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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
哀れな誘拐犯
56/164

56話

体調悪くて更新できませんでした。

更新再開します!!

~恵が脱出した頃 瑛斗~

 奏と彼の側近候補の4人とともに瑛斗は恵の行方を追っていたのだが、すぐに相手の素性が判明する。

 それが伝えられたのは貴明が霧島に行ってまもなく、彼が探索で3人の力を探り、そのうち1人だけを突き止めることができたからだ。うち2人の力は途中で完全にまるでなかったように完璧に痕跡を消しており、1人だけはとある屋敷へとつながっており、その場所まで途切れずに力の痕跡を残していた。そして、その力は詩子の体とつながっていたので、首謀者であるとされたのだ。

 場所はすでに伝達されたうえに、佐久良家当主である敏明から空間移動陣の使用を許可されたために、すぐにその近くまで彼らは飛ぶことができた。

 そこで、作戦を練ろうと奏が瑛斗に話しかけようとしたら、それよりも早く瑛斗はすでに屋敷を攻撃している。


ドンッ、ドドンッ


 怒涛の攻撃の嵐で屋敷から一瞬に黒い煙が上がり、結界はすでに破壊されてしまっている。ここに着くまで決して取り乱した様子も黙って何かを考えているような様子もなく、彼らからすれば通常通りのにこやかな優男のようだったので、その瞬時の行動には取り残された面々は目が点になってしまう。


「早く追うぞ!」

「ああ、そういえば、あの人、化け物だった。」

「そういえば、そうだった。」


 奏の合図に慌てたように側近候補の少年たちも動き出す。

 瑛斗は彼らの前で本気を出す姿は決して見せないが、依頼はすべて1人で完遂し、色んな話が彼らにも伝えられている。それでも、実際に見たことがないために少年たちにとっては”頼りになるお兄さん”ぐらいの認識だろう。こんな間近で怒り心頭でいつものリミッターなんて完全に外れている状態で、そんな話はあてにならないほどの事態に彼らは圧倒されてしまったのだ。

 そして、瑛斗を追って中を見てさらに少年たちは、うわー、とドンびくことになる。屋敷の中には使用人、それも異能を持つ者が多く存在しているにも関わらず、彼らは全員廊下の両脇に寝転がっている。まさに地獄絵図だ。


「うわ、あれ、大丈夫なのかな?」

「いや、もう虫の息だよ、きっと。良かった、後始末の担当じゃなくて。」

「本当だね。普段優しい人が怒ると怖いって本当だね。」

「おい、前に集中しろ。」


 その状態を見て感想を言い合う緊張感のない少年3人に対して奏の右腕的存在である少年が一喝したことで、3人にピリリと電気が走る。

 それから少し歩いて一番奥にあるドアを開くと桃色の部屋にたどり着く。そこに先に到着していた瑛斗は1人の男性を寝転がして男性の背中を足蹴にする。


「それでもう一度言ってください。一体、あの方をどうしたと?あの方の所在が何ですと?私がわかるように言ってくださいよ。宮地達也さん。」


 瑛斗が冷たい声で問いかける。

 宮地は答えたいのだが、すでに一撃を口に受けていて歯が数本折れており、口の中を切っている痛みで話すことがままならない。結果、彼は何かわめいているのだが、それは言葉になっておらず、何を言おうとしているのか外部に決して伝わっていないのだ。それを分かっているのか、宮地は悔し気に顔をしかめながらほとんど力尽きているのか、叫び終わると顔をあげることすらできずに体を震わせている。


「フッ、あの方さえ返していただければ私も奪われた魂がどうなろうと知ったことではありません。あの方は一体どこにいるのですか?あまり、気が長いほうではないのですよ。」


 瑛斗は嗤いながら背中に乗せている足に少しずつ力を加えていく。

 それが傍からでもわかるのは時間がたつたびに、瑛斗の足はどんどん宮地の背中の中に沈んでいき、彼の体は背中だけが曲がってU字に近づいているからだ。


「瑛斗さん!ストップ。とりあえず、落ち着いてください。」

「そうそう。そんなに焦っても戻ってこないですって。」

「大人の対応を見せて。」


 状況が佐久良にとって芳しくないことを悟った奏を含んだ面々はすぐに瑛斗を止めに入る。彼の腕や背中にしがみついてどうにか説得を試みる。


「いいえ、これぐらいしないと彼は本当のことを言わないでしょう。こんな趣味の悪い部屋にあの方を少しでも置いておいたなんて考えただけでもゾッとしますし、ましてや、すでにあの方がこの部屋からいなくなったなんて嘘までつかれるとは、なめてくれますね。」

「■■ッ」


 瑛斗に反論するようにエビぞりになってでも声をあげる宮地。

 しかし、現状、そんな言葉にもなっていない発言に耳を傾ける人はおらず、彼らの頭の中には恵の不在で焦りばかりが募っている。


「どこに行ったんだ。一体、どこに。」

「こいつの仲間が裏切って連れ去ったとかじゃないの?ほら、次期様でさえ追えなかった残り2人の協力者がいたじゃない?」

「そういえば、まだいたんだった。」


 ガンッ


 床に穴が開いた音が鳴り響き屋敷を揺らす。

 奏の側近候補の1人が言った言葉に反応して瑛斗が寝転がっている宮地を蹴り上げた音だ。少年たちは言ってはいけない言葉を言ったことを後悔したかのように口に一斉に手を当てる。


「宮地、ここで素直に言えば許してあげるが、もし、2人をかばったとかでごまかすのなら、その瞬間、お前の命が消えると思えよ。」


 すでに瑛斗の口調から丁寧さは欠片も感じられない。そして、止めに入っていて少年たちは宮地と瑛斗から距離を取り見守ることにしており、宮地に同情の視線を向ける。

 瑛斗は自分の中にある自己回復が速い力を宿す血を宮地の顔にこすりつける。すでにここに来るまでに素手で木製のドアを破壊していたので、その木片にこすられてわずかに出た血だ。悪魔の血が混ざっているためすぐに傷口はふさぐが出てしまった血は消えることはない。手の平についているその乾いた血を宮地の顔にこすりつける。その部分が赤くなっており、その間宮地は


「痛ッ、痛い。」


 と呻いていた。

 しかし、この血は確かにその人が持つ回復力を高めてくれているようで、先ほどまでの状態が嘘のように宮地から発せられるのは確かに言葉だ。


「他2人のことは知らない。もともと、俺らには何のつながりもなく、ただネットで知り合っただけだ。あいつと面識を持ったのは霧島の祠を襲撃した日の集合場所だ。あいつらのおかげですんなりと侵入できた。それに、あの時奪ったお嬢さんの魂はすでに消え失せた。もう、知らん。」

「なんだって!魂が消え失せたってどういうことだ!?」


 フッと鼻で笑っている宮地の言葉に反応したのは奏の側近候補の1人だ。その反応に宮地は気分を良くしたようで口角をあげる。


「言葉の通りだ。七色瞳を持つお姫さんに魂で脅そうとしたんだが、あの人は全く見向きもしないし、脅しの材料にならなかった。”赤の他人”と言って切り捨てた。お前らが人質でも一緒かもな。あのお姫さんはあっさりと他人を見捨てられる。残酷な人だ。」


 ハハッ、ハハハッ


 彼は狂ったように嗤う。

 それに衝撃を受けたのは少年たちだ。彼らも恵と顔を合わせたことはあるが、彼女の中では詩子と変わらない。だから、宮地の言葉を否定できず、現に彼が言うように魂が散っているのなら、彼らは来るかもしれない未来に体を縮まらせる。

 本家と分家、血はつながっていなくても一門として本家を敬愛するのは分家に何かあれば本家は何を犠牲にしても守ってくれると、本家を守ることが分家が生き残る道だと知っているからだ。そして、その名分は今も守られているから彼らには強固なつながりがある。

 しかし、本家の姫として生まれながらも恵はそう育ってはいない。だから、彼女がそんな風に分家を見捨てても彼女には何の責もないし、現状としては分家が勝手に彼女を守っているだけの状態だ。彼女にとって存在を認識していない彼らは赤の他人、どこでどう生活してようと彼女には無関係の存在だろう。なぜなら、恵との関係を先に捨てたのは分家の方なのだから。16年という年月はあまりに長いことを彼らはここで知ることになる。


「そんなことはどうでもいいんですよ。」


 呆然とした少年たちの中、瑛斗が口を開く。


「あの方が私を見捨てるのは当然のことです。私はただ自分があの人の近くにいたいからいるだけだ。彼女の傍で彼女を見ているだけで、時折笑った顔を見せてくれるだけで私は幸福なのだから。だから、あの方が辛い目に遭っていたら助けるし、それで私が死んだらそこまでの存在だった話なだけだ。お前にどういわれようが思われようがどうでもいいんですよ。あの方を助けにここまで来て、お前はただの誘拐犯で私にとっては邪魔な存在だ。居場所を知らないなら、最後にあの方と話した内容を言え。」

「・・・・チッ、動揺もナシか。気に障るな。その優等生。」


ガンッ


 無駄口をたたく宮地を瑛斗が顔を蹴り上げる。


「まだ、言葉を吐くか。さっさと言え、と言っている。」

「・・・わかった。最後に会った時、俺とあのお姫さん以外の声がした。その声はお姫さんを後押ししているようだったから、おそらくはお姫さんの知り合いだろう。誰かまでは知らないし、俺には見つけられなかった。」

「それで、お前はなぜこの部屋にいてあの方が出て行ったのを知らない?」

「俺は一度出て行った。魂を閉じ込めていた瓶を割って切り札を無くしたんだ。攻め方を考えるのに一度離れるのは当然だろう。それに気味の悪いことまで起きたからな。ただ、出入り口に見張りは立てていた。」


 宮地が指した方角には頭から血を出している男性が立っている。それを見て、瑛斗は舌打ちする。


「そうか。それで、お前が戻って来た時にはあの方は居なかったと?」

「ああ、俺が戻ってお姫さんを探させようと指示を出している最中にお前が来たからな。」

「そうですか。」

「なあ、もう全部話した。あのお姫さんは勝手に出て行ったんだ。おそらく、その第三者の助けを得てな。解放してくれ。」

「解放?」


 床に転がったまま見上げる宮地に瑛斗は冷めた言葉を投げる。


「何を言っているんです?あなたは恵様を浚った誘拐犯。つまり、この国の法律でも犯罪者です。警察に突き出すに決まっているでしょう。このベッドを調べれば彼女の指紋も髪の毛も出てくると思います。そうなれば、立派な証拠です。」

「や、止めろ!俺は指一本触れていない!」


 ガンッ、ガラララ


 言い訳をしている宮地に一発重い蹴りを入れた瑛斗はフッと鼻で笑う。


「指一本触れていたら、命はありませんでした。良かったですね?あなたは幸運です。」


 まだスッキリしないがこれ以上やると歯止めが利かなくなるので彼は奏たちを振り返る。


「僕ばかりがしてしまってすみません。足りなければあなた方もしてください。」

「いいえ、大丈夫です。瑛斗さんはこれからどうしますか?」

「僕は。」


 プルルルルッ


 そこで携帯が鳴る。瑛斗は自分の携帯が振動していることに気づいてすぐに応対する。


「もしもし。桜井です。」

「ああ、桜井。お前、一体どこにいるんだ?学校だよな?」

「ちょっと忘れ物で家に。」

「はあ、そういうことは先に言ってくれ。もう、体育祭が終わる。クラスで戻って来ていないのはお前だけだぞ。いや、生徒では、と言った方が正しいか。」

「・・・・西寺さんは?」

「西寺は応援合戦は欠席だったが、終わる頃に戻って来ていたぞ。」

「・・・・・・わかりました。すぐに戻ります。」


 これぞ晴天の霹靂


 通話の相手はクラス担任の鳴海教師だ。

 瑛斗は一瞬鳴海教師の言葉を飲み込めず返事をするのを忘れていた。

 電話を切って彼は頭を抱える。


「どうしたんですか?」


 奏は不安そうな顔をして瑛斗に尋ねる。


「もう、探す必要はないです。」

「どういう意味ですか?」


 瑛斗の言葉にその場にいた全員が動揺し、瑛斗は肩をすくめる。


「恵様は学校に戻っていました。」

「はい??」


 誰もかれもが瑛斗の言葉を信じられない。

 驚愕の顔をして彼を目を見開いて見つめる。そんな彼らを苦笑しつつも瑛斗は着替えた仕事用スーツについた埃をパンパンとはたいて何とか落とす。さすがに体操服姿ではこれほど派手に歩き回ることはできずに服を着替えて容姿を変えた。


「私も驚いています。どうやら、彼女をここから学校に戻した人物、第三者の存在がいます。本当にジッと助けを待ってくれません。」

「本当ですね。僕らではなく、姉さんなりに知り合いを作って周囲からいつの間にか手を差し伸べられています。僕らはあの人の重荷なのかもしれません。」

「諦めますか?」


 瑛斗の言葉を引き継ぎ、奏は悲しそうに俯く。そして試すように瑛斗は奏に尋ねるも、上げた奏の顔を見て失礼だったな、と瑛斗は思う。


「いいえ、そんなことで諦めていたら、きっとあの人との関係なんて一生築けないでしょう。僕はあの人と姉弟になりたいのですから、諦めませんよ。」

「そうですか。さて、あなた方はこれからどうしますか?魂は散ったと彼が言っていますが。」

「ここは私にお任せください。奏様」


 壊れたドアのところに姿を見せたのは佐久良家当主の敏明の右腕である沖だ。突然の登場に誰もが目をむく。


「沖がなぜここに?」

「当主より命令を受けたまで。あなた方では宮地家の異能により囚われた魂を取り返すことは荷が重いからと。」

「おじい様が。では、沖に任せる。瑛斗さんは学校に戻って姉さんの無事を確認してください。」

「ええ、では失礼します。」


 瑛斗はホッとする顔を見てから空間移動陣を用いて学校に戻る。

 体育祭の閉会式で恵が何もなかったような顔をして並んでいるのを見て安堵するのも束の間、彼女の肩に見たくないものがいることに愕然とするのだ。


 クモの目がギロッと瑛斗の方を見る。


 その晩、奏から瑛斗の携帯に詩子の無事を知らせる連絡と宮地達也および彼の親族に対する報復の件が知らされることになる。

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