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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
飼い主に動物が残したもの
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78話

 あれから1週間かかさず、鳴海御影刑事はこの家を訪れて秋生の説得を試みている彼が首を縦に振らないところを覗き見ていると、それは失敗に終わっているようで、最終的には秋生の携帯が鳴る。


「クソ親父、なんだ?」


 最初に会った時とは口調だけ聞くと別人に思うほどに、秋生の口の悪さは鳴海教師に負けていない。双子であるはずの鳴海刑事はその点比べればまだまだマシな方だ。数分言いあいをした結果、秋生は渋々鳴海刑事からの依頼を受けることにする。やっぱり親には勝てないようで、まさに鶴の一声というやつだ。


 そして、依頼を受けたのは秋生のはずなのに、ちょうど家にいた恵と誠秀は秋生に腕をつかまれて連れ出され4人で4人乗りの車に乗せられる。後部座席に乗せられた2人は顔を見合わせて首をかしげてしまう。彼らは行先もわからないし、平日の夕方で明日もお互い学校がある身だ。


「刑事さん、僕らは明日学校があるんですが。」

「ああ、それなら問題ないよ。秋生がその気になれば今日中に帰れるから。」


 ”帰れる”って何?

 え?そんなに大がかりなの!?


 恵は初めて聞く事実に驚く。この状況にした当の本人は助手席で窓を眺めて知らないふりをしている。その態度に温和な誠秀も少し苛ついているようだ。


「僕らはなんで来たんですか?」

「秋生が連れてきたから。それ以外に理由はないよ。大丈夫、秋生が探知で見つけてさえくれれば、僕がやっつけてやるから心配要らない。君たちは安全な車の中で待っていて。」


 運転しながらも鳴海刑事は余裕な表情で自信をもって言う。その言葉に恵は不安を募らせる。


「じゃあ、僕らは必要ありませんよね?」

「たぶん。秋生が君たちがいないとやらないって言うんだ。」


 全て秋生が悪いことに彼はしたいようだ。恵と誠秀はため息を吐き、秋生の指示で車の動向を見守る。


 車が止まったのは遊具がブランコと滑り台というシンプルな公園だ。下が砂場になっていて小さな子供が転んでも大きなけがにはならない。しかし、すでに日が暮れ始めているので、人の姿はなく恵は首をかしげる。


「ここに居るんですか?」

「さあ、僕には何とも。ただ、秋生は探知も攻撃も防御もこなす人で、探知も相当高いからハズレはないと思う。昔、僕が失くした財布を見つけてくれたし。」


 誠秀は嬉しそうに顔をほころばせて財布を見せる。


 いや、そんな普通の落とし物と比べられても困るんだけど。


 恵は彼に内心呆れるが、「良かったですね。」なんて言ってみる。彼は嬉しいのか満面の笑みを浮かべる。


「来た。」


 その時、秋生の声に恵と誠秀はそのまま公園に横付けした車の中で待機、2人が同時に車から出る。彼らが向かう公園の方を見ると、公園の裏道があったのか、横切るようにやってきたのは、公園で遊ぶには少し年齢が高いような少女2人だ。小学校の制服を着ており、高学年だろう。前を歩く少女に手を引かれて泣いている少女前を歩く少女は髪が短くズボンとコートを着て運動系活発に見え、手を引かれている少女は長い髪でふわふわの膝丈ぐらいあるロングコートでインドア系に見える。


「正反対の2人ですね。」

「そうだね。でも、ああいう方が友情ってうまくいくんじゃないの?」

「さあ、女性は自分と同じ人じゃないと嫌悪感で仲間外れにするらしいですけど。」

「そうなんだ。恵もそうなった経験があったりする?」


 車の窓越しに見ながら恵は誠秀からの問いに黙る。

 正確に言えば、恵は全員に嫌われていたのか、遠巻きにされていた。目を隠すために今でも前髪は目の半分が隠れるほどで、かけていく眼鏡のレンズは少し色が入っていて通してみると黒に見えるようになる。だから、小学校や中学校のように、高校では誰も避けない。


 私はきっと寂しかった。


 恵はやっと自分の思いに気づく。

 気づいたからといって、別に彼女の行動が変わるわけではない。ただ、あの時の自分の本当の気持ちを認めることが大切だ。今は、恵を気にかけてくれる存在が少なからずいるのだから、彼女は安堵する。

 少しだけ昔に浸っていて誠秀を放置していたので、不思議そうにする彼に詫びる。


「なんでもないです。私はそんなことに遭う前に、もう期待もしていませんでした。」

「そうなんだ。僕は学校に行くことさえできなかったから、聞かせてくれるのは嬉しいよ。それがどんなものでも。」

「それは生まれが原因なんですか?」

「そうだね。僕の親は隠れて住むことを好んだから。人とは壁をして距離をとって鬼だけの場所で生きて、変化を好まない。」

「そうですか。私もあなたのお話なら聞きたいです。」

「ありがとう。」


 誠秀はゆっくりと恵の背後から抱きしめる。彼の体温は人と変わらない。


「あ、声をかけてますね。」

「本当だね。秋生は子供得意じゃないから泣かせていないといいな。」

「そうなんですか?」

「そう。子供が嫌いってわけじゃないんだけど、どう扱っていいかわからないんだって。いつも周りにいたのは自分より年上の人ばかりだったから。」

「なるほど。私なんて周囲に人がいたことがないので、年上でも年下でも同い年でも付き合い方なんて知りませんけど。」

「そうなんだ。でも、普通だよ。僕らといるとき。」

「それはよかった・・・あ、なんか攻撃受けていませんか??」


 恵が指した方を誠秀も見る。

 少女2人に声をかけていたはずの秋生と鳴海刑事が彼女たちから距離をとって腕で顔をガードしているように見える。


「本当だ。あれはかまいたちかな。少女のもう1人のほうには犬だね。すごい、狗神なんて初めて見たよ。」


 顔が近いので誠秀が話すたびに彼の息が恵の頬にかかる。それにくすぐったさを感じて彼に離れてもらい、順番を逆にして彼を窓側に移動させる。


「狗神?あの黒い犬のことですか?」

「そうだよ。」


 おとなしい雰囲気の泣きやまない少女の隣にいるのは黒い毛を纏った大きな犬が1匹控えている。離れないように時折彼女の足に頬ずりをしているのだが、それに彼女は気づいていないようで、ただ、もう1人の少女に何かを叫んでいる。


「かまいたちが見当たりませんよ。」

「ああ、かまいたちは隠れるのが得意なんだよ。そして、ずる賢いから言葉も上手だよ。奴らは人を隠れ蓑にできるし、人から血肉を分けてもらって力を得るんだ。そして、人にそうさせるように誘導する。」

「怖いですね。」

「そうだね。」


 しばらく成り行きを見守っていると、防戦一方になっている。つい先ほどまであった自信などないようで秋生が結界を張ってその中に鳴海刑事は膝をついている。


「雲行きが怪しいですね。」

「雨降りそう。」

「いえ、そういうわけではありません。」


 誰が天気の話をしたの?

 すでに暗くなりつつあるからそんなことはわからないよ。


 恵は意味が通じない誠秀に内心突っ込み、今後はそんな例えは使用しないことにして、目の前の戦闘を見る。


 秋生さんは犬がいるからおそらく力は出せない。ここは鳴海刑事に頑張ってもらうしかないのだが、全く攻撃しようとしないのはどうしてだろう?


 恵が首をかしげていると、前に座っていた誠秀が車のドアを開けて恵の手もつかんで堂々と公園に入っていく。予想外の彼の行動に恵はパニックを起こし、今後どういった行動をすればいいのかわからない。


「雪村さん、こういうのって作戦を立ててから行くんじゃないんですか?」

「大丈夫。君は僕が守るから。かまいたちが姿を現す方法を教えてあげる。」


 誠秀はニヤリと笑う。

 悪巧みをしていることは一目瞭然だ。

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