88話
香港に来て2日目、恵は奏と瑛斗、白鳳とともに商店街に行くことにする。理由はいろいろあるが、まず乗り物に耐性がなくすぐに気分を悪くする恵のために歩いて見れる場所で、恵がお土産のことを口にしたからだ。今回、旅行代はタダなのだが、お小遣いは佐久良家が援助してくれるお金を使っている。だから、その恩返しとして恵はお土産を買っていくことは最初から頭にあったのだ。
白鳳に提案されて一行は商店街に入る。朝から人が多く出ているが、道を歩けないほどではないので並んで歩く。本当は集合場所と時間を決めて自由時間にしようと恵が提案したのだが、彼女自身の方向音痴の強烈さは3名の知るところなのですぐに却下されてしまい、結局、4人で行動することになった。
「奏さん、佐久良家の皆さんは何が好きですか?」
「そうだね。お茶とかがいいかも。いろいろブレンドもしてくれる。」
「そうなんですね。でも、それだと好みがわかれるから私には選べません。」
恵は歩きながら話していくうちに悩みが深くなりドツボにはまっていく感覚になる。そして、気づいたら周囲に3人の姿がなく、恵は首をかしげる。悩んでいるうちに人に流されて彼らと離れてしまったようで、彼女はとりあえず一歩人の流れから出ようとする。しかし、時間が経ったことで人の群れが多くなってしまい、恵が行こうとする方向には行けず、どんどん人が進む方向に向かう。
「これって終着点まで行けば出られるのかな?」
恵は流れに逆らうことを止めて人が流れるままに流れてみることにする。
そうして、やっと人が途中で二手に分かれてくれたことで脇に逸れた恵は胸をなでおろし、横を見ると小さな石がついたネックレスの露店が開かれており、そこには丸いつばの帽子をかぶった老人が店番をしている。
その老人に話しかけたいのだが、中国語が話せない恵は何と声をかけていいかもわからず彼の方を見ていると、その老人の方からアクションがある。
彼はスッと前に置いてあっただろう杖を恵に向けて来る。そこには、売り物と同様の小さく、しかし光沢があり深い青色の石がついたネックレスがかけられている。
「これを受け取れってこと?」
恵はなんとなくだがそれを取ると、今度は老人はかぶっていた帽子のへこんでいる方を向けてくる。何事かと思ってみれば、杖で並んでいる商品の横に立てかけられている板を指している。そこには、値段が書かれており料金を請求されているらしい。
恵はその金額を払って
「ありがとうございました。」
と言って、そそくさと離れる。
異国には無償の優しさなんてないことを学んだ。
離れたのはいいのだが、恵は迷子なので道を聞かないとどうしようもない。
「誰か教えてくれる人いないかな。警察とかに行く?でも、そこでもお金を取られたらどうしよう。」
恵はお金の確認のためカバンの中にある財布をこそっとそのまま覗き見て考え、警察も行くのを止め、とりあえず来た道を戻ることにする。
それから、戻ってみたのだが、見た覚えのない建物が並んでいる場所に出てきてしまい、彼女は戸惑う。
「うーん、これはまずいかな。」
道の両脇にはホームレスのような人たちが座り込んでいて、明らかにまずい状況ではあるのだが、これほどに恵自身が危機感を覚えていないのは、彼女が歩いている道にもそういう人は少なからずいたからだ。
「携帯とか通じるのかな?」
恵はカバンから携帯を出したが、そこには、海外だからか携帯料金の表示があり、訳が分からないので携帯の電源を落としてしまう。怖いものには触らない主義だ。そうでなければ、首を突っ込まないで良い問題に自分から突っ込む形になるからだ。
「携帯もだめ。地図はまず持っていない。さて、どうしよう。」
恵は暗い道の真ん中で立ち止まり腕を組もうとしたら、手に固い感触が当たる。そこには先ほど成り行きで買ってしまったネックレスがあり、小さな石がわずかに光っているように見える。もともと光沢がある石だったので錯覚かもしれないのだが、それを見ているだけで希望が見える。
試しに恵はその石を前後左右に向けてみると、それぞれで光が違うのだ。それも太陽の光による変化かと思ったのだが、そこはもともと日陰なのでどこに向けてもそんなに大きな変化にはならないはずだと彼女の中で結論が出る。そして、彼女は信じてみることにする。
「あ、いた。」
恵は瑛斗と白鳳の姿を見つける。
その場所の方に石を向けると強く今までにないほどに輝く。しかし、不思議なことに恵は眩しさに目を細めるが、他に道を歩いている人でそれに注目した人はいないようだ。
「恵!」「恵さん!」
恵が首をかしげていると向こうも気づいたようで2人と一緒にいた奏もやってくる。3人が心配したようで安堵と少し怒っているような感じだ。
「なんでいないんだよ!心配しただろう!?」
白鳳が言葉でそれを代弁し恵を抱きしめる。
それに苦しさはもちろんあったが、恵は大人しく彼の腕の中にいる。
しかし、その温かさがなくなると瑛斗が冷たい笑みを浮かべて正論で攻撃を開始する。恵は悩んでいてはぐれたことは事実なので、黙ってそれを聞き続ける。




