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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
新たな付き添いは神様?
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87話

 車が着いたのは、佐久良家とは違う趣の竜の彫刻がされた赤い門をくぐりぬけ、すでに玄関前に立っている人の前だ。1人は見たことがある女性でもう1人は老人だ。佐久良家の祖母に似ていると恵は感じる。

 彼が祖母の兄にあたる人物なのだろう。お尻まで伸ばした白髪を1つに結び、着物とはまた違うはそれに類似したゆったりとした装いをする。これで羽の扇でも持っていれば中国の歴史に出てくるしょくの軍師のようだ、と恵は思う。


「奏さん、なんかすごい仰々しい場所に来てしまいましたね。」

「・・・そうだね。でも、いつまでも降りないのは失礼かな。」


 車が止まってから降りようとせず、彼らとは反対方向の奏を見て耐久していた恵も奏に注意されてしまい仕方なく降りる。車から降りて彼らの端に立つと一斉に立って待っていた人物2人とその後ろに控えている黒服の人たちから視線をもらい、恵は二歩ほど下がる。

 それを追いかけるように即座に距離を詰めて恵の前に立つのは李家の前当主である、李伯淳だ。彼は目を細めて優しげに恵を見つめる。


「恵と言ったかな?」


 日本語で彼は尋ねる。


「はい、西寺恵です。どうも初めまして。」

「ああ、初めまして。私は李伯淳。ここにいる李白鳳の祖父で君にとっては大伯父だ。」


 恵が手を出すと彼は両手で彼女の手を包みこむ。


「白鳳とは仲良くしてもらっているようで、私は嬉しいよ。」

「いいえ、白鳳さんとは仲良くありません。」


 恵は違うことはきっぱり言うことにしている。これは佐久良家に来てから身についたことだ。そうでなければ、話は彼らが得をする方に動き、それはだいたい恵が望まない結果を生み出す。

 恵が言った瞬間、外部は凍り付き、白鳳は困ったように笑顔を浮かべて頬をかく。


「そうか。白鳳は迷惑をかけているのか?」

「いいえ、関わりがそもそもありませんから。どちらでもありません。」

「そ、そうか。それでも、瑛斗とは色々とあったと聞いたよ。」

「そうですね。桜井さんはとてもよくしてもらっています。」


 恵が最後にそう言うと、目の前の男性は胸をなでおろしたようだ。


「色々と話を聞きたいので昼食を準備したんだ。いいかな?」

「はい。先ほど白鳳さんから聞きました。」

「そうか。じゃあ、行こうか。その際、席には他に数名着くんだ。それでもいいかな?」

「大勢で食事はあまり慣れていませんので、できればテーブルを分けてもらえると嬉しいです。私と奏さんと桜井さんの食卓にしていただけますか?」

「ああ。こちらの配慮が足らなくてすまない。何しろ、みんな君に会いたがっているんだ。孫たちもね。」

「孫たち??」


 不穏な言葉に恵は反応する。

 それを知ってか知らずか、白鳳は言いにくそうに言う。


「俺は当主の息子で1人だが、俺の母は5人兄弟で、上に4人の兄がいてそれぞれに子供がいる。12人の従兄弟がいるってことだ。」


 それは恵にとって歓迎できるものではなく、思わず心から気持ち悪くなる。

 佐久良家で過ごした年末年始の際、本家である祖父母と父と継母と奏はもちろん、分家となる人たちが集まって3日間宴会が開かれたときのことが思い出される。恵は自分でおせちやおそばを作ったので1人で過ごそうかと考えていたのだが、継母に誘われて晴れ着を着せられて、その会場に連れ出された結果、あらゆる子供たち、一度見たことがある人からさっぱり記憶にない人たちまで挨拶をさせられた。その時、あまりの多さに気持ち悪くなりすぐに席を立ち、それから30分は寝込んでいたのだ。それから、恵への接近に関しては制限されることになったので、あれ以来、恵は体調を崩すことがなかった。


「恵さん、大丈夫ですか?」

「一気に大丈夫じゃなくなった。」


 気づかないうちに隣に立った瑛斗は恵を心配して彼女の背中をさする。


「そんなにダメかな?年が近い方が話が弾むと思ったんだが。」


 恵の反応に伯淳はオロオロとうろたえて恵から手を放し、すぐ近くに立つ娘であり当主の李英蘭を見る。彼女はおっとりとほほ笑み恵の近くに立つ。


「恵さん、あの子たちにはむやみに近づかないように無礼のないよう接するようにちょ・・・言いつけてありますので、気を楽にして食事を楽しんでください。気心が知れたもので摂った方が十分味わえるでしょう。」

「ありがとうございます。」


 まさに天の助けのような一言に恵は感謝する。


「桜井さんと奏さんが先に歩いてください。私は一番後ろからついていきます。」

「いえ、あなたは真ん中です。最後尾は私が歩きますよ。」


 家の中を歩く際、恵は全員に前を譲る。それは傍で控える黒服たちも例外ではない。こんな中歩くなんて恵には耐えられそうにないが、瑛斗は最後尾を決して譲らない。こうなった時に彼が一歩も引かないことを知っているので、恵が下がる。


「わかりました。じゃあ、私は奏と桜井さんの間を歩きますね。」


 恵は彼ら2人に挟まれる形で廊下を歩く。

 日本とは違って色んな骨董品や竜の置物なんかが飾られたり、絵が飾られたりしていて趣が異なる。一言で言うと華美だ。


 食事をする場所は広い場所なのか幅の広い扉につくと黒服2人が開ける。

 中から席を立つ音が聞こえたので、恵は奏の背中越しに覗くと何かのお祝いかと勘違いするほどに正装だと思われる服装の男女の大人子供が立って顔を下げている。


『あなた、英蘭、招集した者みんな揃いました。』


 扉の傍に立ち伯淳の傍に立ったのは白髪で紺色の着物に似た装いの女性だ。

 彼女から発せられたのは中国語なので、恵には何を言っているのかわからずに首をかしげる。


『ああ。だが、俺はやりすぎたようで、姫は大勢の食事は苦手だそうだ。』

『そうですか。だから、テーブルを新たに用意したのね。』

『ああ。』


 恵には何を言っているのかわからないが、伯淳と話しているのは彼の妻であることは何となくわかる。


「奏さんは中国語わかりますか?」

「うん、僕はよく遊びに来ていたから。」

「そうなんですね。」


 恵は前に立つ奏に確認すると、彼はこともなげに言う。恵は彼が高校に通っていないことは知っていたが、英語が堪能であることは何となく察しているし、頭も恵以上に良いことも察していたのだが、中国語までできるなんて知らなかった。彼の勤勉さがうかがえる。


「そういえば、私たちのテーブルだろう席はなんであんなに部屋の真ん中なんですかね?」

「・・・さあ、なんでだろうね?」


 部屋には9つの丸テーブルがあるのだが、なぜか、3人用のテーブルが真ん中に置かれていて、4つずつ左右に少し膨らんだ形で置かれているのだ。それには首をかしげて恵が尋ねたが、奏は答えない。


「恵さんの顔が全員に見えるようにです。李家は男児家系なので女児が生まれると、彼女たちは一族にお披露目されますから。あなたの祖母である藍蘭様もこちらに来られた際は同じように歓待されますよ。」

「そうなんですね。」


 戸惑う彼とは違い後ろに立つ瑛斗から説明され、恵は納得する。確かに子供に属する顔ぶれの中に女児がいないことは一目瞭然だ。


「こんな扱いを受けていたらダメになっていくのが目に見えますね。私の姉にあたる人とか。」


 恵が何となく話題に出すと、瑛斗が珍しく言葉に詰まる。恵の声は大きく響いたようで、部屋の温度が何度か下がった気がして、恵は己の失態に気づく。

 だが、佐久良家で過ごしていれば、何となく自分の母親や姉の悪い噂はとてもよく耳にして、正月の時も来ていた秋生と誠秀に何となく話題に出せば周囲が固まっていた。


「彼女はこちらに来たことはありません。彼女には異能がなかったことと、李家に彼女の母親が関わらせようとはしなかったんです。」

「そうなんですね。」


 これ以上話題に出せばこちらが凍る。と身の危険を感じた恵はもう口を開かない。


 恵たちはテーブルに案内され、伯淳の声で乾杯する。

 恵に配られたのはオレンジジュースで、奏や瑛斗にも同じものが配られ、他のテーブルはお酒のようで液体の中で泡が上がっている。


 恵は初めての本場の中華の味に酔いしれる。

 辛味もうまみとはよく言ったもので、恵はその辛さの虜になる。


 おいしい時間はあっという間に過ぎて、宴会のように左右のテーブルは騒がしい。白鳳を含めて4名の李家はテーブルを回りながら異国の言葉で盛り上がる。

 わからない恵にとっては興味がなく、奏たちと今後の予定を話し合っていたのだが、そこにまだ4歳ぐらいの少年が入ってくる。彼は奏と恵の間に入り恵の方をじっと見ている。


「どうしたの?」


 恵は尋ねるが、彼には通じないのか首をかしげる。中国語がわからず奏に目配せすると彼は肩を叩いて注意を向ける。


『ここに来たらダメだと言われなかった?』

『うん。でも、お話したい。』

『彼女は言葉がわからないからできないよ。』

『どうして?僕たちが嫌いなの?』

『そうじゃない。違う国で生まれて生きてきたから言葉が違うんだ。わかる?』

『僕、お話したい。』

『うーん、日本語わかる?』

『うん。』


 何かしらの決着がついたのか、少し間があいて、彼は小さな体をクルッと回して恵を見る。


「コンニチハ。」


 舌足らずだが、とてもかわいい声に恵は心を和まされる。


「こんにちは。お名前は?私は恵。」

「武威。」

「武威。とてもいい名前。」

「うれしい。」


 彼はにっこりと笑うので、恵は彼の頭をなでる。その瞬間、今まで騒々しかった空間が静まる。それに反応した恵はすぐに手をどけて奏の顔をうかがう。


「大丈夫です。ただ、みんなは恵さんが親しげに接してくれるので驚いただけですよ。」

「よかったです。失礼をしてしまったのかと。」

「シツレイ?」


 幼い少年が反応するので、恵はなんでもないと首を横に振る。

 いつまでも小さな子供に立たせているのも気が引けるので恵は立ち上がって椅子に座らせるが、彼はすぐに降りてしまう。


「いいよ。座ってて。」

「ううん、座るの。」


 彼は恵には座っててほしいようだが、恵としてはそれでは引け目があって話をしていられない。その時、控えていたのか黒服の人が椅子を持ってきてくれる。


「ありがとうございます。」


 恵が言うと、意味が伝わったのか彼は首を横に振る。それに少年はおとなしく座り恵と向かい合って話す。

 といっても、簡単な内容で好きな食べ物がぐらいが限度だ。ちょうど持ってきていたルーズリーフとペンを使って書いて彼に伝える。絵が得意なことがこんな場所で生きるとは思わず、終わりに彼から絵を強請られたので彼が好きな犬の絵と他にその時に書いた絵も全て渡す。


「アリガトウ。」


 幼い少年は手を振って親だろう人たちのもとに帰る。


「恵さんは子供が好きなんだね。」

「わかりません。でも、小さな子供を邪険にしようなんて人はいないと思います。」

「それもそうだね。」


 奏に尋ねられたが恵は一般論として述べる。自分でもよくわからない。今まで子供と話したことなど、あの宴会ぐらいだろう。あれぐらいの子供と関わろうと思ったら下の兄弟やこういう親類が集まる場所ぐらいだから。


 結局、少年と話していて恵たちの今後の予定は決まらず、白鳳の運転で彼が気に入っている場所に案内してもらうことになる。


 色々と回る前にチェックインしたホテルに観光の後に戻る頃にはクタクタで風呂に入って寝てしまい、夜景を楽しむどころではなかった。

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