52話
皆さん、読んでいただきありがとうございます。
今回は瑛斗側の話です。
~瑛斗~
恵の姿が見えなくなったが彼女が校舎に入っていくのは見ていた瑛斗は教室に戻ったと思い、彼女が消えてすぐに周囲を囲む人をかわしつつ校舎の方に向かう。すでに、午前中にグラウンドでの用事は済んでいるので校舎の方へ向かっても何も問題はない。
しかし、瑛斗が校舎の方へ向かおうとすると、ダンス担当の3年の先輩女子が声をかけてきて彼の行く手を阻む。衣装のことでの相談だったので恵への伝言だと考え、瑛斗は用事作りに最適だと思い彼女の話に乗るのだ。
「なんでしょうか?」
「あなたの衣装なんだけど、瑛斗君には別の衣装を用意したの。だから、そっちを着てくれないかな?」
何の許可もなくその女子生徒は瑛斗を名前で呼ぶ。それが、彼には不快で仕方なかったが、これまで我慢していたのは彼女たちとの問題で恵への障害を増やさないためだ。それに、彼女は以前噂されていたモデルの三ヶ島美鈴、その人であり、彼女には周囲に人が群がっていて彼女からの評価はそのまま学校の生徒からの評価となる。確かに、委員長が言ったように容姿もスタイルも目を引くだろうし、性格もぶりっ子ではないが、1つ訂正があるとすれば、彼女は傲慢で強欲だということだ。冷静で姉御肌では決してない。
質が悪いのは、三ヶ島美鈴が生まれた三ヶ島家は大きな会社の創始者一族であることだろう。それによって売れっ子モデルにネームバリューとして学生や教師までに及ぶ力は何倍にも膨れ上がる。そんな彼女が瑛斗に対してそこまで馴れ馴れしくするのは彼が目立った容姿で他の生徒に見向きもしないから、自分が彼女にでもなればさらに株が上がる、とでも考えたのだろう。
そんな考えなど瑛斗には最初からお見通しだ。ちなみに、恵に対してそうそうに匙を投げたのは彼女だ。そして、恵は名前は知っていても顔までは知らず最後まで彼女が三ヶ島美鈴だと気づいていない。それには、瑛斗は笑いをこらえるのが大変だった。
そんな回想はここまでにして、彼女の話は実りがないので瑛斗は頷きつつ歩みは止めない。早歩きなので隣を歩く三ヶ島は必死について行くが、途中相手をされていないとわかると諦めたようで姿が視界から消える。
「あの方を探して衣装のことを伝えないと。」
瑛斗は早くグラウンドから去り、教室に向かう。恵と同じように人の少ない体育館側からの出入り口から入って恵を探そうとて彼女と同じように正面玄関を通る。1年の教室は正面玄関を回った方が近いのだ。そこで、彼は異能を使った残滓を感じ取り立ち止まる。
そして、それとともに残るのは1本のハチマキだ。
「これは・・。」
恐る恐るハチマキを拾いあげてみれば、そこには恵がハチマキに密かに付けていた四つ葉のクローバーが括りつけられている。刺繍は禁止されていたが物を無くすことが多いために目印として家の庭に生えているクローバーを糸でつけることだけ彼女が鳴海教師に許可を取ったのだ。それは彼の記憶に鮮明に残っている。
それは彼女しかありえない。だから、瑛斗は彼女の身に何か起こったと察知してすぐに電話を掛ける。
「もしもし、瑛斗です。至急お願いしたいことがあります。」
瑛斗は恵の無事を祈りつつ対応に出る。
瑛斗の電話からすぐに怪しい恰好をした集団がすぐに正面玄関の方からやって来る。
「どういうことだ?説明をしてくれ。」
サングラスと帽子を脱いだ面々のうち着流し姿の老人、佐久良敏明が瑛斗に説明を求める。
瑛斗はその中の1人である李白鳳に電話で調査員を寄こすように依頼しただけなのだが、あの集団が全員来るとは予想外だった。しかし、こんな失態を犯してしまったので瑛斗は素直に説明をする。
「校舎内に入っていくのは確認しており、後を追っていたのですが、彼女が通ったと思われるここで異能の残滓を感じ、落ちていた彼女のハチマキを発見しました。どういう状況なのかは不明であり、今確認をお願いしていたところです。」
「それだけで何かあったとは限らないだろう。ただ落としただけとは考えられないのか?それに、そのハチマキは生徒なら誰でも持っているものだ。なぜ、あの子のものだと断定できる?」
貴明は敏明を避けて瑛斗に問い詰める。いつも冷静な彼には珍しく、目に見えて焦っていることはすぐにわかる。
瑛斗はハチマキについている少ししおれているクローバーを見せる。
「それは?」
「あの方だけが、教師に許可を取り庭に生えているクローバーを縫い付けていました。これは自分の物であることを示していて失くしても見つかった時に拾った人が困らないように、と。」
「なるほど。そんなことを。わかった。私が残滓を追う。それを受けて追いかけるように。」
「かしこまりました。」
貴明が名乗りをあげる。彼は異能の残滓を追う探索や細かい操作が得意で、彼の父にあたる敏明と息子の奏はどちらかと言えば巨大な力をぶっ放す大胆なものが得意だ。異能は人の性格によって得意不得意が分かれる。
貴明は探索が特に得意であり彼の右に出るものはいないと言わしめるほどだ。
「たしかに、ここから飛んだようだ。場所は城址公園。」
数分しないうちに貴明は異能者の在処を掴み、すぐに移動したのは瑛斗だ。
そんな彼に声をかけて足を止めたのは敏明だ。
「瑛斗、お前にこの任を任せたのは私だ。それが正しいとはわからないが、少なくともお前に任せたことを後悔していない。無事にあの子を連れて戻れ。あの子をこれ以上傷つけさせるな!」
「御意。」
「奏、お前も側近たちと共に行け。今回の敵はおそらく大きい組織のはずだ。」
「はい。」
一緒に来ていたのは佐久良家と奏の側近候補たち、貴明の側近もいたので敏明はかんがみて状況を最大限に活用することを決める。
「何、お前たちに投げるわけではない。私らもすぐに向かう。どこか表側でも絡みがあるだろうからな。もし、誘拐目的であれば身代金の電話もかかって来るだろう。私らはそれを待ちつつ背後関係を洗う。お前たちはあの子を追え。敵に一切の容赦は必要ない。」
「はい。」
当主の命令を受けて全員が一斉に動き出す。
プルルルル、プルルルル
ここで、敏明の携帯が鳴る。それに全員が動きを止めたのは言うまでもない。
「どうした?」
「当主、霧島で封印していた呪物封印の祠が襲われてしまい、霧島の当主ならびに他全勢力を持ってなんとか呪物の封印を行っているとのことです。今回、何者かの侵入を許してしまい、封印を破った形跡が残っていたと。順調に封印は行っておりますが、人員が足りないとのことで援助を願い出ております。」
「分かった。それは今から山内と生嶋を向かわせる。」
携帯の向こうからの精鋭からの報告に敏明の判断は迅速ですぐ近くにいた貴明の側近である2人に目を向ける。彼らは心得たとばかりに頷いてすぐに出て行こうとするが、まだ報告が続く。
「それと、霧島のご息女である詩子様が襲われ魂がないとのことです。それを探る人員もほしいとのことでした。」
精鋭は極めて冷静に努めようとしているが、悔しげに歯を食いしばっているのが音からも十分に読み取れる。そして、その報告を聞いた瞬間、彼らは息をのむ。
「分かった。貴明に向かわせよう。霧島にはすぐに娘のことは心配せずに封印に尽力せよ、と言っておけ。」
「御意。」
敏明はそれだけ言って電話を切る。
「全くやってくれる。あの子をさらうためだけにここまでする輩がいるとは。」
敏明は携帯を壊れるかと思うほどに握りしめている。
霧島は祠に封印されている呪物は何百年前に封印した火を纏う山車の核だ。それがこの時代に出てくれば、数百人ほどの被害は免れない。それを分かっていて襲ったのだろう。それほどに七色瞳の力を欲している。恵の失踪は霧島を目くらましにして、恵のことを後回しにさせようとしたのだろう。その間に彼らの狙いは七色瞳を持つ彼女の懐柔か、それとも--。
全員の考えは一致していたのだろう。当主である敏明は一瞬怒りをあらわにしたが、すぐに全員に目を向ける。彼は当主なのだから、冷静に下に最善を配ることが彼の仕事だ。
「とりあえず、お前たちは霧島の方に向かえ。貴明、頼んだぞ。」
「はい。」
貴明と彼の側近2人の3人はすぐに動き出す。
「お前たちもだ。私と藍蘭、それと凪子さん、あなたも家に戻る。お前たちにも言っておくが、決して無理はするな。」
「「「「「はい。」」」」」
これによって本格的に彼らは動き出す。




