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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
哀れな誘拐犯
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58話

 体育祭があった日から数日後、やっと休みが明けて学校に行くと後夜祭の話題で持ち切りだ。マドンナである三ヶ島が景品とされていることに何も言わなかったのだが、”最後だから”と1人の男子だけと踊った、らしい。

 そして、その相手は恵の予想通り、彼女の隣に座る人物、瑛斗だ。

 誰もが教室にいつも通りに座る彼に目を向けている。


「ねえ、瑛斗君、訊きたいんだけど、いい?」

「何でしょうか?」

「後夜祭で三ヶ島先輩とだけ踊ったって本当?」

「時間がありませんでしたので。」


 キャーキャー


 1人の女子生徒の質問に瑛斗は率直に答えると、そこから黄色の悲鳴が沸き上がる。この流れは恵が認識しているだけで登校してからホームルーム開始5分前のこのわずか数分の間に5回は聞いて飽き飽きしている。彼女はもう聞こえないふりで机の上に突っ伏す。


「失礼します。」


 そこへ当人が登場する。

 それに一同が静まり返り、彼女、三ヶ島が歩いてくる靴の音だけが響くが、それもすぐにやみ、誰かが緊張のためか息をのんだ音がする。


「瑛斗君、後夜祭は楽しかったわ。」

「そうですか。」

「後夜祭、私とだけ踊ってくれたことはとてもうれしかったわ。やっぱり、瑛斗君と私は同じ気持ちだったんですね。」

「気持ちとはどんな?」


 え?と瑛斗の切り替えしに三ヶ島は虚を突かれたような声を上げる。今まで少し弾んだ声が嘘のように戸惑いに満ちている。

 後夜祭で特定の相手とだけ踊るのはこの学校では告白に近い。それはこの学校に伝わっている1つの言い伝えのようなものだ。多くのカップルがその人とだけ後夜祭で踊ると彼らがそのまま将来くっついたから信憑性が高くなっている。

 そんな話を信じるほど恵は夢見てはいないが、この高校を受験する人の中にはこの言い伝えを信じて入学を決める人も多いらしい。その重要な部分を瑛斗は知らなかったのか、まだ食いついてくる三ヶ島に体育祭の夜に恵と話したことが原因なのかずっと外部に対して不機嫌である彼の声は冷たい。

 一方で、三ヶ島は焦っているようだ。理由としては周囲、特に野次馬根性旺盛である他クラスの女子生徒まで集まってきているのだが、彼らの中には瑛斗の反応で一気に彼らがクスクスと笑っている声が聞こえるからだろう。


 三ヶ島先輩はモデルで多くの男子生徒が彼女に1度は惚れると思うし、それが原因で振られた女子も少なくはないのだから、彼女が振られたら溜飲が下がる人も少なからずいるのだろうな。


 恵は音だけでそんな仮説まで立てられてしまう。

 本当ならこれで美男美女カップル誕生で体育祭の夜からひどくなった瑛斗の過保護が解消されていろいろと警戒する彼と距離を置けることを祈っていたのだが、反応を聴く限りは無理なことを早々に悟る。


「私とだけ踊ってくれたじゃない!つまり、私を選んでくれたってことよね!?」

「時間がなかったからと言いましたよ。それに、あなたは勝手に解釈されていますね。例のことは、”後夜祭でずっと”踊らないといけません。私があなたと踊ったのはたったの1回です。あなたがどうしても”1度だけ”と言って離さなかったから付き合っただけです。女性だから乱暴にはがすことを躊躇いました。火遊びもたいがいにした方がいいですよ。三ヶ島先輩。」

「な・・・・。」


 胸をたたいて強調する三ヶ島に対して至極冷静に瑛斗は対応し、それが的を射た理由だったようで彼女は言葉に詰まってしまう。


 火遊びって、浮気ってこと?不倫は結婚後の言葉だよね。三ヶ島先輩ほどに人気者だとそういうことをしたがるんだ。でも、あの人が付き合っている相手っていったいどんな人なんだろう。


 恵が気になったことは全員が気にしているのか戸惑いの声をあげる。

 それを聞いていた誰も三ヶ島の相手を知らなかったようだ。

 その時から痛いほどに感じる視線に顔をあげると嫌な予感がしたため


 鳴海先生、早く来て!


 と念じながらスルーする。

 しかし、こういう時に限って彼はやってくるのは遅いのだ。


「《《この子》》のせいね!」


 急に三ヶ島が大声を上げる。

 

「この子が瑛斗君の弱みを握っているからそんなことを言っているんでしょう?こんな子、無視したらいいのよ。私ならこの子からあなたを守ってあげられるわ。こんな友達1人もいないような子、簡単に。」

「簡単に?何でしょうか?」


 三ヶ島が続けようとする言葉を遮ってブリザードを吹かせるのは瑛斗だ。隣にいる恵の腕には鳥肌が立つ。


 お2人さん、言い合うなら外に出てからしていただけませんか?

 あなたたちのせいで私は風邪をひきそうですよ。

 それにそんな会話に第三者を巻き込むのはどうかと思います。

 ”この”が示す子がかわいそうですよ。


 恵は突っ伏しつつ腕をさすりながら彼らに苦情を心のうちでつぶやく。こんな嵐の中に喜んで飛び込む人などいないだろう。こっちが大けがをするとわかっているのだから。


「あなたが今まで気に入らない子をSNSでいじめていたから、それを実行するつもりでしょうか?どうぞ、それなら私にも考えがありますから。そういえば、それで命を絶った子もいたんでしたっけ。哀れですね。まあ、そんなことにはさせませんが」

「な、なんで。」

「情報収集は得意なんですよ。」


 楽しそうに話す瑛斗に対して愕然とする三ヶ島。

 すでに勝負は決している。いや、勝負にもなっていない。


「まあ、あなたでお話にならない場合はあなたの親に連絡するまでです。」

「なんでパパとママまで。そんなことで。」

「そんなこと?へえ、まあ、あなたにとってはそんなことでしょうけど、こんなことが公になれば、あなたの会社の損害は大きいですし、そんなあなたに育てたのはあなたの親です。未成年のあなたにはまだ責任を果たす義務はありませんが、あなたの親にはありますよ。」

「そ、そんな。」


 瑛斗が言葉で畳みかけてしまい、三ヶ島が床に座り込む。

 体が床にぶつかった音がクラスに響く。


「おはよう。なんでこんなに集まっているんだ?早く戻れ。もう、始まるぞ。」


 間が悪く鳴海教師が登場する。

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