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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人が好きな悪魔と番犬の秘密
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30話

 体育館倉庫は古く少し腐っているのか、重い鉄のドアを開けるときに耳を思わず塞ぎたくなるような嫌な音がする。


「こんばんは。」


 ただでさえ暗い校内なのだが、まったく光が入らないその倉庫は本当に闇という感じで、隙間風がさらに不気味さを演出している。ズボンを履いている恵にとってはそんなに気にする必要もないが、制服のスカートであれば、足に時々感じる風に動きを止めていただろう。

 恵も視界がほとんど遮られている状態ではズンズンと前には進んでいけず、その恐怖を追いやるために挨拶だけはしておくことにする。


「ええっと誰も居ませんか?話せる人であればありがたいんだけど。」

 

 呼びかけてみるも、まったく返答がないことに恵は残念2割安堵8割でこの場からとっとと出て行こうとする。


 ガシャン

 

 その瞬間、タイミングよく倉庫のドアが閉まってしまう。それに恵は唖然とする。


「まじ?」


 目の前の現実を受け入れられず、驚愕の声を出す。


「ええっと、これは一体どうしたらいいんだろう。」


 唯一ドアから差し込む月明かりからの光だけが彼女にとっての道しるべだったのだが、それが断たれた状態で完全に何も見えない。本当の闇であり、自分の体の感覚が失われた気分だ。


『フフッ、フフッ。』


 そんな恵の耳に楽しそうに嗤う女性の声が聞こえる。その方向を見るが、闇なのでそれがどんな形をしているか恵にはまったくわからない。ただ、闇に1人だけではないことを知って少し気持ちが落ち着いている。心臓の音が聞こえるのだ。


「どちら様?」

『あら。それは私が聞きたいわ。私の住処に乗り込んできたのはあなたの方だもの。』


 恵の質問には答えないどころか、優しい口調ではあるもののその言葉は彼女を責めている。しかし、確かに知らなかったとはいえ、そう言われれば恵のほうが勝手にやって来たのだから間違ってはいないので、彼女は怒りなんか湧きもしない。


「すみません。私は西寺です。この学校の学生で今日は怪談を聞いてきました。俗に言う肝試しというものです。」

『そうなのね。そんなに人間に知られているとは思わなかったわ。まだ、私はここにきて2か月も経っていないのに。あの人に勧められて来たけど、安全だけど退屈な場所だわ。』


 その声の主の事情が彼女の話から見えてくる。

 彼女は安全の地を求めてやって来たようなので危害は加えないようだ。それを知って恵は安堵する。


 それにしても、石川先生も”あの人”ってワード使っていたな。これが同一人物だったら、一体この学校にどんな恨みがあるんだろう?


 恵は腑に落ちない部分はあるが、噂になっていたのは彼女が探していたクモさんではなくて残念に思う。そして、彼女は今一番抱えている大きな問題を頭が冷えて思い出す。


「えっと、私は出られますよね?」

『あら、誰が出すと言ったの?』

「え?出られないんですか?」


 相変わらず姿が見えないので、声がする方を見て恵はきょとんとする。向こうは小さく鼻で笑った気がする。


『出してほしいの?』

「できるなら。」

『そうね・・・・じゃあ、ゲームをしましょう。』

「え?ゲーム??」


 突拍子もない提案に彼女は驚きオウム返しをする。


『そうよ。私は退屈なのが嫌いなのよ。でも、誰も遊んでくれないの。だから、初めてのお客さんであるあなたとゲームがしたいわ。負けた方は勝った方のいうことを何でも叶えるの。』

「いや、何でもは限度があると思いますけど。それに、私の願いなんてすぐに終わるものですよ。」

『あら、先に願いがわかっている方が人間は気楽に挑戦できるんじゃないの?』


 人間のことをよくわかっている相手だな、と恵は感心してしまう。

 確かに負けた時のリスクを把握していた方が人は挑戦しやすい。そのリスクが低いほど、彼らはどんどんのめりこむ傾向にある。特に、パチンコや競馬などの賭け事は1回あたりの掛け金が小さく、成功したときのアドバンテージが大きく写るために中毒者が出やすいらしい。ギャンブルはその人の特性をうまく利用している。

 現在、恵がゲームを受けて相手に勝つ以外に、瑛斗か秋元教師に外から開けてもらう方法があるが、それを待っている間に日が昇りそうだ。恵がいち早くこの闇から抜け出すには相手とのゲームに勝たなければならない。


「そうですね。ゲームの内容とあなたが勝った時の望みを聞いてから受けるかどうか決めます。」

『意外と慎重なのね。さっきまで声を震わせていて迷える子羊みたいだったのに、今は大人に見えるわ。』


 大きなお世話だよ。


 恵は内心感心したような声を出す相手に悪態をつく。


『ゲームは単純よ。私が何であるか当ててくれたらいいの。当てられたらあなたの勝ち、当てられなかったらあなたの負け。そして、私が勝ったら・・。』


 そこで相手は言葉を止めて数泊静寂が落ちる。

 これほど引っ張るほどに彼女の望みは大きいのか、と恵は警戒し、つばを飲み込む。


『私をあなたのしもべにしてもらうわ!!!』


 ビシッと彼女は言い放つ。


ええ!?


 もう、予想外の言動に恵は開いた口がふさがらない。


 この人は何言ってんだ!!


 驚愕と混乱で恵の頭の中はカオス状態。

 正常の判断などつかないのだ。

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