61話
本日から新章になります。
引き続きよろしくお願いします。
体育祭が終わり、学校のマドンナたる三ヶ島美鈴が学校を辞めた。彼女は同時にモデルもやめることになり、それはニュースとして小さく取り上げられた。彼女は雑誌の表紙を飾るほどの人気モデルだったために、テレビで報道されることもあるのだろう。しかし、その理由は『体調面の理由』とだけ伝えられ、それを聞いた学校の生徒たちは嘲笑する人がほとんどだった。
それから数日たち、いまだ噂する人は多いが、もう会うことはない人の話を好きに言いたい人だけ言わせておけばよいと最初注意していた学校の教師たちもすでにそれを止めている。SNSですでに三ヶ島がいじめをしていたことや裏で体を使って仕事をとっていたことなど、面白おかしく拡散されてしまい、もう止めることもできないことも要因の1つだろう。瞬く間に広がったそれは世間が飽きるまで広まり続けるだろうし、海外にいるだろう彼女はそれをネットで見て外も歩けないのだろう、と恵は哀れに思いつつ原因の一端である隣の席を見る。
彼は終始その件に関しては黙秘をしており、彼のことを書こうとは今まで誰も思わないようだ。なぜなら、この一件で三ヶ島の実家が経営していた会社の業績はガタ落ちし、一度瑛斗のことをモザイク写真付きでSNSにアップしようとした生徒は、アップされると同時にウイルスに侵されたことで、その生徒の方が自分の写真付きで恥ずかしい過去をアップすることになり不登校になったのだ。そんな事例があったが故に、それ以降誰も瑛斗に対して行動を起こすことができなくなった。
そんなことがありつつも、無事に1つの行事が終わり、次の行事は文化祭だ。その間に中間試験があり、恵はその試験勉強に追われている。
「はあ、頭痛い。」
恵は頭を抱えて家ではなくその近くにある図書館にある個人用机でノートと教科書に向かってぼやいている。相手は無機物なので答えてくれるわけがない。
なぜ、こんなにも頭を悩ませているのかというと、恵は面倒ごとに巻き込まれたことで遅れていたネットで稼ぐための個人業に必死になっていたからだ。そのため勉強に充てている時間がなく、唯一宿題はしていたので理系科目は問題ないことが救いだが、歴史はまっさらといっても過言ではない状態だ。
一気に情報を入れてしまったために、彼女の頭は今すぐに破裂しそうな風船のような状態だろう。
「恵さん、試験まであと4日ほどもありますから、少し一息ついたらどうですか?」
図書館に行くと言ったらついてきた瑛斗が恵のところまできて声をかける。
「もう少ししてからにします。切りがいいところまでしないと終わりが見えませんし、私はもう少し頑張ってからにしたいんです。」
「そうですか。甘いものでも、と。」
「いえ、やっぱり適度な休憩は必要ですよね。」
瑛斗の発した単語に反応してしまい、あっさりと恵は発言を撤回する。
ちょうど15時で休日はこの時間によくおやつを食べたこともあり、彼女は小腹が空いてきたところだったのだ。
2人は図書館に併設されている喫茶店に向かい、恵はパンケーキセット、瑛斗は本日のケーキセットをオーダーする。
ここの喫茶店は個人店でもあり、すべてのメニューが手作りであり家庭料理感があって恵には親しみやすい場所だし、図書館の近くということもあるため騒がしい学生がいなくて、コーヒーや紅茶片手に本を読む1人客から少し小さな声で世間話に花を咲かせる数人の年配客ばかり。そんな落ち着いた雰囲気が好きで恵はここに図書館の帰りに立ち寄ることが楽しみでもあった。図書館によることはほとんどないが、恵はたまに本に囲まれたいこともあり、月に1度か2ヶ月に1度の頻度で通っている。
しかし、この日は変わった客がいて、その客に恵は自然と目がいく。
「すごいな、なんであんなに食べられるんだろう?」
窓際の一番奥で目につきにくい場所で窓を見る形のカウンター席にかける少し寄れた10月に着るにしては薄手の黒いジャンバーを着た男性が座っている。そんな彼を誰も全く気にしていない様子ではあるし、普段なら恵も気にしなかっただろう。しかし、彼の前には大量の食事が並んでいるのでこれは注目しないわけがない。
彼の前には大皿のナポリタン、サラダ、スープ、ワンプレートの2段パテが挟まれた大きなハンバーガーとフライドポテト、パンケーキとコーヒーフロートが並んでいる。どれもこれも喫茶店の定番メニューであるし、誰もが一度は食べてみたいものばかりで目移りするだろうが、それらを一度に食べる人はいないだろう。
その男性を観察していると、彼はナポリタンとサラダ、スープをものの10分ほどで完食してしまうと、ハンバーガーは大きな口のようで5口ほどで完食してしまい、あっという間に空になった皿が並んでいく。そのあっぱれな食べっぷりに恵は見ているだけで夢中になってしまい、自分の目の前のパンケーキを食べられずにいると、瑛斗が見かねて声をかけてくる。
「恵さん、せっかくのおやつや飲み物が冷めてしまいますよ。あと、そんなふうに他人を見るものではありません。」
「そうですね。そうですけど・・・。」
しかし、瑛斗の苦言のような言葉に頷きながらも恵は男性から目が離せないでいる。
それは彼の豪勢な食べっぷりに感心したからというのもあるが、一番は彼の姿そのものに何か違和感を感じたからだ。そこにいるのに、どこか遠くにいるようなそんな感じが彼女にはする。
『鬼』
その答えは肩に乗っている幼稚クモから与えられる。その瞬間、瑛斗はしかめっ面をしており、瑛斗にとっては歓迎できる状況ではないようだ。
「鬼?鬼ってあの鬼?でも、牙とか角とかないですけど?」
『それは架空の世界だろう?鬼は人の欲から生まれるものだから、普段は人に成りすますことができる。』
「そうなんですか。知らなかった。あんなに食欲旺盛なんですか?食費が結構かかりそうですね。」
『鬼は人に成りすますだけ、この世界に生きるだけで体力を消費する。彼らが食べるのは人の欲だ。人の望み、願望そんなものを食べて生きていく。お前が括っている人ならざるもの、妖は人の恐れから生まれてそれがあるから生きられる。そして、お前の前にいるそいつの血に混じるものは人の生気、つまり命を食べれば生きていられる。永遠に。終わりなどない。あれは本来食べるべきものを食べていないからお腹が満たされなくても食べた気になりたいだけ。』
「なるほど。じゃあ、あの人?鬼?は飢餓状態ってことですか?」
『そういうことだ。:
幼稚クモを通したクモさんの分かりやすい説明に恵は納得するのと同時に首をかしげる。
「なんで、あの人は飢餓状態なんですか?人なんて欲望にあふれた生き物でそこら中にあふれているのに。」
『それは。』
「もういいでしょう。あなたも余計なことをこの方に吹き込まないでください。」
恵の疑問に答えようとしたクモさんを止めたのは瑛斗だ。彼は怒りを持っているというより苛ついているようだ。
「恵さん、あなたが今一番気にしないといけないことは何ですか?」
「えっと、勉強ですね。」
恵は真面目に答えたつもりなのだが、呆れたようにため息をつき瑛斗は首を横に振る。
「いいえ、それを食べることです。」
すでに冷めきった紅茶とパンケーキを彼は指す。それにすぐに反応した恵は思い出して食べ始める。それで恵の意識は完全に鬼である男性から離れる。




