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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
別荘は休暇ではなく、災難ばかり
40/164

40話

 恵は田んぼに沿ってある草の上に寝転んで星を見て星座を数えるうちに眠ってしまったようで、朝日の眩しさで目を覚ます。

 ゆっくりと上体を起こして体を伸ばし、空がすでに明るくなっているのを見て大きくあくびをする。


「もう朝なんだ。」


 ふぁ


 またあくびが出てしまう。

 携帯なんて持っていないが、日が昇れば人に会うだろうと道を歩いていると、田んぼ仕事の人なのか軽トラから数人のツナギを来た男性が下りてくる。全員年は取っているが都会の方で見る人よりはずいぶんと足元は元気だ。

 彼らはこんな朝早い時間にいる恵を見て驚いた顔をする。考えてみれば、こんな場所に昨日の服のままなのが救いだが、少しお洒落めの服装でちょっとお出かけのような軽装で早朝にいればこんな表情をされるのも仕方ないだろう。


「おはようございます。」

「おはよう。えっと、お嬢ちゃんはこんなところで何しているんだ?」

「えっと、1人旅です。」

「ああ、そうか・・・・うん。」


 恵の答えに納得はできないが、一応頷いたという曖昧な返事が返って来る。数人の男性から疑いの眼差しを向けられ、それに負けた恵は素直に白状する。


「実は迷子です。」

「・・・・・。」

「そして、自分の宿泊施設の住所さえ知りません。」

「・・・・・・。」


 まさに開いた口がふさがらない状況だろう。

 それを開き直ったように言う年若い少女に対して彼らは驚愕とともに噴出して一斉に笑い出す。


「お嬢ちゃん、すげえな。」

「若いんだからナビとか使えばよかっただろうに。」

「携帯持っていませんから。」


 それに、またシンとしたが、そのあと、自慢げに男性全員がツナギのポケットからスマホを取り出す。まさに、時代劇の”これが目に入らぬか!”状態だ。

 恵は何の羨ましさもないが、一応悔しそうな表情をして地面に土下座をし、「ははー。」となりきる。

 一通りの流れを終えて満足した彼らは現実に戻る。


「うん、お嬢ちゃんの現状はわかった。じゃあ、お嬢ちゃんが覚えている宿泊施設の近くの目印なんかわからないのか?それさえ分かれば、軽トラで送ってやるぞ。」

「汚ねえけどな。」

「煩せえ。」


 彼らによるコントがまた始まる。

 だが、恵にとって彼らからの提案はまさに天の助けだ。さすがに2日連続で野宿は堪える。

 それで、個人経営のお店の話や集合店舗の木造平屋の話をすると、さすがに土地勘があるだけあって一発で彼らは場所を特定する。そして、それと同時にそこから20キロほど離れた現在地に恵がいることを信じられないような目で見られることになる。


 とにもかくにも、彼らの1人が田んぼ仕事は他の人に任せて恵を送ってくれることになり、恵は無事に個人経営の見覚えのあるお店に着く。


「ありがとうございました。遠くまでお付き合いいただいて。」

「いいや、良いってことだ。今後は1人歩きは夜じゃなくて朝にするんだな。」

「はい、気を付けます。」


 彼に手を振って車を見送った恵は坂道を登って宿泊施設に着く。


「やっと着いた。」


 恵は玄関の方から入ると、玄関前に人だかりができていて首をかしげてしまう。その誰もがドアから入って来た恵を見て驚いたように固まる。

 その中には顔見知りの人がいたので声をかけてみる。


「新塚さん、おはようございます。朝早いですね。」


 その言葉に声をかけられた彼は一瞬なんて言われたのか理解できないように瞬きをする。


「おはようございます。恵様。こんな朝早くからどちらにお出かけだったのですか?」

「探検を少し。」


 彼の問いかけに恵は笑顔で答える。

 満足な彼女を表情に彼は何も言えなくなったようで苦笑を浮かべる。


「ところで、こんなにたくさん人がいたんですね。今日は何か朝からイベントでもあるんですか?」


 周囲を見渡した恵は新塚に尋ねる。彼はなんと答えたものかと思いつつ思案したところ、


「朝食の時間がもう少しなので皆さん集まってしまったんです。」


 なんてごまかすことにした。

 その言葉を恵はまんま信じて「そうなんですか。」と感心したように頷く。


「私は朝食もいりませんから。では、私はこれで。」


 恵は頭を下げて人混みをかいくぐって自分の部屋の戻る。

 そんな彼女の後ろには泥が付いており、彼女がどこかに寝転がったのは明白なのだが、彼女に対して何かを言うものはいない。


 そこに集まったのは分家の年若い人たちばかりで彼女に遭うことが初めての人ばかりだ。恵が行方不明ということで捜索隊に選抜されたものたちなのだが、創作を開始しようとしたところに彼女が帰って来たのだ。

 まさに、不意打ちとばかりに普通に帰宅のていで帰ってきた彼女を一目見て誰も反応ができない。新塚にできたのは何度も彼女と接しているからに他ならない。そうでなければ、強すぎる彼女の異能のオーラに彼らと同様に飲み込まれていただろう。


「恵さんが帰宅されたとは本当ですか!?」


 そして、何が起こったのか理解できていない人たちばかりの中、荒々しく再度開けられたドアから怒鳴るように入って来たのは瑛斗だ。行方不明とわかってからすぐに街に降りて彼は恵の跡を追っていたのだが、見つけられず落ち込んでいたところに新塚から通信が入り急いで帰って来たのだ。

 彼は新塚から頷かれると、すぐに恵の部屋に向かう。


 ああ、説教だな。


 彼の背中を見ながら新塚はそんな風に思いつつも、急いで本家およびこの別荘に泊まっている方たちに知らせるべく通信を開始する。

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