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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
本物の鬼ごっこ
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63話

 立花弁護士からの突然の佐久良家への招待にはすぐには頷けないので、学校付近で彼の車も止められる駐車場がある喫茶店に入る。個人経営でコーヒーや紅茶に使用する原料の豆や茶葉は直接マスターが仕入れているので味はおいしいが値段が高いという評判のお店だ。そのため、恵は興味はあったが、もともと外食はしないことと、倹約でもあったので一度も入ったことがないが、学生は部活の終わりとかに軽食も用意されているので立ち寄ることも多いらしい。

 この日は平日であることと、普通の生徒たちは部活なのでほとんど貸し切り状態だ。


「それで、なんでそんなことになったんですか?」


 座って注文した紅茶とコーヒーが運ばれてすぐに恵は向かいに座った立花弁護士に切り出す。隣の瑛斗が驚いた様子がないので彼は事情を知っているらしい。


「恵様も見かけたと思いますが、鬼が人の世に交っています。」

「そういえば数日前に見かけました。それが何か関係ありますか?」

「すでに一般人への犠牲者が出ているんです。」


 それから立花弁護士が続けた説明が始まる。

 それを要約すると、鬼は人を襲うことはそんなにないが、まれに暴走して人を食べることがあるらしいので、存在が確認されれば適切に対処するらしい。鬼はもともと人であり、魂の堕落により鬼に転じる。彼らが求めるのは生きている人の欲だが、それをもらうとその対象者は廃人となりやがて白骨になる、というのだ。

 そして、廃人と化した人はすでに15人発生しており、白骨は10体現時点で見つかっている。しかし、これらは発見されているものであり実際の被害はこれの5倍を見積もっている。これらはすべて横浜周辺で発見されており、一門の人が対処している。

 ここまでが立花弁護士からの説明だ。


「それで、なんで私が佐久良家に行くことにつながるんですか?横浜ならここから離れていますし、私関係ないですよね?まさか、鬼が近くにいるから、というのが理由ですか?それなら却下です。私に無理に押し付けてきた彼は一体何のためにいるんですか?それより、ここに住んでいる人への対処を考えてください。」

「恵様、一般人への対処はこちらで行います。しかし、あなたが一番標的になりやすいんです。」

「どういうことですか?まさかと思いますが、この目が原因ですか?」

「それは。」


 立花弁護士は言い当てられたのか気まずい顔をする。なんと言っていいのかわからない、と言ったような表情だ。それから間があいたのだが、意外にもここで話を引き取ったのは瑛斗だ。


「恵さん、鬼が人の欲につられるというのはご存じですよね?」

「はい、何度も聞きましたから。」

「彼らはもう1つ惹かれるものがあります。それがあなたの力です。」

「なんで私限定なんですか?」

「あなたには浄化の力があります。一度使いましたよね?奥多摩の別荘に行った時のことです。」

「そういえば、クモさんがそんなことを言っていました。」


 恵には力を使った時の記憶はない。しかし、奥多摩の別荘に行った際、クモさんの願いは叶えられたことは覚えている。


「つまり、鬼たちは本当は人に戻りたいって思っているってことですか?」

「いいえ、彼らはただ自分にとって都合がよいものに惹かれるだけです。浄化はその1つにすぎません。彼らは人が魂を堕落させてできたなれの果て、つまり、彼らは欲の塊と考えてください。」

「磁石みたいな?」

「ええ、そういうことです。」


 瑛斗の言いたいことがやっと理解できた恵は少し吐き気がする。


「力っていうのは持つものではないですね。望んでもいない家族とかいう存在や関わることもなかった人ならざるものや悪魔との関係までも連れてきました。それに、これまで会った罪を犯してしまった人たちも同じで、人との関係を悪化させただけでした。本当に疫病神のなんでもない。」


 恵は疲れてせき止めていたものが一気に流れ出してしまい、止められないのですべてを出して紅茶を飲む。


「行きましょう。佐久良家に。なんなら、この目をくり抜いてくれてもかまいませんよ。医者でも連れてきたら一発です。お金に困っていませんから海外とかから名医を連れてきてくれたらありがたいんですけど。」

「そのようなことは致しません。」


 恵は冗談のつもりで言ったのだが、相手は本気にしたようで立花弁護士はムッとした顔をする。


「そうですか、残念です。まあ、私も目がなくなると困るんですけど。生活に差し支えがありますから。」


 恵は肩をすくめる。それには、2人の男性は苦笑している。


 喫茶店を出てから立花弁護士が運転する車に乗って走ること20分ほど、都内の大きな門が見えてくる。それが見えるまでの道のりで以前の初めての乗り物酔いの経験をしたので危惧していたが、そんなことにはならず快適な移動だった。

 車がその入り口まで行くと自動で重々しく開きそこからさらに車が中を進む。


「桜井さん、ここって都内ですよね?」

「ええ。住所はそうですね。」


 あっけらかんと返す瑛斗に驚愕している恵が馬鹿馬鹿しく思えるが、もう返す言葉もない。それから両脇に木が植えている並木道を通っていくとやっと家らしい大きな建物が見える。その奥にもまだ道が広がっており、少し遠目には屋根が3つほど見える。目の前にある家を含めて4つのうち2番目に大きい建物に入るようだ。敷地面積を考えるだけで恵は身震いするのだ。


「ねえ、桜井さん。ここってどこ?」

「恵さん、ここは佐久良家です。何度確認されても答えは変わりません。」

「ですよね。」


 ハハッ


 恵はもうから笑いをするしかない。

 彼女に用意された一軒家や奥多摩の別荘を見たときには裕福な家だとなんとなく認識していたのだが、規模は予想をはるかに上回っている。恵は言葉を出すだけで恥をかくような気がしたので、今後一切話はあまりしないことを心に決めておく。


「当主、恵様と桜井をお連れしました。」

「入れ。」


 屋敷の回廊を通って一番奥のふすまの前で止まり、当主の重みのある返事を聞いた立花弁護士が横にずれてふすまを開ける。


「ああ、よく来たね。」


 そこには先ほどの声とは打って変わって柔らかな声を出す2度目に顔を合わせた祖父と名乗った老人を中心に左右に年齢層様々な男女がおり、見たことのある顔とそうでない顔がそろっている。まるで、危ない会合のようだ。

 そして、老人の前に置かれている座布団は2つ。老人から最も近い場所に1つ、後方に1つ配置されている。恵は瑛斗を前に座らせようと彼を先に行かせようと彼が動くまで立ち尽くしていたのだが、なんと瑛斗は一歩も足を出さない。1分経つ頃には焦れた恵が瑛斗の方を見るが、彼は顔を合わせずに前を見据えたまま全く恵の意図を感じないようにしている。


「恵様、進んでください。」

「え!?私ですか?」


 そして、焦れたのは恵だけではないようで、ふすまを開きそのままそれを壁にして片膝をつく格好で控えている立花弁護士が恵に進言する。恵は驚いた声を出して自分を指して確認すると、彼は大きく頷く。

 恵は納得できないながらもこれ以上待たせるのは忍びなくなって、前に進み後方の座布団に座る。


 先に進んだ方が好きな座布団選べるんだ


 恵はその利点を見出したのだ。意気揚々と座り、彼女の意図通り瑛斗が前方の座布団の方に向かった、のだが。


 彼はなんと座布団を恵の後ろに持って行ってしまい、そこに腰を下ろす形になる。つまり、位置が少しだけ後方に移っただけだった。


 それあり!?


 恵は驚いたものの、ここで不満をいえば自分が不利になることはわかっていたので口を挟まない。


「では、始めよう。」


 当主であり祖父である老人は一瞬眉間を引くつかせていたようだったが、なにごともなかったように声をかける。それを合図に話し合いが始まる。

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