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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
飼い主に動物が残したもの
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76話

 恵が電話のことを話題にしたのは鳴海教師に言われた日の夕飯の後だ。


「恵、何か悩みでもあるのか?」


 秋生の方から声をかけてくれたのだ。


 そんなにわかりやすかった?

 これじゃ、構ってくださいって主張している甘えている子供みたい。


 恵はそんな自分に落ち込むが、ここで話題に出さなければ悩みは一生解決できそうにないと感じ意気込む。


「あの、実は学校への緊急連絡先が壊れた家の固定電話になっていたので、その番号を変更しないといけないんです。今後こんなことがあって引っ越すたびに変えるのは面倒なので携帯を持とうかと思っているのです。携帯の購入の仕方を教えてくれませんか?」


 こんな風に他人に対して何かを頼むことは初めてだったので、恵は目をつぶって一息に言ってしまう。その直後、猛烈に彼女の心に早口に言ってしまった後悔が襲ってきて全く向こうの反応がないのでゆっくりと目を開けて秋生の方をみる。彼は口を半開きにして目を開けたまま固まっている。恵は続く言葉が思い浮かばなずに戸惑っていると、秋生の隣に食器を洗っていた誠秀が腰を下ろす。


「恵さんは携帯を持ちたいんですね?」

「その方が後々楽できるかと思って。」

「そうなんですね。でしたら、僕の方が時間を取れますから明日の夕飯が終わってからでも見に行きますか?携帯ショップは夜遅い時間まで営業していますから。」

「ありがとうございます。雪村さん。」


 誠秀は落ち着いた声で柔らかい笑みなので、彼が発言するとすっかり彼のペースになってしまう。


 うん、これは勝てない。


 彼が詐欺師ではないことに安堵したのだが、恵は改めて彼のすごさを再認識するのだ。秋生も金縛りから解放されたようなので、ついでとばかりに恵はもう1つの悩みも解決することにし、自室から例のプリントを持ってくる。


「あと、この保護者会なんですが、欠席できない理由を書いてください。”多忙なので”という文面で大丈夫です。今日先生にもそう言っておきましたから。」


 恵が置いた保護者会時間希望用のプリントに2人は目を点にする。秋生も誠秀もその存在を初めて認識するようだ。


「保護者会って何?」

「さあ、僕に聞かないでください。秋生のほうが詳しいでしょう?」

「いや、高校は卒業検定だったから学校は通ったことがないんだ。」

「僕は小学校から高校まで通ったことがありません。」


 2人はヒソヒソと話をしていて決着がついたのか恵の方を見て秋生が口を開く。


「恵、教えてほしいんだが、保護者会って何?」

「担任教師から子供の学校での様子を聞いたり、逆に担任教師が家での子供の様子を聞いたりする大人同士の相談会みたいなものです。1対1で実施されるんです。」

「なるほど。楽しそうだな。行ってみたいな。」

「え!?」


 予想外の発言に恵は驚愕の声を出してしまう。


「学校で恵がどんな生活を送っているのか気になるから。」

「いえ、普通の生活ですよ。気にする価値もないです。」

「それに、兄さんの先を越して恵の学校行事に参加したって聞いた時のじじいの顔も見てみたいし。兄さんにも自慢できるから一石二鳥。」


 ニヒヒ


 秋生は悪魔ように笑う。前者ではなく後者が彼の本心なのだろう。

 性格の悪さに恵と誠秀は苦笑い。

 恵にいたっては内心頭を抱えている。もともと、彼女は家族には保護者会への不参加を希望している。それなのに、秋生が己の欲望を満たすために利用されることになれば、彼女は彼に弱みを握られ何を要求されるかわからない。彼はブラコンのようだから、もし、それを満たすために行動されれば一番初めに狙われるのは恵だろう。それぐらいには、佐久良家に気を遣われている、たとえ自分が持っている七色瞳が原因だとしても、のはなんとなく理解しているのだ。

 恵は自分の身の危険を心配しているのだ。


「来週だと時間もあるから行こう。」

「わかりました。」


 恵はトホホと思いながらプリントを受け取る。


 翌日恵は誠秀に連れられて携帯ショップで携帯に向かう。


「電話だけできたらいい。」


 と恵はシンプルな注文をしたつもりだったのだが、店員が困ったように笑っていて戸惑う。若者向けの携帯は画質やネットの速度、保存データ量が重視されるようでおすすめしにくいのだと携帯のサンプルを見ているうちに気づく。

 結局、人気があって値段も高くないとおすすめされた携帯を購入する。自分で払うと言ったのだが、誠秀がかたくなにそれを拒み、恵も強く言えなくなってしまい、彼が支払うことになる。

 初めてもった携帯は予想より重く画面は広く見える。早速、学校の緊急連絡先を携帯番号に登録して例のプリントも持っていくと鳴海教師が驚いている。恵から断りを入れた先日とは明らかに違う反応で余裕がない。


「本当に来るのか?」

「叔父にあたる人が行くようです。父とは14歳も離れていて若い人です。」

「そうか、わかった。」


 鳴海教師はそれ以上は何も言わないがつばを飲み込んだりしているので気持ちは正常ではないのだろう。生徒のプライベートまで知らないといけないので、教師という職業の人に同情を感じつつも内心鳴海教師に対して応援する。


 秋生は本当に保護者会に行き、ご機嫌な様子で帰宅してくる。

 その顔に嫌な予感がしたものの、それは恵の勘違いであり彼から何かを言われることはなく、その日は過ぎる。

 寝るときに鳴海教師が秋生にうまく学校生活の様子を説明してくれたと安堵する。それは秋生が夕飯の間中、恵をずっとニコニコと笑ってみてくるようにできるほどに美談で固められた話だったのだろう。

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