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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
哀れな誘拐犯
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59話

 恵は教室の様子が気になって顔をあげると、

 教室の異様な雰囲気に鳴海教師は驚いている様子を隠せない。


「ああっと、タイミングが悪かったな。」


 ギロッと教室にいた生徒たちからの視線に耐えかねたように彼は回れ右したところで止めたのは瑛斗だ。


「いいえ、もうホームルームの時間ですよね。」

「ま、そうだが。」

「というわけですので、先輩も戻った方がいいでしょう。」


 瑛斗は三ヶ島に視線をやると彼女は悔しそうに口をかみしめて一瞬恵を睨みつけたと思ったが、何もすることはなく教室から足早に出ていく。

 固まった空気の中、鳴海教師はわざとらしい咳払いを合図にスーッと波が引いていくように生徒たちは各々の定位置に戻っていく。


 今日は波乱かな。他人のことで。


 恵はため息を吐く。


 1日はあっという間に過ぎていく。

 文化祭があるが、1年は催しを楽しむ側なので何かを決めることはなく、日時の連絡のみがある。休日2日がつぶれてそのあと2日休みになることに恵は落胆する。なぜなら、その指定されている土曜日は彼女が行きたい朝市が開かれるからだ。しかし、登校と同じで休めば欠席がつけられてしまうので恵に選択肢などありはしない。


 放課後まで何もなくいつもと変わらない日常だったので恵は安心していたが、放課後になって、教室から出ようとすると、そのドアのところに三ヶ島がいる。

 すぐに恵は彼女の前をあけて後ろにいる瑛斗を前に出す。


「桜井さん、お客です。」

「いいえ、私はあなたに用があるの。」


 恵がせっかく瑛斗を前に出して告げてあげたのに、それはあっさり三ヶ島によって台無しにされる。その言葉に、やっぱり、と思いながらも恵はとぼける。


「私ですか?なぜでしょうか?」

「理由は後で言うわ。とりあえず、来なさい。」

「い、いやいや、そんな強制連行なんか受けるはずがないでしょう。たかが、先輩後輩ですよ。」

「そうよ。私は先輩。そして、体育祭であなたに応援合戦を台無しにされたわ。」

「いや、あの、桜井さんも欠席でしたけど。」


 いいから、と苛立った三ヶ島によって強い力で腕をつかまれ力任せに引っ張られるかと思ったが、瑛斗は当然それを許さず、三ヶ島の腕が折れるんじゃないかと思うほどに彼女の腕を音がするほどに掴む。そのあまりの激痛に耐えかねた三ヶ島はすぐに恵から手を放し、その場で呻いて座り込む。


「何をするの!こんなの暴行罪よ。」


 痛みがひどいのか彼女の顔は鬼のようにしかめられており、袖を捲り上げて彼女は慌てて確認するが、音がしたとは思えないほどにきれいな腕である。腫れるどころか青くなったりもしていない。一方、恵が腕を確認すると、そこにはくっきりと手跡がついていて痛みの表現が第三者からギャップがある。

 つまり、三ヶ島は大げさに痛がって見せて生徒たちから同情を誘おうとしていることがその場にいた生徒たちには感じられ、彼女が悪になり評判がガタ落ちになったのだ。これで、彼女のファンは一気に減るだろうし、今やSNSで情報が飛び交っているので、ここから彼女の悪い噂が出回る可能性もある。

 恵はそんな最悪な予想をしつつ、この場から早く去りたいために座り込んでいる三ヶ島の隣を通って出ていく。


 帰宅して瑛斗が夕食時に聞いてもいないのだが宮地の今後と三ヶ島のことを話し出す。


 宮地達也の弟が婚約した相手が三ヶ島美鈴であり、彼女は宮地達也を学校に招いた人物でもあった。それも、彼が恵を学校から誘拐しようとしていたことを知っていて、恵が応援合戦の後も現れなかったら教師に連絡し宮地達也の計画書も渡す手はずだった。三ヶ島美鈴は婚約破棄を狙っていた。

 宮地家は表向きは小さな町工場をしている傍ら、夢買いの仕事もしていた。そして、三ヶ島美鈴の婚約者でもある宮地家次男は近年成長しているIT企業を経営している。ITエンジニアと経営をこなす彼の才能を買った三ヶ島美鈴の父親が申し出た婚約であり、そこに三ヶ島美鈴の意思は関係ない。彼女は虚栄心の塊のため外見も平凡より少し優れている程度、財産もそれほど多くなく、彼女には理解しがたい裏稼業までしているとなれば、彼女にとってのメリットは全くないに等しい。不満が多く彼女はモデル業を通じて出会った顔が良い相手とベッドを共にする間柄になったようだ。しかし、彼らには彼女を満たすだけの財と地位がない。

 そこに現れたのが三ヶ島美鈴にとって都合の良い相手だ。地位も財も外見も申し分ない瑛斗が現れ、しかも学校の後輩で誰にも靡かないといわれている人物。彼女が夢中になるには十分な条件がそろっている。しかし、問題が1つあった。それがいつも一緒にいる相手、恵だ。彼女が恵のダンス指導員になったのも偶然ではなく、彼女から言い出したことであり、匙を投げたふりをして恵と一緒にいる瑛斗との距離を詰める算段だった。

 宮地達也は言いように使われたということだ。


「そんな話を聞くと、三ヶ島美鈴さんは自業自得ですが、宮地達也さんは可哀そうですね。周囲全員敵しかいませんね。それで、伝言の伝達と彼の一件を隠すお願いはかなえられそうですか?」

「もちろんです。こんなに詳しいのは彼女の持ち物から宮地達也の計画書をすでに回収しているからですよ。まあ、その計画書は三ヶ島美鈴のですが。あなたの誘拐の時間と自分が私に接近する時間、あとは教師に報告する時間も記載ありました。あと、宮地達也の筆跡ではない犯行予告みたいなものとか。」

「フフッ、サスペンスの見過ぎですね。それも間抜けな犯人見たいです。」

「そうですね。」


 恵は彼と笑い合う。


「宮地達也さんの両親へは?」

「彼らには伝えましたが、改善はおそらく無理でしょう。彼らは弟を持ち上げて兄を下げて話していました。おそらく、彼らにとっては兄は弟をあげるための道具でしかありません。弟も兄を小ばかにしている節が見えました。」

「そうですか。他人の家のことなのでこれ以上は無理ですね。宮地達也さんは保護できそうですか?」

「はい。丁重に保護します。禁術の使用者ですから。」


 最後にそういった瑛斗の顔が一瞬だけ言いにくそうにしていたが、恵は気づかないふりをする。恵は別にそういう世界に足を踏み入れているわけではないので口を出す権利はないし、餅は餅屋、の言う通り、異能の世界のことは専門家に任せるだけだ。


 これ以降、恵の前に三ヶ島美鈴も宮地達也も現れることはなかった。

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