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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
飼い主に動物が残したもの
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77話

 保護者会に行ってからしばらく秋生の気持ち悪い笑みを浮かべる状態が続くが、それが一変する。夕飯しか一緒に食べないのだが、彼はイライラし始める。それを恵は気になったのだが、誠秀に「気にしなくていい。」と言われたので放っておく。


 週末、恵は外は雨であることと季節は冬で気温が低いことを自分に言い訳して引きこもっている。誠秀は大学の課題に使う資料探しのために図書館や古書店巡り、秋生は恵が起きたときにはいなかったのでおそらく仕事だろう。つまり、恵は1人の時間を満喫していたのだ。

 しかし、昼食にオムライスを作って食べている最中、その優雅な時間は壊される。ドアが開いたので出迎えに行こうとしたら、それよりも先にダイニングの方に入ってきたのだ。それも、住人である秋生はわかるのだが、もう1人見かけたことがあるような秋生と同い年ぐらいのスーツを着た男性が彼を追いかけるようにして入ってくる。


「だから、俺は知らないって。ほら、さっさと帰れ。ここは俺の家だぞ。」

「そういうわけにもいかないんだよ。この件は結構大ごとなんだ。一応、報道規制が敷かれているから今のところは大丈夫だと思うけど、でも、これ以上広がったらどうなるかわからない。前の吸血鬼のように噂は広まるかも。今、SNSでなんでも上げる時代なんだからな。」

「何を偉そうに言っているんだ。それをどうにか食い止めるのは警察であるお前らの役目だろう。SNSなんてのは権力使って削除すればいい。」

「それは今やってる。それより、早期解決して都市伝説っぽくしたほうがいいんだよ。事実さえでなければ何とかなる。幸い、まだそんなに大きな事件にはなっていない。暗闇で見た人も多くはない。」

「あ、そう。俺は手伝わない。お前らで頑張れ。」

「秋生!」


 家に入ってきて言い合いを続ける大人2人を恵はボーっと眺めている。オムライスが冷めてしまうことは残念に思うが、喧嘩している横で食べるのも失礼な気がして恵は何もできない。集団生活をしたことがないので、こんな喧嘩を間近で見ることも皆無なのだ。学校では特に喧嘩にならずに一方的にいじめる狩りになっていたし、食事中はいつも厳しい教師にあたっていたので、座って食べないと怒られていた。だから、こんなに怒号が飛ぶ騒がしい場所で食べたことがない。


「あ、悪いな。恵。ほら、お前はもう帰れ。昼の邪魔だから。」

「秋生、お前には手伝ってもらわないと困るんだ。」

「考えておくからさっさと帰れ。お前、仕事があるだろう。ブラックなんだから。」

「まあ、それは否定しないけど。わかった、帰るけど考えておいてくれ。」


 男性は引き下がり潔く家から出ていく。

 彼がいなくなると秋生はため息を吐き恵の前に座る。やっと怒号が止んだので恵はオムライスをつつく。


「恵は何も聞かないな。」

「聞いてほしいんですか?」

「うん。独り言だから聞き流してくれる?」

「わかりました。」


 弱っている秋生に対して冷たくすることは恵にはできないので頷くと、フニャリといつもの余裕な態度からは想像ができないほどに子供のような顔で笑う。


「あいつ、特別課っていう異能や人ならざるものの対処をする部署のやつで、恵のクラス担任の双子の兄貴。」

「へえ、鳴海教師の双子ですか。あまり似ていないような、似ているような。」

「うん、二卵性らしいから。」


 その新情報で恵は秋生が上機嫌な理由が少しだけわかった。


「それで、御影っていうんだけど、探知が苦手で今回の1件ではそれが重要だからって俺を頼ってきたんだ。」

「秋生さんは得意なんですか?」

「俺は天才だからな。」

「へ、へえ。」


 天才って自分で言っちゃうんだ。


 恵は真面目に驚く。そういうのは人から言われる言葉であって、自分で言うものはないと思っていたのだ。そんな風に堂々と言えるほどに彼は自分でそうだと認識している。


「秋生さんは今回の件に関わりたくない理由でもあるんですか?」

「ちょっとな。」


 彼はどこか遠い目をする。

 それが彼にとって目を背けている態度のように恵には見える。


「だったら、避けていいと思います。私もいろんなことから逃げているんですよ。人っていうのは弱いんですから避けて避けて人生終える前に克服できればその人はすごい人だと思います。」

「そっか。聞き流すだけでいいって言ったのに、慰めてくれてありがとう。」

「いいえ。オムライスを食べますか?」

「ああ、もらう。」


 恵はすぐに温めなおしたケチャップライスを卵でヒョイッと包んだ。

 それを食べては彼は「おいしい。」と何度も口にする。誠秀が作るような本格的なケチャップライスではなく、家庭料理に近い味だが秋生の笑顔を見て恵は安堵する。


「恵に話しただろう?昔飼っていた犬の話。」

「そうでしたね。」

「今回、犬の霊が人を襲ったっていう事件なんだ。こんなことはよくあることで、それも年中相談が後を絶たない案件のはずなんだ。でも、現場に行ったときに感じた残った気配で昔を思い出した。あそこには昔飼っていた犬がいたんだ。俺はきっと対峙した時に何もできない。」


 秋生はテーブルに肘をついて頭を手で支える。俯かせているが彼の声はだんだんと途切れ途切れになっていく。恵はただ、戦おうとしている秋生の姿を見ていることしかできない。

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