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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
別荘は休暇ではなく、災難ばかり
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37話

 恵たちの宿泊場所から新塚のいう通り15分ほど歩いたところにお店があるのを見つけたのだが、いつも通っているスーパーや大型量販店とかではなく個人で営んでいる小さなお店だ。

 木造でのれんがかかっていて70代ぐらいの女性3人ほどが井戸端会議のように店の前に置かれているベンチに座りながらおしゃべりを楽しんでいる。そして、売られているのは見たことのない個包装のお菓子や串の状態で瓶詰めされているものが棚に隙間なく並べられている。こんなお店を見たことがない恵は店の前で立ち止まってしまう。


「おや?お若い子たちが来たね。」

「本当だね。このあたりも最近若い子が増えた。」

「いいことだ。」

「いや、良くないでしょう。それでなんか今時のお店が増えたんだ。」

「ハハッ、確かにお客は減ったけど、あんたみたいな常連さんがいるから大丈夫さ。」

「「「アハハハッ」」」


 そんな恵たちに気づいてみていた彼らはまた大声で笑いだす。

 まるで箸が転がっても笑える中学生のようで、若いな、と恵は感心する。

 年齢でいえば明らかに恵のほうがずっと下だろうが、精神面でいえば、彼らの圧勝だろう。


「恵さん、飲み物何にしますか?」


 感心している恵を置いて瑛斗は店で一番はじめに目につく保冷庫を指しながら尋ねてくる。

 若い初老の女性たちに感心していたのに、その心はどこかに吹っ飛んでしまうほどに冷静な声で、恵は呆れて肩をすくめる。


「桜井さんは情緒が足りないですね。」

「恵さんには言われたくありませんけど。」


 ええ!?


 彼の返しに恵は驚愕するが、飲み物選びを保冷庫を開けられたことで強制的にすることになり、その場は流れる。ただ、そんな風に瑛斗に言われるようなことを恵は思い出せず納得いかない。


 恵はミネラルウォーターを買い、瑛斗とともに戻ろうかと考えたが、道を歩きたくなり、宿泊場所とは逆方向に歩き出す。


「桜井さんは何度か来たことがあるんですか?新塚さんとお知り合いのようでしたけど。」

「はい、3度ほど。李家の先代の妹があなたの祖母で佐久良家とは縁戚になります。それで、毎年避暑地には誘われることが多いんです。私は李家の次期当主の付き人だった頃に3度ほど来たことがございます。」

「そうなんですか。意外と数が少ないですね。」

「そうですか?」

「もっと来ているのかと思っていました。」


 無言だとなんだか気まずくなった恵は世間話のつもりで尋ねたのだが、李家と佐久良家は親戚らしい。彼女は自分の目が李家から伝わったものだということを知っているので腑に落ちはしたのだが、隔世遺伝であることにため息をこぼす。


「この面倒の原因は祖母だったということですね。」

「そういう風に言わないでください。」

「でも、こんなふうに本家じゃなくて外の家に出るっておかしくないですか?」

「そのあたりは詳しいことはわかりません。何分、その瞳を持っていたのは李家の初代で数々の逸話を残した方のみです。それ以外に、特に女性で2色以上の瞳を持った方は今の当主のみだと聞いています。」

「ますます嫌なんですけど。カラコンでもした方がいいですか?」

「無理でしょう。その力はそんな膜1枚で隠せるほどに容易くはありません。それに瞳はうちの力の特性の現れであり、瞳がどうこうよりあなたの中に眠る力です。それは常にあなたの体から漏れています。瞳はその力に影響されて変わっているだけです。」


 瑛斗からの聞きたくもない説明に恵は頭を抱える。


「つまり、私は何をしてもこの呪いから解放されないと?」

「呪いなどと言わないでください。それはまさしく祝福ですよ。」


 祝福?呪いで合っているでしょう。


 恵は彼を憎々しげに睨みつけてしまう。


「他人事と思っているからそんな風に言えるんですよ。」

「そうでしょうか?」

「そうですよ。」


 瑛斗の聞き返しに恵は大きく頷く。

 当人にしかこの生き苦しさは伝わらないだろう。


「見えてきました。ここなら恵さんも少しは気にいると思います。」


 どこを歩いているのか土地勘のない恵は瑛斗の横で彼にナビを任せていたのだが、彼が指をさしたほうに見えるのは木造の大きな建物だ。休憩所のようで看板がいくつもかけられていることから、数店舗が建物の中に入っているようで、都内の商業施設を平屋にした感じだ。

 たしかに、先ほどの小さな個人店舗よりはこちらのほうが馴染みがあるが、恵とて別に老年の女性がいたお店が苦手というわけではない。

 瑛斗の方に苦言をいえば、彼は「そうですか。」と流しつつ恵を入口に導く。


「いらっしゃいませ。」


 そんな大きな呼びかけが響く屋内。

 建物の前に広い駐車場があり、半分以上が車で埋まっていたのは知っていたが、これほど中が賑わっているのは予想外だ。

 別の県から来たのかこの辺では聞きなれない方言で話す家族がほとんどであり、店舗も見たことのないところばかりで見るものがすべてが新鮮だ。

 基本的に家から出ることがなかった恵は1つ1つ店舗を見回り、ご当地でとれたものを使った食事スペースで軽食にする。

 とはいえ、あと数時間もしたら夕食になるので、軽食とはいってもサンドイッチと紅茶、それに時間的にデザートの時間であるのでお得に食べられるケーキもつける。昔の貴族然としたティータイムだ。


「恵さん、甘い物ばかり食べたら体に悪いですよ。」

「まだ若いから大丈夫です。」

「若さを言い訳にして後で後悔する人は少なくないんですよ。」

「そうなんでっ。」


 小言を続ける瑛斗に言い返すのも馬鹿らしくなって頷こうとしたのだが、顔を上げた恵は視界にとらえた人物を見てすぐにテーブルの下に隠れる。あまりの素早さに瑛斗は反応できず数秒遅れてテーブルの下を覗く。


「どうしました?」


 恵はその質問には答えず、指で示すと彼もまた驚いたようで瞬きをする。


「あの人たちは暇なんでしょうかね。」


 顔を上げても視界に入れないように背筋を伸ばす瑛斗は小さくため息を吐く。


 そこには、瑛斗の兄である秋元教師と転校生レイドリック、そして、グラマラスな美女、瑛斗の母である悪魔が片手にソフトクリームを持って歩いている。

 彼らが出ていくまでじっと待ち、姿が見えなくなったところで恵はのっそりとテーブルの下から出て額を手で拭う。


「変な汗をかいてしまいました。心臓に悪い。」

「大丈夫でしょう。彼らでも佐久良家にはちょっかいをかけられませんから。」

「そうですか。では、さっさと食べて戻りましょう。そのついでに明日には家に帰りたいです。」


 恵が望みを口にすると瑛斗は苦笑いをするしかない。

 彼女にとってそれだけ彼らに苦手意識があるということで、彼女の近くに唯一いられる自分を彼は内心歓喜する。


 冷めた紅茶と冷たいサンドイッチとケーキによって変な汗を冷やしすぎた恵は背筋に悪寒を感じたのだ。

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