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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人が好きな悪魔と番犬の秘密
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31話

 落ち着いて。。

 きっと暗闇にいるせいで少し幻聴混じりが聞こえただけ。

 私は今混乱の最中にいるから現実では有り得ない単語が聞こえるんだ。

 うん。。きっと、そう。


 恵は胸に手を当てて自分を落ち着かせる。しかし、それが無駄だというように、


『聞こえなかったかしら?私をあなたの僕にしてほしいのよ!!』


 と再度正体不明に言われ、恵はどん底に落とされた気分でガクッと項垂れる。


『フフッ、あなた面白いことをするのね。ますます気に入ってしまったわ。』


 なぜか、初対面なのに好意を向けられる。意味が分からない状況に恵は混乱の泉の中に沈んでいく。


「えっと、整理させていただいても?」

『ええ、もちろんよ。』

「今から何のゲームかわからないけど、私とあなたでゲームをする。」

『ええ、そうよ。』

「私が勝てばここから出してくれる、そして、あなたが勝てば私についてくる、で問題ないですか?」

『ええ、でも、ただ”ついていく”だけではなくて、あなたの僕よ。契約をしてあなたの命が消えるまで一緒に居るってこと。』


 いや、そんな具体的な説明要らないよ!!

 こっちをますます混乱させて楽しいの!?


 恵は頭を抱えてしまう。暗闇の中なので相手が誰かもわからないし、相手の説明でよくわからない単語も入っているのだが、そこを突っ込めばドツボにはまりそうだったので飛ばす。


「確認なんですが、私が負けた場合はここから出してもらえるのでしょうか?」

『ええ、もちろんよ。私も一緒にだけど。』


 つまり、恵は勝敗にかかわらずここから出られるようだ。ただ、敗者になれば自分でもよくわからないことをしなければならないので、ここは受けた方が無難だろう。

 恵は外部からの助けに期待を持たずに


「分かりました。受けましょう。その勝負。」


 と勝負を受けることになる。 

 その瞬間、相手が喜びの声を上げて嬉々とした表情であることは間違いないだろう。空気からそれが伝わってくるのだ。


「それでゲームの内容は何ですか?」

『私が何か当ててみて。』

「えっと、それはあなたがどんな生物かってことですか?人ではないんですか?カテゴリーで大丈夫?」


 あまり人ではないものについて詳しくない恵にとっては難題を突き立てられた不安から質問が次から次へと浮かび上がるし、早口になってしまう。


『ええ、大丈夫よ。とりあえず、私がどんな姿をしていてどんなことができるか当てるだけでいいわ。ほら、あなたも遭ったことがあるでしょう?女郎蜘蛛じょろうぐも眷属けんぞく。クモとかで答えてくれて構わないわ。』

「なるほど。それだけ譲歩してくれて良かったです。」


 恵は尋ねたい衝動を抑えて目の前の相手が何であるかを考える。


『ただし、質問は3つまでで私に触るのはナシ。あと、質問は私に対してクモとかそんな具体的なものを答えさせるのもナシね。』

「分かりました。制限時間は?」

『そうね。この扉の前に誰か来るまで。それまでに、あなたが答えられなかったら私の勝ち。間違っても私の勝ち。』

「なるほど。」


 聞けば聞くほど、こちらには不利な条件だろう。うまい話はタダではないことが常識なのに、恵は軽く受けてしまったのだ。ただ、彼女にとって幸運なのは勝敗にかかわらずここから出られることだ。オマケが付くかどうかを決めているようなもので、普通であればオマケが付いた方がお得感があるのだが、それが現状マイナスなのが異常なところだろう。


「では、1つ目の質問です。この学校のあえてこんな場所に来たのは何か理由があるのですか?」

『そうね。私は暗い場所がとても好きで特に光が一切入らないほうが闇に紛れるから昼であっても人間に見つかることがないからちょうどよかったの。数か月前だったかしら。他の場所で住処を追われてここに来たんだけど、ここはとても落ち着いたわ。』

「それは良かったですね。2つ目の質問です。あなたは人間を食べるんですか?」

『あら、食べないわ。私は人間好きだもの。私と同族の中には食べるものもいるけれど、それは低能なものばかり。でも、食べると言っても他のものみたいに体ごとバリバリと行くわけではないわ。私たちが食した後の人間はきれいなままだもの。外傷を与えるなんてナンセンスよ。』


 いやいや、そんな胸を張って言われても。

 食べる時点で私からすればナンセンスだから。


 胸を張って自慢げな口調の相手に恵は呆れてしまう。


「では、最後の質問です。あなたはどこから来たのですか?前に住んでいた場所を教えてください。」

『それが最後の質問なの?』

「そうですね。住処を追われたと言っていましたから。よほどの事情があったのではないかと。」

『心配してくれるの?優しいわね。』

「いいえ、ただの好奇心です。」

『あら、そう。』


 相手の言葉を否定しているのに、向こうはとても楽しそうに笑うのだ。


『そうね。以前住んでいた場所はとある家だったわ。娘と息子がいてその両親が住んでいる普通の家。私はその家の隅に住んでいたの。でも、神の使いをしている人間が来てね、その家から追い出されて結界まで張られたの。私が結構騒いでしまったから奇妙に思った父親が呼んだみたい。私はただ見てほしかっただけなんだけど。』


 相手はとても悲しそうに言う。

 

 ”神の使い”ってことは神社の巫女か神主?なんというか、だんだんオカルト的な展開になって来た。


 そんなものにハマる予定ではないので、今後もしこんなことがあれば興味を抱かずに家で静かに暮らそうと恵は心の中で決意する。


『それで、あなたは答えを出せた?』

「そうですね・・・・あなたは暗いところが好きで人間が好きだと言いながら人間に見つからないように生きていて、神様が嫌い。そして、人間の体ごと食べるのではなく、人間の命だけを食べる。人が好きで命を食べるという言葉で思いつくのは”悪魔”ぐらいですけど。そんなザ・2次元的な存在がいるわけ・・・。」


 頭をかいて冗談を言ったつもりが、恵がそこまで言った瞬間、パーっと暗闇を目を閉じなければならないほどに強い光が吹き飛ばす。


カチャ


 そして、すぐにドアから鍵が開く音がする。

 そのうえ、自動ドアなんて高等な機能が付いていないはずなのに、その重い鉄製ドアが嫌な音を立てて開く。光はすでに収まっていて目をあければ月光によりわずかに室内が照らされる。

 恵はゆっくりと目を開いて隣を見れば、頬を膨らませて拗ねている人とは思えない美しさを放つ腰までの黒い髪と銀色の瞳を持つ女性が立っている。黒いタンクトップと白いくるぶしまでの長さのスカートは涼しげで、その恰好がまた彼女の儚さを演出する。

 ただ、人と違うのは彼女には尖った耳があることだ。

 しかし、それ以外にあまり差異は見つけられないうえに、彼女の見た目というより、雰囲気に既視感を覚えるのだが、それを思い出せず恵は胸のあたりがモヤモヤとする。


『あなたの正解よ。もう、せっかく良い宿主が見つかったと思ったのに。あんな3つの簡単な質問だけで言い当てられると思わなかったわ。悔しいわ。もしかして、あなたは私の正体に気づいていたの?」

「いいえ、まったく知りませんでした。思いつく限りのものをどうにか少ない知識が入っている頭の中から引っ張り出しただけです。」

『そうなのね。む、やっぱり悔しいわ。』


 女性は諦められないのか、口惜しそうに何度も何度も叫ぶ。しかし、それとは逆に恵は内心ホッとしている。彼女とのゲームに勝利したので、オマケが付かずにただ解放されるからだ。


「ところで、あなたにお尋ねしたいんですが、いいですか?」

『ええ、なあに?』

「先ほど私がクモと出会ったことを知っていましたね。それに女郎蜘蛛の眷属とまであなたは言っていました。どうしてそんなことを知っているんですか?」

『あら、だって、私にこの学校を勧めてくれたのは女郎蜘蛛だったからよ。あれと不仲でも良好でもないんだけど、面白そうだったから来たの。あれは私よりも弱い存在だけど、私たちは好奇心が強いからね。それで、ここに住み着いてからその眷属が来てあなたのことを言うものだから驚いたわ。その瞳、私も実物を見るのは初めてよ。』


 彼女は抑えられないとばかりに恵の顔を両手で包み込んで瞳をのぞき込む。そして、ウットリして飽きないのかそのまま惹かれるようにじっとそれを見つめている。

 さすがに、至近距離で美女に見つめられるのは堪えた恵は彼女の手から逃れて少し離れる。


「そうですか。」


「恵さん!!」


 まだ訊きたいことがあったために、言葉を続けようとした恵を阻んだのは殴られたようなドアの音と彼女を呼ぶ声だ。

 驚いてドアのほうを見ると、瑛斗とその後ろに秋元教師がいる。

 恵は驚愕しているが、向こうの2人はもっと驚愕したような顔をする。


「母さん、何をしているんですか?」

「お母さま、一体何をしているの?」


 それよりも2人が同時に放った言葉により、恵はさらに驚愕させられるのだ。

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