75話
あれから少しだけ話をしていて秋生は恵にとって父親の弟、叔父であることがわかり、探偵をしている傍ら、警察からの要請を受けて主に探索の手伝いをすることが多く、あの日も要請を受けたために便乗したようだ。彼の目的はただ姪にあたる恵に会いたいという下心があったのでちょうど良かった。
誠秀が鬼であることは承知だが、彼はほかの鬼と違って数百年前から続く鬼の一族であり力が大きいために秋生の管理下という条件付きで人と同じように暮らしている。瑛斗と同じような立場だろう。
彼らは恵が拒絶を示したために彼女が何かを言うまでは見守ることにし、世間話だけをするようになり、恵はその環境が楽に思えると同時にどこか悲しく思えてくる。瑛斗との生活が数か月あったから、あの言い合える環境が懐かしかったのだ。
秋生の家に居候を始めて週明け、数日ぶりに恵は学校へ登校する。久しぶりに外へ出たので清々しく感じながら、数か月も通っていたのに登校する道が変わっただけで新鮮に感じる。特にほとんど駅からの出発なので人通りが多いところが最も印象的だ。
電車通学・通勤の男女たちが駅に向かっていたり、駅から出てきたりとせわしない様子だ。
教室に入ると、恵を見たクラスの生徒が驚いた顔をして一斉に彼女から目をそらすまた何かと変な噂が飛び交っていたのかもしれないが、恵は気にせずに席に座ると、すでに横に着いていた瑛斗とあいさつを交わす。彼はどこか疲れているような憂いのような顔をして恵を見上げてくるが、恵は気にせずに授業の準備をする。
「西寺さん、久しぶり。病気は治った?」
レイドリックが恵の前の席に座って話しかけてくる。それを懐かしく思えて恵は笑ってしまう。
というか、私病欠ってことになっていたんだ。
鳴海教師の気遣いが垣間見える。
「そうですね。何とか。けがは治ったみたいですね。」
「そもそもそんなに大けがではなかったからね。西寺さんは1週間ぐらい休んでいたけど、大丈夫だった?」
「無事でした。体のあちこちが痛くなったりしましたけどね。」
「そうなんだ。そういえば、君が休んでいる間に奇怪な事件がなくなったんだよ。知ってた?」
レイドリックは探りを入れているようで確信しているように尋ねてくるが、恵は最後までとぼける覚悟だ。
「そういえば、最近そんなニュース見ませんね。そうなんですね。なくなったんですね。よかったです。」
「本当にね。これ以上被害が出ていたら、きっと君の家が大変だっただろうね。」
彼は含み笑いをして立ち上がる。
彼のいう家は恵の物理的な家のことではないことは彼女でもピンとくるが、彼女としては思い入れはないものなので笑って流す。
「君がどうやって鬼たちをなだめたのか見たかったよ。」
彼は去り際に恵の耳元でささやいてから自分の席に戻る。
それからすぐに、本来の席の主が座り、その男子の腕に巻かれていた包帯が見えないので恵は安堵する。
学校では恵の予想通り噂が回っているが、彼女にとってはどうでもいいものばかりなので無視する。最近、そんなものにあげられるようになって目立たないことに固執するのが馬鹿らしくなったので、恵はもう無駄なことに労力を消費しないことにしたのだ。
放課後、鳴海教師に呼ばれる。
「悪いね。」
「いいえ、特に構いません。」
「いや、でも、大変だろう?家も使えないって聞いた。」
ああ。。
恵は彼が親かその関係者から聞いたことはすぐに察しがつく。学校の噂には彼女の家を知らないうえに、情報規制のおかげか未成年だったおかげか、ニュースになったが所有者も住居者の名前も伏せられたことでその話題は上がっていないことは彼女にとって幸いだ。
しかし、担任教師であり親が警察関係者うえにお偉い人である鳴海教師だけはごまかすことはできなかったようだ。
警察も身内には甘くなるようだ。
「大丈夫ですよ。以前お伝えした現れた家族にお世話になっていますから。」
「そうか。」
恵の発言で急に鳴海教師が頬を緩ませるので気味が悪くなり恵は眉間にしわを寄せる。
「なんですか?」
「いいや、お前は最初から他人との距離をとっている気がしてお前が本心を見せられる人がいるのか心配していたんだ。でも、俺の勘違いだったようだ。」
「そうですか。」
鳴海先生の言葉はあっているのかな。
恵は内心首をかしげるも否定も肯定もせずに流す。
「それじゃ、家族も一緒に暮らすようになったのなら保護者会の出席も可能だな。お前の家庭事情は知っていたから何も言わないでいたんだが、やはり保護者の人と話すことも必要だと思っているんだ。」
「いえ、彼らとは数か月前に知り合っただけなので、そういう面倒はちょっと。それに、彼らは多忙でほとんど家に居ませんし。」
「そうか。一応、日程調整もできるから渡しておいてくれ。もう、お前が休んでいる間に他の生徒は集めてしまったんだ。すでに埋まっている日程は黒く塗りつぶしておいたし、その候補で無理なら下の余白に都合の良い日時を記載してほしい。」
「いえ、あの。」
「じゃあ、頼んだぞ。」
言い逃げのように鳴海教師はそそくさを去っていく。恵の引き留める声も届いているのかいないのか、どちらの判断もつかない。
あーあ、どうしようかな。
恵はため息を吐きながら下校するのだ。
マンションに着くと、まだ誰も帰宅していないようで、恵は覚えさせられた暗証番号を使って帰宅する。コンシェルジュに挨拶をされるのもなれない。
「疲れた。」
恵は自室でカバンを置いて体を縦に伸ばしつつ、カバンの方に目を向ける。数日休んだことで溜まった宿題を持って帰ったのでカバンの横幅がいつもより大きくなっているのが一目でわかる。
「やりますか。」
ノロノロとカバンを開けて課題を取り出していると、プリントが1枚床に落ちる。それを見てすぐに彼女は最後に渡された最も憂鬱な気分になった元凶であることを思い出す。
「これどうしようかな。」
彼女はそれを拾いつつ対策を考えるが、良い案が思い浮かばない。
だいたい、知り合って数か月の人の学校生活の自分のことを担任教師から知らされるって羞恥以外のなんでもないんだけど。家に帰って酒の肴にされることが目に浮かぶな。なんか、自分の弱みとか握られそうで怖いし。
恵はこうなった以上誰かに頼むしかないのだが、それに適切な相手が見つからず考えあぐねる。そうしている間に時間は過ぎてしまい、それは解決しないまま宿題が終わったのは日付が変わった頃だ。
「恵さん、大丈夫?目の下にクマができているけど。」
翌朝、誠秀に心配をかけることになったのだ。
「いいえ、大丈夫です。気にしないでください。学校休んでいたせいで宿題が多かっただけですから。」
「そっか。それならいいんだけど。」
結局、プリントはカバンの中にそのまま突っ込んでしまっているので、鳴海教師への言い訳を考えてから学校に向かう。その方が恵には簡単だったからだ。
しかし、その簡単だと思えたのは彼女のつけ上がりだとわかる。
朝のホームルームの後、恵は鳴海教師に言い訳をしてプリントを返そうとしたのだが、彼からの答えはノーだったのだ。
「そんな理由ならちゃんと理由を書いてもらってこい。それか俺から連絡するから電話番号を教えなさい。お前の電話番号なんだが、家の固定電話で使用できなくなったから再登録してもらわないと困るんだ。緊急連絡があった時にな。」
「そういえば、そうでした。」
そして、ついでに新たな問題が発生する。
彼女が仕事をしているときの連絡先も住んでいた家の固定電話で現在は使用できないことに今更ながら気づく。ちなみに、家の方は更地にして売りに出したところ、商店街や駅へのアクセスの良さと周囲の家と少しだけ距離がある立地の良さからすでに買い手がついたようだ。
「とにかく、携帯を持ったらどうだ?」
「検討してみます。」
恵は初めて携帯の良さを知る。




