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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
飼い主に動物が残したもの
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74話

これから新章スタートです。

引き続きよろしくお願いします。

体調崩すことが多く毎日更新が厳しいですが、

頑張ります。

 恵が誠秀に連れていかれたのは最寄り駅に隣接しているタワーマンションだ。彼の身なりがそんな場所に住むように見えなくて着いた時はその建物と彼を見比べてしまったほどだ。


「だから、ここの借主は僕ではないって。」

「そうでした。ごめんなさい。」


 恵の反応にクスッと笑う彼に彼女はつい失礼なことをしたと思って謝る。彼が怒らなかったから良かったものの、普通の人であればキレられていただろう反応だ。

 エントランス前にはロックを解除しないと入れない仕組みになっているようで、エントランスの中には警備員がいる。大物政治家や俳優が住んでいそうなほどに警備が厳重であり、恵の家に比べればセキュリティレベルの差は天と地の差がある。


「おかえりなさいませ。雪村様。」

「はい、ただいま帰りました。奥山さん。」

「こちら佐久良様にお荷物が届いておりました。今、お部屋までお持ちしようとしていたところですので、あなた様から渡していただいても構いませんか?」

「はい、良いですよ。」


 誠秀は平然と受け取る。


 ・・・佐久良様!?


 恵は頭が混乱し、後ずさる。

 そんな彼女に今誠秀と話していたコンシェルジュの奥村が気づく。


「おや、雪村様のお知り合いの方ですか?」

「そうですね。秋生さんの許可も取りましたので問題ないですよ。家が窃盗の被害にあって住む場所がなく数日こちらでお世話になりますから顔を覚えておいてください。」

「かしこまりました。他の者にも伝えておきます。」

「ありがとうございます。」


 誠秀は後ずさる恵の肩に腕を回して紹介する。それにより、彼女はがっちりと捕まえられて逃げ出すことがほぼ不可能であり、エレベーターまで連れていかれる。


「あの、雪村さん、先ほど佐久良様って奥村さんって人が言っていましたけど。」

「そうだね。僕が間借りしているところの主は佐久良秋生っていうんだよ。君の叔父にあたる人だね。」


ひっ


 恵は嵌められたことに恐怖する。誠秀は恵と初対面という顔をしていたし知っている素振りなんて見せなかった。


これが詐欺師か。


「言っておくけど僕は詐欺師じゃないよ。」


 うっ


 恵は自分の心を読まれたことに言葉がつまり言い返せない。


「恵さんはわかりやすいね。」


 アハハ


 彼は楽しそうに笑う。


 チン


 エレベーターが15階に着き一番角部屋に入るとマンションのイメージとは違い、狭い廊下がない。恵が住んでいた家とは間取りは違うが、玄関から入るとリビングとダイニング、対面式キッチンがあり、他に3つの個室とトイレ、バスがついている。


「僕はここで秋生はそこ。君はここを使えばいいって言っていたよ。」

「ありがとうございます。」


 恵は与えられた部屋に荷物を置き何もない部屋を見渡す。家具はなくクローゼットがある使っていた部屋より少しだけ狭いと感じる部屋だ。こじんまりとしている部屋なので彼女はすぐに気に入る。来客用なのか、クローゼットには布団が一式入っているし、エアコンもついているので生活に不便はない。それに、学校にも近くなったのでそれもうれしい利点で恵は笑おうとしてやっと頬が緊張していることに気づく。


「恵さん、秋生があと少しで帰ってくるようなので帰ってきたら夕飯にしましょうか?」


 頬をマッサージしていると誠秀が声をかけてくる。恵はドアを開けるとその前にはすでにエプロンを付けた彼が立っているので断るのは忍びない。


「はい、わかりました。でも、つい先ほどいろいろと食べてしまったのでお腹はそんなに空いていないです。」

「うん、わかった。ごはんは食べられるだけでいいよ。」


 恵に対して彼は嫌な顔は一切しない。柔和な笑みを浮かべているが、彼の目には同情が明け透けに見える。彼の目にはいつもそれが見えることに彼女はドアを閉めて気づく。最初に出会ったころも今も。


 いや、見かけたときはたくさんの料理を食べていたし、顔は笑みを浮かんでいたような気がする。でも、あの時もあんな色の瞳で食べていたのかな。


 恵は欲望で空腹を満たすことしかできない鬼があんなに悲しい顔をしていることに首をかしげる。


「あれも嘘だったりして。」


 目から伝わるものでさえ、あれこれ考えすぎている恵には信じられなくなる。


 パソコンを充電させながら恵は仕事をしていると、ドアがノックされる。


「恵さん、夕飯にしよう。」


 家主である秋生が帰ってきたような気配はないが、誠秀に呼ばれたので恵は部屋を出ると、すぐリビングに置いてある4人掛けテーブルにすでに着いている紺色のスーツを着ている男性が座っている。その服装が会いたい人物とかぶっていて恵はその場に立ち止まる。料理を並べている誠秀は不思議そうに恵の方を見ていると、それに気づいた男性もつられたように見てくる。

 その振り向いた男性の顔に見覚えがある。


「刑事さん。」


 恵がボソッとつぶやくとその飄々とした印象のある男性が手を振っている。


「そうだよ。こうして会話をするのは初めてだね。恵。」


 彼は一歩一歩ゆっくりと恵の前まで歩いてくる。彼からの空気に彼女は全く嫌悪を感じず自然と受け入れてしまう。佐久良家も李家も、そして、瑛斗も彼女にとって最初は異物でしかなく徐々に受け入れていった感じがしたのに、彼にはそれがない。


「初めまして、恵です。えっと、佐久良さん。」

「秋生と呼んでほしい。おじさんもちょっと嫌だからな。」

「はい、秋生さん。」

「よろしい。これからよろしくな。恵。じゃあ、夕飯にしようか。」

「こちらこそよろしくお願いします。」


 飄々とした印象をそのままであるので彼は天気のような人だ。

 恵は頭を下げて用意されて椅子に座る。


「恵は身長が高いな。クラスでは後ろの方だろう?」

「いえ、クラスで並ぶ際はあいうえお順なので身長関係ないです。でも、西寺なので後ろの方ではありますね。」

「そうなのか。ところで、そのクモには何か餌はあげなくてもいいのか?」

「今まであげたことないですね。多分、自分で食事しているのではないでしょうか」

「そうなんだ。楽なペットだね。」

「そうだな。前に実家で買ってた犬は大変だった。好き嫌いが激しくて。」

「犬?」


 恵は秋生の言葉に反応する。

 彼女は意外と動物は嫌いではない。いや、動物と戯れる方が人相手より何倍もマシなので十分好きだ。


「そう。犬。柴犬で捨てられたのを拾って親に許可取って小さいころから飼っていたんだ。もう死んだけど。20年も生きたから老衰だったんだ。庭で寝ていたんだと思ったんだが、息をしていなかったんだ。」

「そうなんですか。犬って長生きなんですね。」

「そうだな。」

「はいはい。箸を止めないで食べて。2人ともせっかくの料理が冷めるから。」


 暗くなった雰囲気を一掃しようとパンパンと手を叩いて誠秀が食事を促す。それに秋生は少し反省の顔をしてすぐに料理に箸を伸ばす。


「犬はどうして庭にいたんですか?」

「さあな。それは知らない。よく庭で散歩していたから最後に行きたかったんじゃないか?そのころにはもう実家にはいなかったから知らない。」

「はいはい。その話題はもういいよ。ごはんが進まないから。」

「そうだな。」


 恵は料理に手を伸ばしながらもずっと話題にあがった犬のことが気になっている。また話題を出そうものなら誠秀からにらまれそうなのでそれはしまっておく。

 夕飯が終わり、恵は秋生と誠秀と今後について話す。


「それでこれからどうするんだ?」

「どこか賃貸で借りますよ。あの家をどうするかは佐久良家に任せます。元々あの家は広すぎて手に負えない部分がありましたから。掃除が特に。」

「確かにな。あの家は1人2人で暮らすには広いな。建て直してもらって恵が家族を作って入ればいいんじゃないか?」

「いえ、それはないですね。」


 恵は肩をすくめる。

 その返答が彼らにとって意外だったようで目を見開いている。そんな反応をする大人2人に彼女はおかしくなり小さく笑ってしまう。


「すみません、笑ってしまって。」

「いや、別にいいよ。タダで家をもらえるんならそのままもらえばいいんじゃないかな。」

「そうですね。でも、私には必要ないです。家族なんてものも必要としていませんし。」

「恵、確かにお前は今までいろんなことがあった。でも。」

「もう、誰にも期待なんてしたくありませんから。」


 恵は立ち上がって部屋に戻る。もうこれ以上何かを言われたくなかったからだ。彼女は家族が大切とは思えないし、他人に対して1度もそんな風に思ったことはない。でも、少しずつ佐久良家や瑛斗を受け入れ始めている今、恵の中で自分の心に張った壁に小さな傷を感じる。これはあの日、敏明に対してお礼を言った時についたものだ。もう、その修復ができないもの。

 それを少しでも埋めるために恵は彼らと距離をとることにする。


 自分を守るために

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