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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人が好きな悪魔と番犬の秘密
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29話

 学校に出ると聞いて恵は何となく気になってしまう。

 人の顔を持つ別の生き物に遭遇したことがあるのでなおさらだろう。


「桜井さん、今日転校生が言っていたことを確かめに行ってきます。」


 例年とは違い梅雨でも調子が良くなった恵は目の前で夕食を食べている彼に言う。相談ではなくもはや断定だ。彼女はもともと彼の庇護下にあるわけではなく、自分勝手に動けるはずなのだが、一応の礼儀として報告したまでだ。

 もし、報告せずに恵が夜にいないことをしれば、この心配性の男性は大騒ぎするに決まっている。それを回避するために必要なことだ。その軽い会話になるはずだったのだが、彼は微笑みを浮かべていた顔を一気にしかめてしまう。


「恵さん、それは気にしないという結論に至ったではありませんか?」

「それはあの人と関わるのは良くないとあなたから刷り込まれていたせいでもありますし、私自身も彼に対して苦手意識があって関わりたくないと思ったから言っただけです。でも、もし、学校に出る人の顔を持つ生き物が前に遭ったことのあるクモさんだったらと思うと、もう1度会ってみたいと思います。」

「どうしてですか?怖い目に遭ったのでしょう?」


 彼は子供に尋ねるように言う。

 恵はその質問にその時のことを回想して今でもあの手の数に気分の悪さは伴うけれど、あのクモが言っていたことは気にかかるのだ。

 まるで、恵があのクモより強いような言い方が。。


「確かに気持ち悪い目に遭いました。でも、もう1度会いたいです。そして、話がしてみたい。あのクモが言っていたことが気になるんです。」

「言っていたことですか?」

「はい。彼、いや、彼女かもしれませんが、あのクモさんは私がまるで強いように言っていました。そして、恨みがあるような言い方でした。私にはまったく身に覚えがありませんが、あなた方の態度からこの目が関係しているのでしょう。それなら、私には知る権利はあるはずです。この目がいったい何なのか。」


 恵が言い切ると一瞬の静寂が部屋を覆う。

 何かを考えていた瑛斗は恵を見て言う。


「では、私も一緒に行きます。私はあなたの番犬で僕。いつも付き従うのが私の役目ですから。」


 と。


「いや、それは必要かと私は首をかしげているところなんですけどね。この間の石川先生の件は明らかにあなたに巻き込まれましたから!!」

「そうですね。あの時は私の判断ミスです。その反省を今後生かしますから、どうぞ、この哀れな子羊をお連れください。」

「子羊?誰が??」


 きれいに座った態勢で頭を下げる瑛斗を見下ろしながら恵は首をかしげるが、それを聞いた彼が下から恵のほうを見上げる形をとる。まるで、犬のようにつぶらな瞳に見えるのは幻覚だろう。

 

 そう思いたい。


 結局、彼の押しの強さに負けて恵は彼を連れて夕食後に休日の学校に向かうことになる。



 休日は部活動も遅くても午後5時には終わるため7時ぐらいに恵と瑛斗は学校に着く。すでに静かになっている学校を見て閉じられている正門の上に登ってその正門から堂々と恵は侵入し、瑛斗も続く。彼の場合は跳躍だけでその柵を超えることができるようだ。

 彼らはそのまま閉まっている正面ドアからではなく、裏門から入ることにする。職員室の明かりが見えたため職員が出入りする出入り口のほうがあいていることはわかったので、その職員室の前を通るときだけ見つからないように注意しておき、その出入り口から学校内に入る。


「よし、ここまではうまくいった。後はその例のものがどこに隠れているかだな。」

「そうですね。」


 恵は初体験にテンションが上がっていて独り言を言ったつもりだが、付き人はそれに答える。彼は面白くなさそうな顔をしている。


「桜井さん、怖いなら帰っても大丈夫ですよ。」


 恵は彼が怖いからそんな顔をしているのだと思い気を遣って言ったつもりだったのだが、すぐに首を横に振られる。


「違います。あなたが楽しそうなので。」

「なんですか。それは。こんなことをしたことがないのでアドレナリンが過剰に分泌しているだけですよ。」


「へえ、私も仲間に入れていただけます?」


「ひゃっ。」


 急に2人以外の声が入ったので恵は短い悲鳴を上げてしまう。すぐに口を手で押さえたことと、職員室から離れていたことが幸いで他に人はいないようだ。

 その声の主は2人のすぐ後ろに立っており、その気配に気づかなかったので驚愕する。瑛斗は肩をすくめている様を見ると少しばかり気づいていたようだ。


「悪意のない気配があると思ったら秋元先生だったんですね。」

「それは失礼。驚かすつもりはなかったんですよ。あれだけ近づいても気づいてくれず寂しくて思わず声をかけてしまいました。」

「その場合は、もう少し離れた場所からかけてください。」

「十分離れているでしょう。」


 確かに、人1人分は離れているが、それよりもっと前、例えば後ろ姿が見えた時ぐらいに声をかけてほしかったと恵は思い、秋元教師のほうに目で訴える。


「そんなに睨まないでください。西寺さん。あなたがそれほど驚くとは予想外だったんですから。私も驚きましたよ。」


 クスクスと嗤う彼は力が抜けたように尻餅をつく恵を見下ろす。

 恵は即座に立ち上がり何もないような顔をして彼を見る。


「秋元先生は部活か何かですか?」

「いえ、今日は私が見回り当番なんですよ。」

「それは奇遇ですね。」

「本当に。実は鳴海先生が担当だったんですが、所用でできなくなり相談された私が代わったというわけですけど。ですが、私にとっては幸運でした。」


 フフフ


 彼は笑って言う。秋元教師の奇妙とも表現される笑い声に恵は引いている。


「それでお2人はどうしてこんな場所に?学校は閉まっている状態のはずですが。忘れ物ですか?」

「はい、そうです。」


 これ以上彼と関わるまいと、恵は彼の質問にすぐに頷く。それも彼の言葉に被せ気味に。


「そうですか。それでは私も一緒に行きましょう。多い人数で探したほうが早く終わるでしょう。」

「いいえ、私はすぐに終わりますから。桜井さん、秋元先生に用事があるって言っていましたよね?」

「いや、そんな「ちょうどよかった!!桜井さんが秋元先生に用事があるらしいんです。聞いてあげてください。」」


 恵はついてきた瑛斗を犠牲にしてこの場から離れるために全速力で回れ右をして走り出す。この方向はちょうど教室に向かう方向でもあるので変には思われないことは彼女にとっての幸運だ。


 恵は暗い道を走って教室の前を通りすぎる。

 しかし、彼女にとって誤算だったのは、人の顔を持つものが出ることをレイドリックから聞いていたが、それがどの場所に出るかまでは聞かなかったことだ。だから、彼女の勘でそれを探しだす必要がある。


「怪談って言えば、音楽室?でも、音は聞こえないな。クモさんが住み着きやすいとすれば倉庫?体育館倉庫があった。」


 恵はとりあえずクモから連想できる場所を思い描く限り向かってみることにする。

 その間に体力はゴリゴリ削られるのだが、アドレナリンが過剰分泌の状態である彼女にとってはそんなことは関係ない。

 気分はもはやスーパーマンだ。

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