甘い言葉をささやく神様は恵にとっては悪魔に見える。

 一生願いはしないと恵は固く心に誓うのだ。


 ガシャン


 そんな時にグラスが割れる音が店内に響く。

 大衆食堂というには少しリッチで落ち着いた店内には似つかわしくない物音に恵はそちらを見る。

 そこには、女性を肩に抱き座る男性、傍から見ればカップルに見える人たちが座っているテーブルの前に男性が立っている。その男性は怒りで何かを叫んで次から次へとテーブルの上に置かれた皿やグラスを割っている。全く意味が分からず恵はもう見ることも無駄に思えて料理を食べることにする。


「痴話げんかなら外でやってほしい。」


 恵はすでに冷めつつある料理を口に入れながらつぶやくと、奏が首を横に振る。


「いいえ、あれは痴話げんかではなく、おそらく騙された人が騙した人に詰め寄っているんです。」

「それは穏やかじゃない話だね。」

「よくあることだ。巻き込まれないように気をつけろよ。」


 奏の話で恵は怒鳴り散らす男性に同情するが、白鳳が忠告する。


「わかっていますよ。別に知り合いでもないんですから、話を聞くこともないです。」


 バンッ、ババンッ


 恵が肩をすくめた瞬間、耳に慣れない、でも、絶対に知っている音が響く。その瞬間、瑛斗が恵を抱きしめて耳を塞ぐ。


「恵さん、落ち着いてください。」


 耳を塞がれて全く聞こえない状態だが、不思議と彼の声だけは聞こえる。

 そして、聴覚はなくても感覚がすでにこの場の緊張感を痛いほど伝えてくる。その温度の低さとピリピリと電流が流れるような感覚で手足の動きが鈍い。

 恵は瑛斗に抱えられながら白鳳と奏とともに店から出ていく。


 店から少し離れた場所に出ると、夕食時の出店通りとは思えないほどに閑散としている。理由は先ほどのお店の周囲に人が集まっており、警察まで対処に来たからだ。恵たちが店から出るころには警察のサイレンが聞こえる程度であり店を出て離れるまでに人の群れをかき分ける必要があった。もし、瑛斗に抱えられていなかったら恵は確実に迷子だっただろう。今はすでに警察が突入のような様子だ。


「あの人、結構追い詰められていたんですね。」

「いや、騙した側が撃ったんだ。銃をな。」

「なんで?」


 恵は白鳳からの予想外の説明に驚く。

 彼は苦笑して肩をすくめる。


「この国ではよくあることだ。騙された側が撃たれてその銃は撃たれた側が握っていて自殺なんていきさつは。本当によく起こることだ。俺たちは表の世界にはあまり出ないが、俺たちとは別に裏の世界の住人はいるんだ。あの、騙した側は香港でも大きなそういう人たちのナンバー2だ。誰も証言はできない。」

「サスペンスみたいですね。」


 白鳳の言葉に恵は感心するのと同時に胸が高鳴る気がする。

 それを察知したかのように下ろされた恵の両肩に背後から手をのせられる。恵はビクッとなって見上げると瑛斗が良い笑顔で見下ろす。


「だめですからね。」

「わかっていますよ。そういう人たちと関わることはないって言ったじゃないですか。」

「そうですか。あと、あの人たちを見たら絶対に近づかないようにしてください。あなたはかわいいんですから。」

「かわいい?お世辞ですか?」

「いい加減に自覚してください。」


 瑛斗は呆れているようだが、恵にはお世辞にしか聞こえない。今は黒のサングラスをつけているからわからないが、彼女の瞳は特別性なので、人が恐怖することがあるのだ。それも、髪型は前髪を括って後ろに止めているので顔は丸見えだ。


「大丈夫ですよ。」


 恵は自信満々で言うのだが、3人はジト目で見てくる。


『主は美人なのに。』

『なんでこんなに評価が低いんだ?俺だったら喉から手が出るほどなのに。』


 人ではないもの2名が言い合う。


 いや、クモさん、それはどういう意味で??


 恵は内心突っ込みつつも、4人で静かに去る。

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