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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
本物の鬼ごっこ
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66話

 しかし、恵が思ったような展開にはいかなかったのだ。

 その知らせが届けられたのはレイドリックと話して数日経った祝日だ。瑛斗は買い物に出かけていて恵は家の自室にこもってパソコンと睨めってをしている。


 ピンポーン


 防音が落ちているのか聞こえないはずの部屋に音が漏れてきて恵はそれに反応してしまい、彼女は何となく気になり玄関に向かう。


 覗き穴から見てみれば、立花弁護士が立っている。


「どうしたんですか?」


 恵はドアを開けて彼に尋ねる。

 立花弁護士は一目でわかるほどに焦燥しており、以前佐久良家への招待話を持ってきたときに感じたものとは違って、悲壮感まで漂っている。それを見た瞬間に、彼女は彼にとって不幸な何かが起こったことはすぐにわかる。

 しかし、恵が立花弁護士に対して気を遣う理由にはならず扉の中には入れても玄関と部屋の中の間は区別する。


「実は。」


 ガチャ


 その瞬間、鍵をかけていないドアが開いたかと思えば、タイミングよく瑛斗が帰宅する。彼は立花弁護士を見るなり口を一文字にしてその目は立花弁護士を非難しているようにとらえられる。

 2人の無言から彼らに関係あることで瑛斗がすでに認識している内容であることを察した恵はウキウキと提案する。


「桜井さんに用事なら私は下がっておきますよ。」

「いいえ、彼ではなくあなたに用があります。」


 しかし、立花弁護士によってあっさりと却下されてしまう。


「今度は何のご用ですか?鬼さんは解決する糸口をつかんだのですから後は専門であるあなた方の管轄だと思いますけど。」


 ガチャ


 またも、少しばかりパソコン作業で煮詰まって苛ついた恵が強く言ったところで鍵をかけていなかったドアが再度開くと、見覚えのある顔がドアからヒョイッと出てくる。記憶にかすかに残っているのだが、恵は思い出せず怪訝に扱う。

 そのうえ、入ってきたのは男性2名、つまり靴のある玄関に男性が4名もいるため結構窮屈のようで最後に入ってきた20代ぐらいの若い男性は体の半分がドアで隠れている。


「あなた方はどなたですか?桜井さんへの用事ですか?」

「俺たちはどちらでもいいんだが、こんな者です。」


 最初に入ってきた鋭い目つきをした男性が出したのはサスペンスドラマでよく見る警察手帳だ。しかし、警察に尋ねられる用件なんて恵は関わった覚えはない。


「私は家族はいないですが、犯罪にかかわった覚えも犯罪を目撃した覚えもありませんが、何かあったんですか?」

「聞いていませんか?」

「ええ。」

「あなたの学校で生徒たちがけがをしたことは?」

「ああ、それは聞いています。」

「実はその学校で教師の1人が警察のお偉いさんの息子で、彼が相談してきたからうちに確認をしてほしい、と言われて学生全員の家を回っている。」


 その男性の言葉に恵は驚きつつも頷くが、玄関から中には入れない。たとえ、その男性の後ろにいる若手警察だろう人が居心地悪そうにしている姿を見ても、恵は決して曲げることはない。

 手帳を見せた男性は立花弁護士と瑛斗と恵に視線を順番に動かす。


「しかし、込み合っているようなので、後日改めて。」


 と言って男性2人を含めた警察たちは帰ろうとするので、恵は慌てて止める。


「いいえ、大丈夫です。桜井さんは中に入って、立花弁護士、私から他に言うことはありませんからお帰りください。」

「ですが。」


 まだ言いつのろうとする立花弁護士に対して恵はにらみつける。彼女は月に1回あるかどうかの不機嫌なので八つ当たりも入っているがそんな顔が出てしまうのは仕方ないだろう。

 立花弁護士は引き際をわきまえていたようで、その場を警察たちの間をくぐって立ち去る。

 彼がいなくなり瑛斗が移動したことでスペースができたと思えば、2人以外にもまだ数人外に並んでいたようだ。全員入り切れないが、他3名が加わり5名が玄関に並ぶ。最後に入ってきた人物は明らかに他の男性とは違ってどこか育ちがいい雰囲気があり異色に感じていると、隣の瑛斗が軽く会釈をしている。それには驚くが恵は用件を優先させる。


「それで何が訊きたいのでしょうか?そんな大したことは何も言えませんが。」

「そうだな。今回の一件だが、西寺さんはどれほどのことをご存じなのかな?」

「犬にかまれたことと、15人全員がその日一緒に遊んでいたことぐらいです。」


 レイドリックから聞いた話をかみ砕いて恵は伝える。それに頷きながら先頭に立つ男性が頷く。


 手帳を見せてくれたときに名前まで確認できなかったな。

 名前がわからないままなんだけど、今後関わることはないからいいかな。

 40代ぐらいで残りは部下という感じなので彼はベテラン警察官だと思うけど、あの一番後ろにいる人は一体誰だろう?見た感じ他3人とは着ている服は出かけるとき用のようだし、なんかこっちに向けている視線が気やすい。

 桜井さんの知り合いだから、きっと佐久良家関係だよね。

 

 恵はなるべく一番後ろの異色男性には目を向けないようにただ質問に答えることだけに集中する。


「ほかに何か聞いたか?」

「いいえ、何も。ところで、その相談した教師ってもしかして鳴海って苗字ですか?」


 恵が尋ねるとその場にいる大人たちは驚いた顔をする。それはただのカマかけだったのだが、相手が子供と油断したようであり、彼女にとっては大きなことを知ってしまったと興奮がわいてくる。


「よくわかったな。なんでわかったか訊いてもいいか?」

「そんなの勘です。あなた方が反応してくれたおかげでわかりましたよ。」


 恵はしてやったりと得意げに見せると、彼らはまた驚いた顔をして会話をしている先頭の男性は大っぴらに手で顔を覆ったかと思うと笑いだす。


「これはまたスゲー姫様だな。あの時から思っていたけどな。」


 彼は大笑いしながら部下たちを引き連れて帰っていく。

 彼の言動からしてやはり恵は彼と会ったことがあるのだろうが、結局、彼女は思い出せずにいる。

 話している間に恵の苛ついた感情はいつの間にかなくなっていることに気づき、彼女は疑問に思うが気にしないことにする。


「桜井さん、立花弁護士の用件を知っていて何か用事があるなら好きに出かけてください。私は手が離せませんし。」

「いいえ、私がすることは何もありませんから、お気になさらず。」


 瑛斗はそう言ってダイニングの方に向かう。


 ガチャ


 その瞬間、また鍵をかけ忘れてしまったドアが開く。

 そこには土下座をしそうな真っ青な顔をする立花弁護士が立っている。


「お願いします!恵様、話を聞いてください。」


 彼は頭を下げる。その声に偽りは感じられず、彼が切羽詰まっているのは恵にもわかる。


 彼女はいったん落ち着かせるために彼をダイニングに入れて瑛斗にお茶を用意してもらう。怒りを鎮める効果があるハーブティーを飲んで立花弁護士はホッと息を吐く。


「それで用件をどうぞ。」

「実は昨日の話ですが、恵様に言われて横浜で中心になっている部分を我々と横浜を中心に活動している李家で隊を組んで発信となっている人を探すために動きました。そして、場所は特定しその日中に決着をつけるだろうと思っていたんです。我々も。精鋭で組んで、その中には一門でも悪魔を召喚し使役として使い悪魔祓いを得意とする家の次期当主もいたんです。鬼は悪魔よりも力が劣るため彼らが負けるはずもないことは誰の目にも明らかでした。しかし、結果はその特定した場所に行った部隊全員重軽傷を負い、彼らは現在治療中です。一応、治癒の異能を持つものが総出で対応していますが、彼らが受けた傷は呪いのようで浄化ができておりません。」


 立花弁護士の説明を聞いているうちに恵は嫌な予感がしてきたが、表情には出さずにじっと聞いている。


「その呪いを見た李家の当主である李英蘭様に対応いただいてやっと浄化ができるように強いものでした。しかし、かの方々が言うのは怨念のようで完全には取り除くことは難しいそうです。」

「そうですか。それは大変ですね。」


 悔しそうにしている立花弁護士を見ながら恵は同情の言葉を吐くが、彼女にとってはすでに他人事なのでそんな言葉も軽く聞こえてしまうだろう。


「先ほど言った家の次期当主となるはずだった男性が目を覚ました時に

『鬼じゃなかった。』

 と言いました。」

「そうですか。クモさんもたまには間違いますよ。」

『私は間違わない。だいたい、私は発生源は人だって言ったぞ。誰も鬼だなんて言ってないだろうが。戦力不足、実力不足だっただけだ。あと、そんなに鬼を作成できるほどに強い恨みを持っている人で鬼にならずにいるってことは、悪魔でもいるんじゃないの?それを専門としている奴があっさりやられたってことはお前の家来と同じ血族かもな。』

「血族?」


 急に姿を現して肩に乗ってきた幼稚クモから発せられるクモさんの説明に恵は首をかしげて瑛斗を見る。


『そう、悪魔にも血族っていうものがあるんだ。それと階級。王族、貴族、平民がある。』

「19世紀のフランス見たいですね。」

『200年ぐらい前の話だ。今でも人には階級があるだろう。そして、お前の家来は王族の血を引いている。奴の母親は魔族の王の娘だからな。』

「へえ、王様か。どうやって見分けたらいいんですか?」

『そんなの簡単さ。平民は醜く、貴族と王族が容姿がいい。そして、王の血を引いている奴ってのは全員銀色の目を持っている。それはどんな血が混ざろうとも変わることはない。』


 恵は腑に落ちる。

 瑛斗のきれいな銀色の目のルーツがやっとわかったのだ。


「それで、クモさんは今回のその発生源となっている人ってどうやったら追い払えると思う?」

『そんなものはお前がやる気になるかどうかだろうな。以前、俺たちを助けてくれたようにお前ができれば一発だ。そのけがを負った奴らも町で暴れている奴らも一気に平常に戻る。』

「それ以外は?」

『あとは、結界を使ってそいつに引っ張られないようにして、強い言霊で気絶でもさせればいい。気絶させれば一瞬だがその発生源と契約している大本の鬼の間の契約が緩む。そいつを切ればいい。』

「大本の鬼?」

『そういう人の強い感情に影響される場合は、鬼になる可能性の奴らとつながりのある人が対象となる。生贄というやつだ。そいつが関係する奴らが鬼になっているんだ。だから、その間を切れば自然と鬼の発生はなくなり、鬼になった奴らも我に返る。』

「複雑だね。」

『起爆剤は強い怨念を発している人、ネットワークの大元はその鬼に落ちた人間。』

「よくわかりました。でも、そう考えると起爆剤を押えても、大元、つまりメインはもう起動してしまっているから全員の電源が切れることはないのではないですか」

『いや、起爆剤はその鬼と密接な関係があり、その鬼は無理にやらされている可能性が高い。例えば、家族。それが最も効果的。』

「えっと、つまり、その家族を犠牲にして自分の欲を満たそうとしているってことですか?」

『そういうことだ。』

「人とは思えないですね。あ、私が言えることではありませんけど。」


 恵は思わずこぼれた発言にすぐに肩をすくめて笑う。彼らは複雑な顔をしつつ恵の反応をうかがっている。


「私は協力する気はありませんよ。」

「あなたの学校の生徒も被害を受けています。」

「だから?」

「次はあなたかもしれない。」


 恵の反応は予想外だったのか立花弁護士の焦りと少しばかり怒りが含まれた声音が彼女に向かってくるが、彼女はそんなものは気にしていない。


「そうなれば、あなた方の願い通りではないでしょうか?私は巻き込まれない限りこの件にかかわる気は一切ありません。でも、あなた方はどうしてもこの件にかかわってほしいと願っているようです。その方があなた方の望みは叶いますよ。言っておきますが、私は聖人君主なんてものではありませんし、ここにいる桜井さんやあなたがどうなっても知ったことではありません。クモさんの時に力が使えたのはおそらく彼の被害が自分に被ったからですよ。そうならない限り私は自分の力を使うことはありません。」


 失礼します、と言って、恵は言いたいことだけ言ってその場を立ち去る。そこで見た彼らの顔には怒りより戸惑いの方が大きいようだ。


 しかし、これが事実なのだからしょうがない。

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