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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
哀れな誘拐犯
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57話

 恵が瑛斗を見つけたのは閉会式の後だ。

 閉会式の後はホームルームはなく、その場で解散となり、教室に各自の私物がおかれているので、この後にある後夜祭の準備はあるが全員必ず教室に戻る。

 ちなみに、恵たちは優勝できずに僅差で2位だったので、焼肉もなし。後夜祭に出席できない人たちでこの後、もしくは後日に打ち上げをするが、話をしたこともない他人と行く気にはなれず、まっすぐに教室に戻っていたのだ。

 そんな彼女は背後から肩をつかまれて驚き咄嗟に手を振り払いつつも振り向く。そこに、少ししわになっている体操服を着た瑛斗が立っていたのだ。


「け・・・西さん、戻っていてよかったです。」

「はい、桜井さんも戻っていたんですね。」


 恵の名前を呼ぼうとしたので瑛斗をジト見て言い直してもらい、恵は彼を上から下まで一通り見て安堵して言う。


「では、私は先に。」

「え、ちょっと。」

「瑛斗君!こんなところにいたのね。」


 恵は瑛斗の背後の影にいち早く気づいて足早に立ち去る。

 予想通り、恵を引き留めようとした彼は後ろから彼の腕にしがみつくようにやってきたマドンナにより足止めされる。それを一瞬だけ見て恵はほくそ笑み教室に駆け足で向かう。


 夜に瑛斗は帰宅しないと踏み、恵はカバンを持って学校を出てスーパーに赴いて自分の好きなものを買う。


「こんな日は惣菜でらくしてもいいよね。」


 恵はルンルンと鼻歌を歌いながら買い込んだ戦利品たちが入った袋を手に提げて帰宅する。ちょうど夕方のタイムセールということもあり、いつもよりお得に、そして出来上がってすぐのものを買うことができて彼女は笑みが漏れてしまう。


「フフッ、あの人がいない分、私は贅沢する。」


 恵はそれらをテーブルに並べて豪快にお皿を使わずに容器のままスプーンや箸で頬張る。完全に瑛斗がいないことを想定して今までの生活に戻っている。

 彼女は基本的に倹約なので惣菜や外食の日はめったくにないが、それでも学校行事で体力的に疲れてしまうときは惣菜を買ってしまっていた。それが癖で高校に入ってからも根けていない。ただ、高校に入ってその機会が極端に減った理由は瑛斗が料理をこなしてしまうからだ。彼のおかげで西寺家にかかる食費はグンと抑えられているに違いない。なんといっても、彼女は惣菜にすると1食あたり1500円以上は購入してしまうからだ。


「おいしい。」


 久しぶりに食べる、フライドチキンにポテトサラダ、てまり寿司にサンドイッチ、そして、シュークリームとアイス、油と塩分と砂糖いっぱいの食事に恵はそれはそれはご満悦だ。

 食べていることを知られたらどれも瑛斗に止められそうな食事内容だが、その彼がいないからこその至福の時を過ごしているのだ。


「ありがとうございます。マドンナ。」


 この時ばかりは彼女は匙を投げたダンスの指導員である三ヶ島に盛大に感謝する。


「食べた。食べ過ぎてお腹がつらい。」


 恵はわずか15分ほどで大量の惣菜を完食してそれらの容器などを洗ってゴミ箱に捨てて、証拠を隠滅する。一応、換気扇も回して空気がこもらないように調整もしていると、


ピンポーン


 チャイムが鳴る。


「いないってことにしておこう。」


 うん、と彼女は自分を肯定する。

 しかし、そのチャイムは鳴りやまず連打で押されているのか、1回のチャイムが終わる前に後のチャイムが鳴り、音が重なることがさらに音量が大きく聞こえてしまう。


「うるさいな。」


 耐えきれなくなった恵は防音が聴いている自室に行く際に念のため訪問客を確認すると、覗き穴から見えたのは子供だ。異母弟の少年と見たことないようなあるような異母弟と同じ年ぐらいの少年の後ろの3人のよく似た年の少年が並んでいる。

 大人ならいざ知らず、まだ成人していない子供を5人もそのまま外に立たせるのは忍びなくなり、恵は要件だけ聞いて家に帰るように言うためにドアを開く。

 恵がドアを開き少年たちと目を合わせれば、彼らに緊張が走ったようでピンと背筋が伸びる。


「こんばんは。ね・・恵さん。」


 恵があの奥多摩で言った注意を慣れないながらも奏は守っている。


「こんばんは。奏さん。何か御用ですか?桜井さんはまだ学校なんですよ。そちらに向かった方がよいかと。伝言でよければ私から伝えておきますよ。」

「あ、いいえ、瑛斗さんではなく、恵さんに用事にあって・・・。」


 奏の言葉が突然切れて一点を見ている。

 恵の肩のあたりでそこには1匹のクモが我が物顔で居座っている。

 普通の人には見えていないと言っていたことを思い出した恵は驚いたように目を見開く。


「あなたはこの子が見えるのですか?」

「ええ、まあ。異能があるものであれば見ればすぐにわかります。」

「そうなんですね。」


 ・・・・・・・・



 気まずい空気が流れる。


 恵は別に相手に対して嫌な態度をとっているどころか丁寧に接しているつもりだが、彼らからすれば、恵は威圧を感じるのかもしれない。早く用事を済ませてすぐに帰宅してほしいのだが、その流れに持っていくための言葉が一種のコミュ障である恵にはできず、お互いに黙り時間が過ぎている。


「恵さん!」


 そこに帰宅してきたのは瑛斗だ。

 彼は体操服のままカバンだけ持って走ってくる。相変わらず、汗一つかいておらず疲れも見せない瑛斗に感心する恵だが、それよりも今この瞬間に現れる彼の間の良さに内心笑いが出る。


「あ、ちょうどよかったです。桜井さん。実は、彼らが私に用があるのですが、私は人見知りですから、桜井さんに代わりに用事を訊いておいてください。」


 あの、マドンナ包囲網を抜けてきたんだ。でも、桜井さんでも結構時間がかかったんだな。


 恵はフフッと楽しくて笑いながら瑛斗をその場において2階の自室に入る。

 それからどんな会話がされたのか、恵にはわからないが彼らが帰っていったのは恵が部屋が飲み物を取りに行った夜の9時は超えるまでの時間だ。


「恵さん、お話があります。」


 ダイニングのテーブルセットの椅子に腰かけている瑛斗が飲み物を取りに冷蔵庫を開けた恵に話しかける。真剣な口調ではあり、その時は恵の周囲で危険な目に遭った誰かがいたときだ。


 今回、危険だったのは私だけどね。


 恵は肩をすくめてお茶を入れたグラスを持って向かいの椅子に掛ける。

 その際、一口お茶を含んでふうっと一息つくのだ。


「恵さん、本日は御身を守れず申し訳ございません。」

「なんのことでしょうか?」

「・・・・・・・・・。」


 恵は誘拐犯となった宮地達也のことを恨んではいない上に、彼が犯したことをなかったことにしようとしている。それはとぼけたその恵の放った一言で示されたために瑛斗は反応に困ったようだ。


「恵さんは。」

「桜井さん、今日、私は気分が悪くなって休憩していたんです。学校の玄関と教室で。体調が悪いと床の冷たさに癒されるではないですか。私もそれにとらわれてしまって気づいたら昼ごはんは過ぎているうえに応援合戦まで終わっていて、あとで痛い目に遭いました。秋元教師と3年の先輩に。」


 まだ何か話を続けようとする瑛斗を恵は彼の言葉を遮ることで一切許さない。彼女の目と声、全身からの意思に彼は気おされているように押し黙る。ただ、真一文字に閉じられている口の状態を瑛斗は決してほどきはしない。

 恵は瑛斗から目を離してリビングの方を見る。そこにあるのは、瑛斗が来るまでなかった数人掛けのソファセットだ。彼が来てから少し経って彼がお客を招くことが多くなったため彼が勝手に誂えたものだが、黒色が白の壁によく合っている。


「桜井さん、最初に約束した通り、私はあなた方の事情に一切干渉しませんしあなた方も私のプライベートに対しては同じようにしてください。それができないなら桜井さんにもここから出て行っていただきます。」

「恵さん。」

「私の命も体も私のものであなた方に何か思われたくはありません。まあ、一言いいたいことがあるとすれば、今回の1件を引き起こすきっかけになった人たちにです。桜井さん。」

「はい。」

「できれば、《《彼》》の両親に伝えてください。”子供に力を求めさせて今回のことを引き起こさせたのはあなたたちの偏見のせいだ”と。」

「はい、かしこまりました。」


 瑛斗には恵が憤っている理由が伝わったようで最初に拒絶の言葉を聞いたときに強張った顔をそのままに彼は彼女からのお願いに頷く。ゆっくりと、恵は瑛斗の方を振り返る。


「桜井さん、やっぱり私が持った《《これは》》祝福ではなく呪いでしたよ。」


 恵は片目を押えて静かに言い、そして、グラスを持って静かにゆっくりと自室に戻る。部屋を出る際に見た瑛斗の顔は今まで以上に複雑な顔をしていた。雷神と風神の顔を足して2で割ったようだ。

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