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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
飼い主に動物が残したもの
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79話

 戦闘している側は恵と誠秀に気づいていないのか、公園の入り口前に立った彼女たちに秋生と鳴海刑事に向いている突風が来ることはない。


 かまいたちが姿を現す方法ってどんなもの?


 車からはわからなかったが、絶え間なく風が吹いていて秋生が張っている結界の大きさがその風とのぶつかりで見える。空間の遮断をしている境界線が浮かび上がるのだ。そして、その風圧は離れている恵も目を開けていられないので、結界があるからといって標的になっている2人にはどれくらいの力がかかっているのかと恵は考える

 誠秀はかまいたちの姿を現させる方法を知っているようで、恵の前に立ち風よけになると大きく息を吸い、


「なんてひ弱な攻撃だろう。」


 と叫んだ。


 え?何言ってんの!?

 ねえ、そんな場面じゃなかったよね。

 こんなんじゃ、自ら場所を教えているようなものだよ。


 恵は彼の洋服を軽く引っ張って教えようとしたのだが、誠秀は気づいていないようでまだまだ続く。


「こんなのが、人から同類に扱われるものの攻撃なんて嫌だな。ああ、お前は力がほとんどないんだな。こんな人間2人を簡単にあしらえず、プライドだけは一丁前なんて悪役にしても実力不足だよ。本当に笑える。」

『何を言うんだ!我はかまいたちの中でも最も力の強い種の主だぞ!!』


 誠秀の怒涛の悪口に耐え兼ねたように彼の目の前に現れたのは、ネズミの体に手がかまになっている姿をしたものだ。


 これが、かまいたち


 恵はすぐにわかり、風がやんだからか秋生は結界を解いて鳴海刑事とともに恵たちのほうに向かってくる。

 かまいたちは誠秀に向かって小さな体をいっぱいに使って話しているが、正直言われている彼の方はまったく聞いておらず、彼は恵に向かってピースサインを送る。


 ほら見てた?成功したよね。


 なんて、得意げに彼は笑っている。

 怒りで冷静な判断ができなくなったかまいたちの首を秋生がキュッと片手で絞めるように握る。


『「ぐあ」』


 しかし、その瞬間、かまいたちだけでなく何の被害も受けていないはずの背後の少女のボーイッシュの方が同じように苦しい声をあげて、彼女は地面に倒れてしまうそれに慌てて鳴海刑事と恵が駆け寄ると、彼女はかまいたちと同じ首を押えているのがわかる。


「大丈夫?痛いの?」


 ふわふわ少女が彼女に声をかけていて不安でたまらないといったように泣きそうになっている。ボーイッシュな子はそんな彼女を見る余裕もなくもがいている。秋生はすぐに手の力を緩めると、彼女はゲホゲホと咳き込みながらもなんとか呼吸ができるようになる。

 鳴海刑事の元にかまいたちを持った秋生と誠秀がやってきて集まり3人は一様に顔をしかめている。


「厄介だな。よくこんなに入れ込むことができたな。」

「秋生、なんとかできないか?」

「縁を切るしかないが、両者が望まないと無理なんだ。」

「かまいたちは縁を切る気はないよ。多分。」

『もちろんだ。そして、その子供も決して我を手放せない。』


 自信ありげなかまいたちに3人はため息を吐く。


「まさか、家族の子供が主犯だったとは思わなかったな。それも、けがをした児童がいる小学校の学生だったなんて。」

「御影、勉強になってよかったじゃないか。事件が起きたらまずは第一発見者と家族を疑え、だ。」

「お前がそれを言うと怖い。じゃあ、佐久良家で事件があればお前を真っ先に疑うことになるな。」

「ああ、あの家をどうにかできる人物なんて俺ぐらいだからな。」


 今、聞いてはいけない言葉が聞こえた気がする。


 恵はもう耳を塞いで少女2人を見下ろすのではなく、ここに存在していることが不思議なもう1匹の方に近寄る。膝を折ったりはせずに立ったまま、それに話しかける。


「犬さんはかまいたちのことを知っていたのですか?」


 恵が尋ねると、黒い犬は顔を向けてくる。その犬はかまいたちのように話せないようだが、瞬きをするので肯定の意で受け取る。


「そうなんだ。じゃあ、足にまとわりついていたのは主であるその子を守るためだったの?けがをしているようだけど。」


 甘えていたように見えた犬が少女に頬ずりしていた行動は、傍目からそう見えただけで実際は主がそれ以上近づかないようにしていただけだ。犬にはそのボーイッシュな少女が危険な人物だと認識できていた。たとえ、主であるふわふわ少女がそれに気づいてくれなくても必死に訴えていたのだ。

 そして、恵は近づいて初めて犬の足が切れていることを知る。何か刃物で切ったような刺し傷に犯人はすぐにわかる。


「あれと戦ったことがあるんだね。主のために。」


 恵は犬の頭をなでてやると、犬は瞬きをして自分に気づいていない傷ついたボーイッシュな少女の背中をさすって心配しているふわふわ少女を見ている。その犬の目はとても切なげに見える。


『狗神付きの子供に嫉妬した哀れな子供だからな。まあ、そのおかげで我も力をもらいやすかった。最後にギリギリまで血をもらえばよかったな。』


 犬に集中していたので会話についていけないが、かまいたちはそう言うと体全体が赤くなる。それと同時に、ボーイッシュな少女が背をそらせて声にならない悲鳴を上げ目から涙を流す。彼女とかまいたちの反応が連動しているように見える。

 かまいたちの色がだんだん濃くなっていくのを見て「逃げろ!」と合図した秋生がかまいたちを宙高く投げる。恵は誠秀に腕を引かれて車のところまで行き、少女2人は鳴海刑事が保護する。しかし、犬はただそこに残っている。もう動くことすらできないほどに犬、狗神の体は限界なのだろう。

 かまいたちが地面につく数メートルの高さで木端微塵になり、そのかけらが降り恵たちに向かって降ってくると思いきや、同時に狗神の体が光って消滅し、その粒子が結界となりそれらを全てかき消す。


「きれいな光。」


 鳴海刑事が連れてきたふわふわ少女がつぶやく。


 その粒子が1つ少女の手の中にくると、その粒子は一層輝きを増して何かを映し出す。そこには少女と少女に似た女性、そして、若い男性だ。これは狗神が見てきた記憶でその幸せそうに笑う3人は家族だ。


 狗神の願いはきっとこれだったのだろう。

 彼は最後まで願いを叶えていたのだ。


 そして、最期に狗神は自分の本当の願いを叶える。

 そこから伝わる何かがあったのか、ふわふわ少女は泣いている。

 そして、彼女は、


「ありがとう。」


 とつぶやき、その光が消えるまで抱きしめる。

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