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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
哀れな誘拐犯
51/164

51話

 100メートル走は6レーン中の3位で中間の成績であり、恵としては通常運転で十分及第点だ。

 しかし、彼女は走っている最中に現実とは思いたくない集団を見つけてしまう。サングラスや帽子なんかで顔を隠していても、あれだけ普通とは違うオーラを放ち違和感しか感じない集団は他にいないだろう。そう気づいていても、口元をピクつかせてしまっても恵は気づいていないふりをする。彼らが一眼レフを向けていることも彼女は無視だ。


「恵さん、気づいていますよね?」


 テントに戻る際、男子は先だったので先に走り終わって恵を待っていただろう瑛斗に問いかけられるが彼女は首をかしげる。


 《《何が》》とは言わないのは、私に選択肢を与えているからかな。


 恵はそこに瑛斗からの配慮を感じられ、なんだか苦笑いをしてしまう。


「あの集団は周囲から目立っていることに気づいていないのかな。」

「あの方たちは目立つことは日常茶飯事なので、特に気にも留めていないでしょう。」

「なるほど。」


 すでに先ほど確信をもって問われているので、知らないふりをしても恵は話題を出すことにする。それはもう認めているものなのだが、瑛斗は苦笑しつつも無理に彼らと引き合わせようとはせず話を合わせる。


「そういえば、あの人たちはどうやってここの日程を知ったのでしょう。プリント類は家に届きますし。桜井さんが教えたんですか?」

「そうですね。私が仕えていた人に教えました。」


 彼もまた自白する。

 時々、家で彼と複数の人の話し声がすることは知っていたが、恵は自分のプライベート空間に入ってこないならば、特に構わないと無視していたので、それは許容範囲だろう。彼にとっても行事なのだから、彼が知り合いに教えたとしても彼女にそれを詰め寄る権利はない。


あの人たちは瑛斗の親族として親族用テントに控えているんだ。


 恵はそう思い込むことにする。


「桜井さんはさすがの成績でしたね。相手全員陸上部の短距離走者だったそうですよ。私と同じ走者グループのうちの1人が言っていました。あのグループで1位。それも大差でしたから、彼女が驚いていました。」

「そうですか。あなたを喜ばすことができたならよかったです。」

「いえ、別に喜んでいませんけど。」


 瑛斗に朗報とばかりに知らせたが、彼はそんなことに喜んだ様子もなく相変わらず恵中心に話をする。恵は肩をすくめてそれらを流す。


「そういえば、なんであの集団に私と同い年ぐらいの少年たちも混ざっているんですか?」


 恵は集団を見ないようにしていたが、どうしても気になる部分が出てくる。

 体育祭の日付はだいたい学校で似たり寄ったりであり、同日になることが多い。だから、親は午前と午後で行く学校を変えたりして大変だと買い物先のスーパーで愚痴をこぼしているのをよく耳にする。それに、土曜日であっても部活動はあるはずなので、彼らが午前から来られるはずがない。


「それはあの方たちは高校には通っていないからですね。」

「へえ、そうなん・・・・ん?」


 瑛斗の言葉が読み込めず恵は首をかしげて隣を歩く彼に顔を向けて、もう一度説明を求める。


「異能を持った子、特に彼らは力が強いですし依頼というのは多く存在しますし、そのうえ長期間と長距離移動が伴うものは少なくありません。そのため、対応には学校を休まなければなりません。異能の基礎は中学までは義務教育ですので長期休暇で適切な指導員の元で学び、そのあとはベテランの人とチームを組んで依頼をこなしていきます。もちろん、高校に行かなくても勉強したい場合は通信教育などを通して高校卒業検定をとり大学に通う人もいます。」

「壮大な話ですね。良かったです。私は普通で。」

「・・・・・・そうですね。」


 瑛斗の説明に驚かされるも自分の境遇が特殊でないことに恵は安堵する。そのあと、彼の肯定に間があいたのだが、それは彼女にとってはどうでもいいことだ。

 クモさんに狙われる原因になったもの(七色瞳)を持っていようとも現実的に普通の高校生活を送ってなんでもない日を送っているのだから、恵にとっては今目の前に見えるものがすべてだ。


「これで午前中の出番は終わりですね。」

「恵さんはテントで休憩ですよね?」

「そうですね。あれ?衣装に着替えでしたっけ?あれってお昼休憩の時でよかったですよね?」

「そうですね。その予定です。」


 恵と瑛斗は今後のことを確認している間にテントに着くと、瑛斗が1位になったことと、レイドリックもそろったので女性たちが集まっている。男性陣は端に追いやられてしまっており、もはやレイドリックと瑛斗を囲むハーレム状態だ。よく見れば、その中に別の色のハチマキをしている人も混じっているので、2人の人気の高さを実感させられる。

 恵はそっとテントから離れて校舎の方に向かう。どちらにしても午前中に恵はすでに出番はないので不在でも問題ない。


 恵は校舎の中にグラウンドから最も近い体育館出入り口から入る。体育館出入り口の方にもテントに入らず子供の競技だけ見るだけの親がいるため人をかいくぐる必要があるのだが、その分恵は姿をくらませやすいのだ。

 恵は体育館から校舎内に入り、図書室に向かう際に正面玄関前を通ると1人の男性に声を掛けられる。男性はまだ靴を脱いでいないがスーツ姿で弟妹でも通っているのかと思うほどに若い、まだ20代後半ぐらいの人だ。目の肥えてしまった恵にとっては慣れた見劣りしてしまう容姿だが、その男性も十分に人の目を引くだろう。

 少し長めで染めているのだろう茶色の髪を1つに括っていて眼鏡越しに見える目はたれていて警戒心は抱きにくい愛嬌がある。


「あの、教室に行きたいのですが、案内していただけませんか?」

「教室ですか?」


 恵は彼の案内場所に首をかしげる。

 今、体育祭なので生徒と教師はグラウンドに集まっており、校舎内には人はいない。保健医も外で待機しており、校舎内にいるのは熱中症の患者ぐらいだろう。しかし、その1人が彼の親族だからといって、訪ねるとすれば教室ではなく、彼らが寝ている保健室になるだろう。


「何か御用があるのでしょうか?」


 不審人物をさすがに恵は案内する気になれず、正当な理由を尋ねるために数歩彼に近づく。

 俯いた彼はその瞬間、近づいた恵の腕をとって


「もう用は済みました。」


 ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。その瞬間、グラリと周囲の風景が揺れ、それに酔った恵は気を失う。こんな場所で乗り物酔いが悪い方向に働くなど彼女は思ってもみなかったのだ。


 最後に見たのは男性のレンズを通さない濁り血のように赤い目だった。

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