28話
翌日から梅雨はまだ続いているのに、今までで最も爽快な気分で恵は過ごせるようになり、彼女は授業にも出席できるようになる。悔しいが、今回は瑛斗のおかげだと、彼女は認めざるを得ない。
気分が良くなったのはいいが、恵には別に悩みの種が増えることになる。
「西寺さん、昨日のテレビ見た?」
恵に向かってそう気安く話しかけてくるのは、以前から常々忠告されているうちの1人であるレイドリック・オールウィンだ。彼はなぜか対角線上の端の自分の席ではなく恵の前の席に座るのだ。これにより、彼の周囲を囲っていた集団がそのままこちらに移動する形になる。
そして、そうなった場合、標的になるのは言わずもがな恵自身だ。それが始まってから彼の周囲にいる女子の視線が厳しく、恵はため息を吐く。
彼に一切答えもしないし、彼が1人で話している状態であるので会話にもなっていないことに気づいてほしい。
恵はそう思いながらも授業の準備をする。その間もレイドリックからの話は止まることを知らない。彼は話好きであるようだ。
そのまま無視していれば全く反応しない人相手も面倒になってそのまま離れていくだろう
彼女はそう思って無視していたし、隣の瑛斗はなぜかそれを見て満足げであるので対応は間違っていないようだ。
しかし、この対応はレイドリックからのある話題で途切れる。
「そういえば、この学校って本当に出るらしいよ。幽霊。それも、人の顔を持った人ではないものなんだって。」
それを聞いた瞬間、恵は驚いて彼のほうを見る。
初めてまともにかち合った視線に彼は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「やっとこっち見たね。西寺さんはこういう話のほうが興味があると思ったよ。」
その言葉に、しまった、と思ったが恵は彼から視線を外すことができない。その話題を持ってきたことで彼はおそらく瑛斗と同じ部類の人間ということに予想が付き、そこで、なぜ瑛斗がレイドリックを敵視しているような態度をとるのか合点がいく。点と点が線で結べたようだ。おそらく、レイドリックだけでなく秋元教師も同類なのは言うまでもない。
つまり、彼らが一緒にこの学校にやって来たのは偶然ではないのだ。
「誰しも学校の怪談には興味があることだと思います。」
一般的に考える答えを探しだして恵は苦し紛れではあるが言うと、レイドリックは肩をすくめる。
「それもそうだね。みんなも好きなの?」
彼は周囲の女子に尋ねると、彼女たちは一斉に大きく頷く。その反応に恵は内心安堵する。傍目からはおかしくないように映るだろう。
「そうなんだ。じゃあ、この学校で肝試しとかしたいね。どんなものか僕は聞いただけだから見たことがないし。」
「いいね。レイドリック君と一緒なら私怖くない気がする。」
「私も。」
「肝試しといえば2人1組よね。じゃあ、くじ引きにしない?」
彼の一言に女子たちは盛り上がるが、恵はテンションは急降下だ。肝試しは夜に行う行事であり、夜は遅くまで起きられない体質なので、そんな時間に外出は彼女には厳しい。それに強制参加なんて彼女には拒否以外に選択肢はない。
「あなた方で楽しんでください。私は不参加でお願いします。怪談は聞くのは好きですが、当事者になるのは嫌いなんです。」
「私も西さんが不参加なら不参加で。それに西さんは夜出歩くことは親御さんの了承がおりませんから、本人が参加を示しても不参加になります。」
おい、誰が”親御さんの了承”が必要だって?
恵は当然の顔をして言う瑛斗のほうを一瞬睨んだが、ここで不審な動きは見せられず苦情は後で言うことにする。
瑛斗の理由を聞いた女子たちは恵に対して嘲りの表情を見せる。子供っぽいと笑っているのだろう。分かりやすい彼女たちの反応だが、そう思っておいた方がライバル認定されない可能性が高いので恵は放置する。
「西寺さんも大変だね。過保護なんだ。実は僕の家も過保護なんだよ。今回の日本への渡航だって最後の最後まで親たちがうるさくて。本当は1人で来たかったんだけど、結局何人も連れてこさせられたよ。」
レイドリックはこりごりといった顔をする。
それは本心のようで恵は同情するが、何も言わない。他に慰めを言う人たちは彼の周囲に手では足りない数がいるし、彼は慣れたようであるので言わないでも十分だと感じたからだ。彼らの喜劇を見ているうちにホームルームが始まる。
「西さん、体調が良いのなら教室からあまり動かないでくださいね。」
レイドリックの言葉に同情したのは現在、恵にも押し付けられた同じような存在がいるからだ。その存在は毎日周囲に人がいなくなると小声で忠告する。それに恵は何度も頷いて流すのだ。
「本当に面白い。」
そんな2人を見てレイドリックがそんなことを言っているなんて瑛斗は気づいて威嚇していたのだが恵は知らない。




