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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人が好きな悪魔と番犬の秘密
33/164

33話

 怪談につられた夜に学校に侵入した翌週の週明けの学校でレイドリックがニコニコと楽しそうに恵のほうへやって来る。その顔を見て顔をほのかに赤くする女子たちの中、当人は気持ち悪さしか感じない。


「そんなに嫌がらなくてもいいんじゃないかな。まったく、君の信頼を得ることがこんなに難しいなんて思いもしなかったよ。」


 彼は肩をすくめるも顔はそんな風にはとらえられない。むしろ、逆に心から楽しそうなのだ。それが演技とも思えない恵は彼をスルーする。

 それはいつものことなのだが、この日はレイドリックがそれを恵が視線を落としていた教科書を取り上げることで阻止する。


「あなたもしつこいですね。」


 恵は梅雨が明けて雲が太陽にかからないことで入る窓から差し込む日差しの眩しさで思わず眉間にしわが寄ってしまったのだが、それをレイドリックだけでなく注目してくる人全員が誤解する。そこには瑛斗も含まれている。


「そんな風に邪見にしなくてもいいじゃないか。こんなに会話をしているのに、なんで態度が変わらないんだろう。もう少し早く君との壁なんてなくなると思っていたのに。」

「会話はお互いに何か交換する言葉があって初めて成立するものであり、あなたのはただ話しかけてきただけで、会話とは言いません。」

「難しいな、日本語は。」

「ええ、そうですね。もう少しでチャイムが鳴るので教科書を返してくれますか?」


 恵はレイドリックの手から教科書を奪い取ろうとしたのだが、そのほぼ目の前にあった目的のものは彼によってヒョイと彼女の手をかわされる。それには、本当に彼女は苛ついて顔はますます険しくなる。


「もう少し会話をしてくれてもいいじゃないか。君がほとんど話をするのは隣の”それ”とだよ。他に興味を持ってもいいと思うんだけどね。」


 嫌味を含んでいるだろう彼の言葉に恵は思わずカチンとくる。


「あなたのような内心で見下すような人と関わろうなんて思いませんよ。彼の名前は”それ”ではなく、桜井瑛斗さんです。それをそんな表現しかできないような人とは私はお話できませんよ。たとえ、彼が何であったとしても。」


 恵は静かに言う。怒りはあるが、彼女は別に叫ぶ方のタイプではなく、どちらかといえば静かに相手に対して正論をぶつけるタイプだ。


「桜井さん、私は体調が悪いので保健室に行くと鳴海先生に伝えておいてください。」

「はい。」


 恵が教室から出るというのに、そんな彼女の感情を感じたのか瑛斗はついて行こうとはしない。ただ、口元に手を当てながらもその指の間から垣間見える彼の口角は上がっている。逆に、レイドリックは固まってしまって呆然と突っ立っている。

 恵は本当に保健室に行き、すでに顔見知りのようになる養護教諭に迎えられてベッドにすんなりと入る。


「あ、やってしまった。」


 恵の頭は仰向けで天井を見上げてやっと冷静になる。


 しばらく眠っていた彼女は唐突に目を覚まして勢いよく起き上がる。保健室で健康体なのにこれほど爆睡したのは初めてだったので、自分に驚愕して彼女は起き上がったのだ。

 時計を見ればすでにお昼は過ぎて5限目は終わろうという時間帯である。それにさらに愕然として彼女は顔を手で覆う。


「ああ、やってしまった。疲労が溜まっていたのかな。」


 手を上げて大きく伸ばした後にゆっくりとベッドから出た恵はそこにいるはずの養護教諭がおらず、代わりに白衣を着た男子高校生が喜びそうなボン、キュウっ、ボンの魅惑ボディの女性が座っている。そして、彼女は恵を見ると妖艶に微笑むのだ。

まさに、大人の女性である。

 もちろん、そんな姿を見た恵は混乱する。しかし、ここであからさまに表に出せば、けがをしてやって来たらしい体操着の男子生徒に怪しまれるので、ここは彼女のスルースキルを活用する。日々、教室でレイドリックによって鍛えられたので、スキルレベルはマックスに近いだろう。


「ちょっと待って。」


 そんな彼女を女性の落ち着いた声が止める。その発信源は見なくてもわかってしまうので、恵はあえてドアを見て返事をする。


「はい、何でしょうか?」


 背後でクスッと笑い息遣いが聞こえる。

 たとえ、ここで笑われても恵は決して振り向くことはしないだろう。振り向いてしまえば、恵はきっと彼女のことを指さしてしまうだろうから。


「体調は問題ないの?」

「はい、大丈夫です。」

「そう。いつでもいらっしゃい・・・・恵さん。」


 チュッ


 最後に唇をはじく音がするが、すべてにおいて恵はスルースキルを活用して、一切背後を気にせずに出ていく。

 最後名前を耳もとで呼ばれた瞬間、ゾワゾワと背中に走る感覚があり恵は一人廊下で


ひえっ


と小さく叫ぶのだ。


 教室に戻る恵に瑛斗は心配して声をかけるが、その返事が億劫になり恵は適当に頷いておく。


「何かあったんですか?」

「あったといえばありました。あなたのお母さんが学校の保健の先生に就職していましたね。」

「あー、そうですか。」


 6限が始まっているのでクラスは黒板に集中しており、小声で話せばだれもこちらを気にしない。

 恵はそれを分かっていて報告したのだが、瑛斗は全く驚いた様子もなく、むしろ納得しているように見える。それを机に突っ伏した彼女は顔だけを彼に向けて見る。


「知っていたんですか?」

「いいえ、ただ何となく予想はついていました。まあ、あの人は人が好きですから下手なことはしません・・・・・安全とは言い切れませんが。」


 はあ


 彼の最後の一言に彼女はため息が出てしまう。


 どんどん、学校で平和な場所が無くなっている気がする。こんなに侵食されていて大丈夫??悪魔祓い、悪魔、半悪魔・・・まだまだ出てきそう。


 今後のことを考えると恵は気が重くなる。


「転校しようかな。」


 彼女は本音がポロッと出てしまう。

 梅雨は開けて夏の本番がやって来る。

次から新章になります。

引き続きお楽しみください。

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