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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人が好きな悪魔と番犬の秘密
32/164

32話

1000PV達成しました。皆さんに読んでいただいてとてもうれしいです!!

これからも続きを読んでもらえるように努力していきま。

 驚愕の表情を浮かべている美麗の男性2人と、大人の余裕を見せつけるかのように艶やかな笑みを浮かべる女性の間に恵は挟まれており、左右を見比べる。

 そこでやっと彼女の中にあったモヤモヤが晴れる。

 心の中で手を打ち頷く。毎日見ている顔と似ていたから美麗の女性に見覚えがる気がしたのだ。彼女のような美人に会っていれば何となく覚えているはずがどこか違うと彼女の中ではっきりとした、しかし確信のないものがあったが、それが一気に解決して満足する。


 親子であれば似ているのは当たり前だね。でも、秋元先生と瑛斗が同じ母親だということは彼らは兄弟になる。こんなに雰囲気が違う兄弟がいることも不思議だ。


 恵はいまだ固まっている2人を見て首をかしげる。

 元々家族とは縁遠いため、異母弟にあたる奏と雰囲気が違うのは恵としては納得だが、彼らは敵意を瑛斗が持っていることから知り合いのようなのでそういう境遇ではないはずだ。

 しかし、秋元教師が瑛斗の兄弟であるならば、もう一方の転校生であるレイドリックの正体が気になるところだ。それでも、恵はこれ以上の深入りを避けるためにはそんなことを質問するのは愚の骨頂というものなので、黙って成り行きを見守ることにする。


「あらあら。2人とも元気だった?何年ぶりかしらね。」


 彼女が発するのは本当の人の声に聞こえる。先ほどのどこか遠くに聞こえるような声では決してない。


「母さんこそ、いったいどうしてこんなところに?それも恵さんと同じ場所にいるんですか?」

「そうだよ、お母様。以前の『私、恋をしたわ!』と言って出て行った、あの宣言は何だったの?」

「一体いつの話をしているの?そんなの100年ぐらい昔の話じゃない。相手はすでに天国に旅立ったわ。」

「そうだっけ?そういえば、そうだった気がする。それからも色んな恋を探していたんじゃないの?それにこんな人が多い場所は嫌いだったと思うけど。」

「いいじゃないの。どこにいても。そんな細かいことを気にするから、あなたたちは人に捕らえられて良いようにされるのよ。」


 秋元教師のお小言に美女は拗ねたように口を尖らせる。


「母さん、お言葉ですが、僕は別に捕らわれていません。ただ、彼らに従った方が楽そうだったんです。それに、僕はこれ()とは違って人との混血で人の血が濃いですから寿命が長いだけで食べ物は人と同じですし空腹も感じます。」


 美女の言葉に否を言うのは瑛斗であり、秋元教師に対して学校での丁寧な態度をどこかに捨ててきたかのように粗雑なものに変化している。しかし、それを気にしていないのか秋元教師はいつものことかのようでそれはスルーして、瑛斗に向かって言い返す。


「何を言っているの?お前は李家のあの坊ちゃんに普通に捕まっていたじゃん?忘れもしないよ。僕がせっかく逃がしてあげたのに、君ときたら相手が差し出した饅頭に簡単に釣られていたよね?」

「そんなことは知らない。もう何十年も前の話。それにあの時の坊ちゃんはすでにいない。」

「へえ、やっぱり人間の寿命は短いな。会ったと思って次に会うとすでに年老いていたりする。」

「あんたこそ、なんで悪魔祓いに買われているだろう?本当に囚われの身だな。かわいそうに。あんたがあのお坊ちゃんと学校に来た時は驚いたけど、2人の間に契約があったから納得した。今の時代にあんたを祓えるほどの力を持ったやつはいないからな。残念だ。」

「残念!?はい、本音もらしたな。とうとうもらしたな!!ふっ、お前が先にあいつの前に現れていたら一瞬で祓われていただろうな。僕だから奴の攻撃は効かなかったんだ。」


 彼らのやり取りはまだまだ続きそうだ。

 お互いのなじり合いをしていて喧嘩しているのに仲の良い兄弟に見えてしまう。何となく和んでしまうこの空間であったが、すでに夜も更ける頃なので、このやり取りをもう少し見ていたい気もするが、恵は帰宅せねばならない。


「桜井さん、まだ家族の親交を深めたいならここにいたらいいですよ。私はもう夜も遅いので帰ります。」

「待ってください。恵さん。夜遅い時間なので送りますよ。こんな遅い時間に1人で帰らせたら僕が何のためにいるのかわからないじゃないですか!?」

「いいですよ。仕事より家族を優先しないと。大事なものなんですから。」

「いいえ、あなた以上に大事なものなんてない!!」

「・・・・そんな名言のようなセリフを言われても反応に困るんですが。とりあえず、帰るなら帰りましょうか。疲れました。秋元先生も今後弟さんに絡みたいからって私に絡んでこないでください。」


 恵は出る前に秋元教師のほうを見て忠告する。彼女はどうしても彼に対して言いたかったことを思い出したのだ。結構、ベッドに押し倒されたことは根に持っていた。


「西寺さん、僕は別に弟のことは関係ありません。あれはあなた自身に興味があったから行動に出ただけです。」

「なおさら悪いですね。」


 恵の返しに秋元教師は声をあげて笑う。


「どういうこと??」


 彼らの母親の超絶美女だけが会話について行けないまま終始首をかしげる。

 しかし、恵は彼女を気にせずにさっさと倉庫から出てそのまま学校から出る。


「疲れた。さっさと帰って風呂入って寝よう。」

「母がすみません。」


 ふぁ、とあくびをしながら歩く恵の後ろで瑛斗が肩を落とす。

 いつもの毅然とした態度は見られず、その姿が捨てられた子犬に見えてしまって、恵は苦笑する。実際彼女は別に彼の母に対して怒りなど微塵もない。ただ、彼女との勝負がもう一方の結果だった場合を考えると、身震いはする。


「いいですよ。予想外のことだったんですし。私は別に気にしていません。でも、あなたが同類退治をしているとは意外でした。何か弱みでも握られているんですか?」

「いいえ、特には。李家の人は私に対して何の要求もしてこないことと、彼らの言う通りにすれば生活に困らないから居心地が良くて一緒に居るだけです。それに、父の血のおかげで私にも言霊が使えましたし、李家の一族たる血のつながりも感じました。」

「そうですか。今名乗っている姓は父親のですか?」

「ええ、そうです。ちなみに、兄は姓名すべて偽名です。彼の場合、人に擬態している状態ですから。」


 別にそこまで聞いていないが、瑛斗はいやに”偽名”の部分を強調していて恵は疑問に思う。


「恵さんは変わっていますね。私の血を知ったら普通私に対して恐怖か侮蔑、もしくは憐れんだように笑みを浮かべるのに、あなたは変わらない。」

「いや、もう色んなことが起こりすぎてこれぐらいでは何も起こす気にもなりません。態度を変えるにも体力が必要なんですよ。私にはそんなものありません。それに、私自身が一般の人とは違う育ち方をしているんですから、あなたの寿命が長いこととか聞かされても、何の反応もできませんよ。憐れむことはありませんね。あなたには家族がいますし。あれだけ想ってくれる人がいるのですから。」


 恵の言葉に、そうですね、と瑛斗はつぶやく。そこに不満はなく彼は苦笑していることから、彼自身もどこか自覚しているのだろう。

 梅雨が過ぎようとしているのか、湿度がなくカラッとした、しかし熱風が頬を撫でる夜の出来事だ。

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