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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
別荘は休暇ではなく、災難ばかり
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36話

 うう、気持ち悪い。


 立花弁護士、もとい佐久良家に誘われてやって来た彼らが所有している別荘の1つがある奥多摩にやって来た恵。

 ・・・・だが、彼女は今胸から這い上がるような気分の悪さと闘っている。


「こんなところ来るんじゃなかった。」


 12畳ほどある和室に敷かれた布団の上でうつ伏せになり恵は唸っている。


 時は4時間ほど前にさかのぼる。

 佐久良家の方で用意してくれると言ったが、恵は初めての遠出だったので行き方が書かれたメモをもらったら、前住んでいた女性が置いて行ったピンクの少し年期が入ったトランクに1週間分の着替えやらを詰め込んで、それをガラガラと引きながら向かった。


「桜井さんはみんなと行った方がよかったのではないですか?」

「私はいついかなる時でもあなたの傍にいますよ。」


 ああ、そうですか。


 瑛斗も色んな人から誘われているのか出発の数日前ぐらいから何度か電話で別荘のことを話していたのだが、すべて断っている会話を聞いた恵は気を遣って言ったのだが、彼はぶれない。もう、彼女はスルーするしかないのだろう。

 軽くお菓子や飲み物を買って電車に乗る。初めての電車の乗り心地は意外と椅子が硬いことに驚いたが、不快には感じない程度だったので風景を見ながらお菓子をつまんだりしていた。

 しかし、1時間ほど過ぎたぐらいからだんだん胸の悪さを感じてそのたびにトイレに駆け込むようになり、恵は席に戻ってもエチケット袋を手放さなかった。とりあえず、食べ物を戻した時のための備えだった。幸い、朝早い時間だったので、乗客が少ないことは救いだった。


 こんなに乗り物で気持ち悪くなることを彼女自身知らなかった。

 そして、梅雨以外で体調を崩さない恵がこれほどまでに弱っている姿を目にした瑛斗はずっと彼女の背中をさすった。


「降りましょうか?」


 最終的にはそこまで言う始末なのだが、すでにあと数駅というところまできてしまったので、恵は首を横に振った。

 そして、駅に着いたとたん、荷物を持ってすぐに電車から飛び降りふらつく足取りで何とか近くのベンチに腰を下ろした。


「はあ、もう嫌だ。帰りどうしよう。」


 グワングワン


 揺れる視界を落ち着かせようといったん手で目を覆い視界のリセットを図るものの、まったく効果がなくため息を吐いた。

 しかし、いつまでもそこにいれば不審者に見られかねないので、瑛斗とともに改札口から出ると迎えらしい車がいた。

 古びた駅には不似合いの黒のおそらく高級車だろう車が停まっている。新車かと思うほどに砂1つ埃1つ付いていなかった。

 明らかに浮いているので周辺にいた人は興味津々とその車を見ていた。


 車から出てきたのは白い手袋をしてスーツを着た男性だ。40代ぐらいの壮年の男性で黒いスーツがよく似合い紳士に見えた。


「恵様、よくいらっしゃいました。瑛斗君もお久しぶりです。」

「お久しぶりです、新塚さん。」

「恵様、お加減が悪いのですか?」


 瑛斗と軽く挨拶をかわしたそのにこやかな笑みを浮かべる男性、新塚は恵の顔を見てすぐに表情を変えた。


「乗り物酔いです。」

「それは大変ですね。ここから車移動でなければ本日からお泊りいただく場所に着けないのですが、しばらくどこかで休みましょうか?」

「いいえ、大丈夫です。というか、苦難なものは早く終わらせたいです。着いたらすぐに横になります。」


 休憩を挟めばもっと動きたくなくなるので恵は新塚の提案を拒否して車で目的地に向かった。

 そして、15分ほど走って見えた大きな日本家屋に着いてすぐに佐久良家に迎えられた気がしたが、気分が悪くてほとんど視界を閉じていた恵はあまり覚えていなかった。着いてすぐにトイレに駆け込んで吐けるものは吐き出してから新塚に指示されたのか女性が恵を彼女に用意された部屋に案内した。

 部屋にはすでに布団が引いてあったので、荷物のことも忘れてその布団にぶっ倒れてそのまま眠った。


 現在、恵はだいぶマシになったとはいえ、いまだに気分が悪いのでそのまま横になっている。いつの間にか荷物は運びこんでくれたようでその中に入れておいた残りのお菓子をかじっている。食事ができないほど気分が悪くもなくちょうど目を覚ましたのが昼食の時間だったからちょうどよく、恵はいつもは瑛斗にとがめられる寝ながらおやつを体現できて幸福を感じる。


「夜ぐらいには回復するな。日が暮れたら周囲を見て回ろうかな。」


 なんとなく調子が戻った恵は上体を起こして思いっきり体を伸ばす。ふかふかの布団の誘惑を振り払って立ち上がる。

 そして、大きな窓から見えるのは壮大な山林だ。決して今住んでいるところからは見えないだろう光景に恵は圧倒される。


「すごいな。この眺め。絶景だ。」


 恵はフフッと笑ってしまう。決しておかしいから笑っているのではなく、こんな眺めを見ていることが信じられなくて何となく笑いが出てしまう。


「さて、飲み物切らしていたから買いに行かないと。」


 本当は夜になってから出かけようかと思ったのだが、恵としては飲み物がないことには耐えられないのだ。避暑地といえども暑さはある。

 夏でも出かける時は長袖長ズボンで日焼けを気にする恵は、顔と手に日焼け止めを塗って出かける準備と空いたペットボトルを持って部屋を出る。


 玄関から出ようとすれば、先ほど送迎してくれた新塚が慌てて声をかけてくる。


「お待ちください!恵様、体調は良くなられたのですか?それに、どちらに行かれるのですか?」

「体調はだいぶ良くなりました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。飲み物を買いに行ってきます。ペットボトルも捨ててこないといけませんし。」

「飲み物ならばこちらでご用意させていただきます。ゴミなど出ましたら私どもに預けていただければよいのですよ。」

「いえ、そんなことはさせられませんよ。それに周辺も見て回りたいですし。気分転換にもいいかと。」

「確かに気分転換には外は緑が多いので最適な環境なのですが、本当に飲み物などはこちらでご用意しますよ。お好きな飲み物を言っていただけたらだいたいのものは揃っていると思うのですが。」


 彼はチラと恵が持っているペットボトルを見る。

 彼女が持っているのは普通の水だ。恵は水道水が苦手なので飲み水は購入することにしており、体調も悪かったので飲料水を買っていた。


「それに体調がまた悪くなるかもしれません。お1人だと危ないかと。せめて、どなたかと一緒に行かれた方がよいと存じます。ここから小さな商店まで徒歩でも20分ほどかかりますし。」


 意外と遠いことに驚いたものの学校までとそう変わらないことに安堵する。毎日歩いている距離なので慣れている。

 しかし、新塚はなぜか恵が出ようとするのを拒否するように最後には恵と玄関口の間に立ってしまう。


「あの、通りたいのですが。」

「どなたか呼んできますので、お待ちいただけませんか?1人だと本当に危ないのです。」

「まあ、確かに道に迷うことはあるかもしれませんけど、初めての土地で迷わないなら、その人は天才だと思いますが。」


 平行線の会話は続き、恵と新塚の攻防は終着点なく継続。


「恵さん、お待たせしました。」


 瑛斗が呼ばれたのかすぐ近くに立っている。これまでのは時間稼ぎだったらしい。しかし、新塚は恵からあまり視線を外していなかったので、いつそんな指示を出したのかと不思議に思いつつ、許可が出て恵は瑛斗と一緒に出ることになった。


自由は??

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