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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
新たな付き添いは神様?
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90話

 恵は老人の言うことを無視できず、キャリーケースの奥深くにいる神石を取りに戻る。


「今更思ったんですが、こういうのを大切に扱おうと思ったら、どこか専門的な人に預けるのが一番だと思うんです。」


 夕食を食べながら彼女が言うと、3人が微妙な顔をし、白鳳が苦笑いをする。


「いや、ただの石だったらそんなこともないが、これはそれ以上の価値があるからな。そういうのを扱おうなんて奇特なやつはいない。選んだ奴以外にとっては呪い以外の何物にもなりはしないからな。」

「いや、選んだ人と作った人の両方だと思うんですけど。」


 どうしても手放したい恵は考える。


「恵さんはそれを捨てたいんですか?」

「捨てるっていうか、やっぱりあの老人に返したいです。」

「そうなんですね。でも、あの老人の口調からして受け取らなそうですけど。」

「そうですよね。」


 なんの結論も出ずに、白鳳と奏に諭されてしまう。


 結局そうなってしまうのかな。


 恵はため息を吐く。


「では、恵さんがその石に恵さんの願いを言っておけばいいのでは?」


 そこに瑛斗が助言をする。その意図がわからず恵は彼を見て首をかしげる。それに苦笑した彼は続ける。


「例えば、恵さんが”手出し無用”とか、”今後一切干渉するな”とか約束させておけば、たとえ恵さんが何かを願ってしまったとしてもそれよりも約束の方が強く働いてくれるかもしれません。”約束”と”願い”では重みが違いますから。」

「なるほど。それだと、ただのネックレスになってくれるかもしれないってことですね?」

「そういうことです。」


 恵は手を叩いて瑛斗の助言を受け入れる。

 そして、さっそくテーブルの上に置いたネックレスの石に向かって約束をする。


「今後私が迷子以外の時は手出ししないことを約束してください。私はよく迷子になるので、その時だけ助けてくれるだけで十分です。」


 恵がそう言った瞬間、石が強い光を放つ。

 その眩しさに目を閉じる。


『恵、恵』


 クモさんの声で目をゆっくりと開ける恵の視界が最初にとらえたのは女か男か判別のつかない長い白髪で白い袴を着た浮世離れした人だ。その人はテーブルの上に立っているのに、恵を含めた4人以外は全く気が付かないのか変わらずに話に花を咲かせる声が溢れている。


「恵さん、これはまたすごいものを出しましたね。」

「いや、私に言われても。」


 恵は瑛斗の呆れる声に苦笑しか出ない。彼女には選択権などなかったのだからそんなふうに言われる筋合いはないのだ。恵の前に3人が立ち恵を守るようにしている。


『あれは神でも最上と言われる存在だ。おそらくこの天と地を作ったと言われる最初の神で盤古、もしくはそれに近い存在だ。』


 クモさんが言う。

 その言葉に3人がびくっと肩を震わせるのを恵は見る。半悪魔という奇特な存在で数十年は生きているだろう瑛斗でも数千年前の神様には恐れはあるようだ。


「神様、なんでしょうか?」


 恵は異国の神様なのだが、不幸なことに恵にはこの国の言葉がつかえず通じないかもしれないと思いながらも自分の国の言葉で話しかける。

 その絶世の美貌の持ち主はゆっくりと目を開く。その目は金色に輝いている。


『ううっ、うっ』


 その美貌にだんだん慣れるほどに彼の反応は遅かったのだが、急に眼に手を当ててメソメソとしだした時には驚いて恵は動けない。良い年齢に見える大人の人が急に泣き出せば誰だって呆然とするだろう。


「あ、あの。」

「恵さん、近づかないでください。不審者ですから。」


 恵はだんだん面倒に思えて声をかけようとすると、瑛斗が良い笑顔をこちらに向けながら言う。容赦ないその言葉に恵は先ほどまで感じていただろう畏怖はどこいったのかと呆れる。


「いや、そうは言っても、彼にどいてもらわないと食事ができませんし。」


 テーブルの上にはまだ湯気が上がっている料理が並んでおり、その料理は避けているがちょうど恵が座っていた椅子の前に腰かけている形でその人は座っているので続きができない。

 瑛斗は急にその顔を押えている人に近づく。


 ボカっボカカっ


 一切の容赦なく頭を殴り、彼の首根っこを引っ張ってテーブルの上から下ろす。それもぞんざいにする。しかし、やられている方は全く痛みを感じていないのかやられっぱなしなのだ。


「あの、ごめんなさい。」


 恵はさすがに可哀そうになり、床に座っている人に軽く謝る。

 すると、彼は急に顔をあげて捨てられた犬のような顔でこちらを見てくるので、恵は顔をそらして椅子に座る。


『主は私が必要ないのですか?』


 彼は諦めが悪いのか、椅子に座り料理を食べる恵の隣に手をついて上目遣いをしてくる。顔が整っているだけにその目は恵にとっては毒だ。初対面で家に上がり込んだ瑛斗と行動が重なっていて彼女は思わず瑛斗の方を見る。


「何ですか?」

「いえ、年を重ねると人は同じ行動をするんだな、と。」

「・・・・私はここまで粘着ではありませんでした。」

「え?あれだけ粘っておいて、ですか?」


 彼は罰が悪そうな顔をしてプイッとそっぽを向く。


 よっしゃ、勝った。


 別に勝敗がどうなろうと知ったことではないだろうが、こういう時は彼女は嬉しくなる。

 そんな喜びも左手に感じる手のような感触で冷める。恵はゆっくりとそちらを見ると、その人は涙を流しながら恵を見上げている。


『主、そいつと仲良くしてはいけない。そいつと仲良くするぐらいなら私と仲良くしてください。』


 彼は急に瑛斗に敵対意識を燃やしたようで、彼が瑛斗を睨んでいる。しかし、瑛斗は余裕な顔をしてそれを流し鼻で笑うのだ。


 どうでもいいけど、私を挟んで言い争いをしないでほしい。


 恵は先ほどから箸で掴んでいるシュウマイをいつまでも口に持っていけないながらも、それを離さないように何とか手をプルプルさせながらも保っているのだ。

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