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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
本物の鬼ごっこ
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68話

 恵が鬼ごっこになったのは誠秀と話をした翌日の夜

 すでに真夜中で恵は眠っていたのだが、急に窓ガラスが割れた音に飛び起きる。まるで海外ドラマのギャングに襲われるように感じてドキドキしていて部屋にいつでも抜け出せるように目立たないジャージを着て、防犯グッズと1週間ほどは過ごせる乾パンや菓子パン、エネルギー補充飲料といった食料と500mlのペットボトル1本を詰め込んだリュックを担いで、そのまま逃走用に残しておいたロープを使って2階の部屋から脱走する。

 鬼たちは家の正面玄関のみから入っていく。恵の家の後ろが小川であることを知っているのだろう。彼らは割れたガラスから侵入して家の中に入っていくのを傍目に見ながら、裏庭の柵で錆びている箇所を外して隣の庭に抜けてそのままその場を離れる。

 本当は小川を泳ぐことも考えたのだけど、恵は体力のことも考えてそのアイディアを却下していた。防水スーツを着たとしても体を冷やすことには変わりなく、朝と夜は一桁の寒い季節では風邪をひくことは目に見えている。それでは、終盤きっと彼らから逃げきれなくなる。これは鬼ごっこだけど、それとは決定的に違うのは鬼は1人ではなく複数であり、捕まることは命が絶たれることを意味することだ。そして、恵には他に頼れる人は誰もいない。


「それでも負ける気はしないけどね。」


 恵には勝利の確信があり、無人の家に入っていき騒音を立てる彼らを内心で嘲笑いながら堂々と道を進んでいく。あれだけの騒音があれば当然だが、誰かが呼んだパトカーの音が近づいてくる。ここで彼らが捕まることはないと踏んでいる恵は後ろを振り返ることはなく出ていくことにする。


「ゲームスタート。」


 恵は悪役になり切っている。



 恵は家を出てからずっと学校には通っていない。携帯を持っていなかったので公衆電話を探して、そこから朝に学校に連絡して鳴海教師に


「しばらく休校します。」


と告げる。

 彼は驚いた声を出して理由を尋ねてくる。


「そうですね。居づらくなって家に引きこもりますから。」


 恵が言うと彼は「待ってくれ。」と静止しようとするがそれを無視して電話を切る。あまり同じ場所に長居すると鬼たちと遭遇する可能性があるためすぐに移動を開始する。


「鬼ごっこなら見つからないように身を潜めているのもありだけど、私は攻撃的な逃亡者だからね。」


 恵はニヤリと笑って大通りを歩く。車でよく見かける指示場所は”横浜”だ。

 鬼たちの大元が見たくなったから彼女は向かって堂々と対面を張って彼女なりに蹴りをつけに行くのだ。


 もし関係ない見ても覚えていない顔だったら思いっきり殴ってやるわ。


 彼女はこぼしを突き上げる。


~恵の家が襲われたとき 瑛斗側~

 恵の家を離れて数日、瑛斗は恵の護衛になる前のポジションに一時的に戻されることになり、不服に感じている。そんな彼に上司である李白鳳は困ったように肩をすくめる。


「そんな風にしていても仕方ないだろう。周囲に八つ当たりするのはやめろ。全く、俺より長い間生きているのに、自分の思い通りにいかなくて駄々をこねる子供みたいだな。」

「ええ、子供ですよ。いくらでも言ってください。私は子供です。今がどういうときか分かっているんですか?あの方は襲われる危険性が高いんですよ。」

「ああ、そうだな。早く解決しないとな。」

「今すぐに解決したいです。それなのに、なんで私がこんなけが人の手当をしないといけないんですか?」

「仕方ないだろう。手が足りないんだから。俺だってお前を例の場所に向かわせたかったが奏でさえあそこに立ち入ることを躊躇しているぐらいだ。相当な怨念だな。一体誰にそんなに大きな恨みがあるんだろうな。」

「そんなの、男女のもつれですよ。愛っていうのは人にとって最も大きな呪いです」

「なんか経験こもってないか?」

「ええ、私が今その真っ最中ですから。」

「お前が言うと笑えないな。」


 手当をしながら2人は器用に話をしている。それにそば耳を立てていた意識のあるけが人も一緒に手当をしている治癒力のある人たちも聞こえないふりをする。その中には当然李家当主である英蘭もいるが彼女すらも笑っていても声は一切出さない。

 そこにドア前で片膝をつく者がやってくる。その男性は当主からの言葉を伝えるものだ。


「ご報告いたします。李家当主様と次期当主様、並びに桜井家当主様は至急当主の間にいらしてください。」

「何があったのです?」

「当主の孫様の家が鬼たちの襲撃に遭い、家の中は半壊状態、警察がすでに立ち去った後の家を捜索しましたがあの方はおりません。今、行方を捜索中です。」


 応対した英蘭は信じられないと言ったような顔をしてすぐに怒りで顔をゆがませる。


「あの方はまだ力を押える方法を知らないのだから、すぐに探せるでしょう!?それができないというの??」

「それが、すぐに探知力に優れた者に探させたのですが、見つけられませんでした。」


 報告に来た者は英蘭の問い詰めに屈さないどころか、彼自身も悔しさに口をゆがませる。その場面を見ながら瑛斗はどこかテレビ越しに見ているように錯覚する。現実に近い幻想だと思い込んでいる。そうでなければ、抑制が効かないほどに彼は混乱の中にいるのだ。


「とりあえず、当主の間に向かう。母上、瑛斗、それでいいですね?」


 一番冷静な白鳳は彼らを連れて当主の間に向かう。


 そこにはすでに佐久良家がそろっており、敏明と貴明、奏の側近とめったに家に帰らず都内に自分で借りているアパートで探偵として暮らしている貴明の14個離れた弟である佐久良秋生さくらあきおがいる。警察に依頼されて人を探したりするのに手伝っていることもあり、恵の家に警察とともに現れた人物だ。

 異能の才能は当主である敏明や次期当主である貴明を凌ぎ、彼が放つ言葉は言霊となりあらゆる神を召喚し、あらゆる災禍を押さえつけると言わしめた天才だが、彼は次男であり、自分の力が兄である貴明の邪魔にならないように配慮して外に出たのだ。


「秋生、説明を頼む。」


 全員がそろい、敏明は秋生に指示を出すと秋生は頷く。


「先ほど1時間前に、騒音がすると恵の家の近所から110番通報があり、それに対して例の件と関係性がある可能性も考慮して特別捜査課も一緒に向かった。すると、その家はすでにもぬけの殻だったが、窓ガラスが割られていてドアの鍵は壊され、大勢の土足の足跡がくっきりと残っていた。どれも既製品だったことと、購入者が多かったので特定に時間がかかる。家具はすべて倒されていて壁やドアはすでに修復不可能。複数、少なくても10人ぐらいは入ったとのことだ。リフォーム前に壊した後のような有様だったらしい。恵の・・体は見つかっていない。明日学校に登校するか電話があるかもしれないから、警察は明日学校に問い合わせる。ただ、おそらく恵は生きている。彼女の財布や現金はないし、机なんかを物色した跡がない。」


 特別捜査課は一般人の中に人ならざるものを見える警察学校卒業生で構成されるこういうこと専門の組織だ。ニュースにならないように情報統制をするのも彼らの役目だが、実際は始末書処理が大半の仕事である。秋生が依頼を受けるのはその課からのものが多いので彼らとは顔見知りになり、情報も逐一回ってくるので、今回のように緊急事態が起きた場合は彼が敏明に知らせる。


「瑛斗、恵の携帯番号を知らないか?警察から問い合わせがある。」

「あの方は携帯を必要としませんでしたので、持っていません・・・・そういえば、パソコンを持っている。ノートパソコンは無くなっていましたか?」


 瑛斗は緊急事態が発生した場合に備えて恵からアドレスを教えてもらっていたことを思い出す。渋る彼女から聞き出すことに苦労したのは今でも記憶に新しい。


「ああ、そういった通信機器は固定電話しか見つからなかった。テレビとかはすでに使いものにならないらしい。」

「それなら、彼女のノートパソコンのメールアドレス宛に連絡をしましょう。メールに気づいてくれるかもしれません。あの方は日本人ありがちのワーカーホリックですから気づいてくれると思います。」

「わかった。それで対応しよう。」


 瑛斗はスマホから恵のメールアドレスあてにメールを送る。

 差し障りのない内容を送ってみると、彼女からすぐに返信が来る。

 瑛斗がスマホに英蘭と白鳳、奏は画面を食い入るように見る。


「”鬼ごっこは得意だから心配しないでください”って、姉さん、鬼が来るのを分かっていたんじゃ。」

「きっと、そうですね。”今から迎えに行きますから場所を教えてください。”」


 瑛斗は恵の生存を確認できたので笑みを浮かべる余裕ができすぐに返信すると、恵からもすぐに返ってくる。


「”それじゃあ、ゲームになりません。こういうのは困難があってこそ楽しいのですよ。あと、私はゲームに強い方です。まだ保育園に行っていたときに連れて行ってもらったゲームでは負けなしで大金を手にしたこともあります。”らしいです。」


 はあ


 その場にいた全員がため息を吐き、じっと見るのは敏明の方だ。敏明は妻である藍蘭のほうを見る。


「何でしょうか?」

「お前に似たなと思っただけだ。」

「いえ、こんな大胆な行動をするところは当然あなたに似ていますよ。」


 夫婦でなすり合いが始まる。それをジト目で見ているのは敏明の側近である5名だ。彼らはじっと彼らを見てはそのうち1人がわざと咳払いをすると、敏明と藍蘭はすぐに言い合いを止めて彼らは謝罪する。


「とりあえず、恵は無事だとわかったからあとはあの子がどこに向かうかだな。」

「おそらく横浜でしょう。」

「横浜?鬼から逃げているのですよ」


 奏の疑問は当然だろう。通常であれば、鬼から身を隠すのが一番良い選択だ。


「その通りです。しかし、あの方の性格はこの数か月一緒に住んでみてだいたいわかりました。敵であっても味方であっても正々堂々と殴り合いをしないと気が済まない、そんなタイプです。あとは、好奇心旺盛なので、自分を襲ってきた相手の顔を見てみたいといったところでしょう。あの方はいつも厄介ごとに絡んでいくのはそのせいなんですよ。」

「それはあり得るかもな。恵だって年頃の女の子なんだし。じゃあ、彼女に好奇心を1ミリも向けてもらえていない兄さんたちは全く眼中にないってことだな。」


・・・・・・・・・・・・・・・・。


 秋生の言葉に一瞬空気が固まり落ち込んだように俯く佐久良家一同に言った本人も冗談のつもりだったのだが、本気に取られて思わず謝罪する。


「じゃあ、明日横浜にいる者たちに連絡しよう。恵を見つけたら即時陰から見るようにと。」

「私を横浜に向かわせてください。」

「瑛斗、お前には治療の役目がある。」

「お願いいたします。」


 瑛斗は白鳳の言葉も避けて敏明に願い出る。頭をつけて頼む瑛斗に何かを考えるように数秒の間があいたのち、敏明は頷く。


「わかった。行ってこい。」

「ありがとうございます。」

「だが、秋生と奏の同行でしか行動をしてはならない。」

「はい。」


 人がつけられたが、瑛斗は2つ返事で頷く。

 もともと、恵の傍に居られるならどんな条件でも飲むつもりだったので、瑛斗は予想より軽い条件で安堵する。


「おじい様、あそこはとても怨念が濃い場所で危険です。姉さんに万が一の場合があることも考慮して横浜に入る前に見つけて安全な場所に移動するのがいいのではないでしょうか?」


 しかし、奏は納得できていないようだ。彼が敏明に逆らったのは初めてのことで周囲が驚いている。


「奏、そんな危険から守るのがお前たちの役目だ。わかったな。だが、危険だと判断したらお前が嫌われる覚悟で姉を無理やりこの屋敷に連れてこい。あとは私が何とかしよう。」

「・・・はい。」


 まだ納得できていないながらも奏は側近たちとともに出ていく。

 そんな彼からは見えていなかっただろうが、敏明は、どうしよう、という少し困った顔をしていたのだ。それを瑛斗もその場にいた大人たちは見逃さない。


「当主、本当に嫌われたらどうされるのですか?」

「う、うるさいない!」

「親父が嫌われたら俺と住むことになるかもな。恵が住む家はすぐには修復できないからな。」

「そんなことをさせるかっ!あの子はここに住むに決まっているだろうが」

「そうかな。まあ、どっちみち兄さんの覚悟が決まらないと無理だと思うけどね。」


 秋生の言葉で視線は敏明から貴明に向けられる。


「そうだな。」


 貴明はただ一言だけ発する。重みがある声で彼なりの考えや感情がそこに含まれている。

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