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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人が好きな悪魔と番犬の秘密
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27話

 学校にたどり着き教室に入ると賑わっている。

 まだ、朝のホームルームが始まるまでに時間があるが、しかし、異様なほどに教室に人が多く、特に女子の割合が高く彼女たちはとても浮足立っている。

 その中心を見れば、恵は顔をしかめる。瑛斗は差し障りがなく丁寧に接しているため、どこか女子たちは遠巻きにしているようだったが、その中心にいる転校してきたレイドリック・オールウィンは人懐っこい笑みで彼女たちにはアイドルのような存在なのだろう。彼が何か言うたびにキャーキャーと言って騒いでいる。

 その高い声がガンガンと恵の頭に響くたびに襲い掛かる頭痛に頭を押さえながら、その集団の中を通り抜けて何とか席に着く。

 恵にとって幸運なことは彼の席とは一番前と一番後ろで教室で最も離れていることだろう。彼女は席に深く腰掛けてそのまま倒れるようにして机に頭をくっつける。木の冷たさに痛みが和らぐようで落ち着いてくる。


「西さん、良ければこれもお使いください。」


 そんな恵に隣の瑛斗がそう言ってクッションを差し出してくる。そんな大きなものではなくて、恵の頭がちょうど乗るぐらいの正方形のミニクッションだ。しかし、それを受け取るかは彼女に迷うが出て、それと瑛斗を交互に見る。

 これが休日の外出先や家でのことなら躊躇なく受け取っていたかもしれないが、悲しいことに今いるのは学校だ。公共の場であり、集団行動が求められあらゆるルールがある場所で、こんな自由なことをしてもいいのだろうか、と彼女は自分の欲望と葛藤する。


「大丈夫です。私が先生の許可は得ておきますから。」

「あ、そうですか。」


 彼の言葉に異様な説得力があり、彼女は驚くもそれに納得させられる自分がいて抗えずに受け取ってしまう。


 なんか、この人に毒されている気がするんだけど。


 内心そんなことを思いながらも体調が最悪の今は考えることさえ億劫になってしまった彼女はそこで思考を停止する。恵はそのクッションに額を付けてその柔らかさに癒されながらすぐに夢の世界に誘われる。


 そこからの記憶は全くなく肩を許されて恵が目を覚ましたのは、昼食すら過ぎて帰宅時間のことだ。あまりに爆睡していた自分に驚いて一瞬状況把握ができずに固まった恵を瑛斗はフフッと笑いながらも安堵している。


「良かったです。眠れてスッキリとしたような顔をされています。」


 彼にそう言われ恵は顔や肩を触って自覚する。


「そういえば、体が軽い。だるさとか億劫な気分もない。」

「それは良かったです。今日はご飯を食べられそうですね。」

「大丈夫だと思います。」


 いまだに信じられない気持ちの彼女が呆然と呟くと、彼はさらに笑みを深める。

 すでに6限目が終わって30分は経過しているようで、外からは運動部の声が響き、あちこちから吹奏楽部の楽器の音色が響いている。こんな時間まで彼は恵が起きるのを待っていてくれたようだ。

 なんだか気恥ずかしさを覚えた恵はすぐに準備してクッションを抱える。


「ごめんなさい。待たせてしまったようで・・・・それと、これありがとうございました。」


 言うほどにどんどんその気持ちは増していき、最終的にはクッションで顔を隠してしまう。自分でも乙女か、と思わないでもないが、こんな風にお礼を言ったことがない恵にとっては慣れないことで顔を赤くしてしまうことはしょうがないと思う。

 そんな様子を見ていた彼はクスクスと笑いがこみ上げたかのように何とか堪えているが、声は漏れてしまっている。その声だけでどんな反応をされているかわかる恵は顔を出すことがどんどん嫌になりクッションを持つ手に力が入る。


「《《恵さん》》、あなたのお役に立てることは私にとってこの世で何よりも喜びなんです。そんな風に謝罪は止めて感謝の言葉が自然と出てくるならそれだけを言葉にしてください。そして、そんな風に恥ずかしさを覚える必要もありません。感謝だけで私にとっては褒美のようなものなのですから。」


 あの日以来名前呼びをしていなかった彼が名前を恵の名前を呼び、そう言いつつ恵が持っているクッションに手をかけてそっとそれを彼女の手から抜き取る。瑛斗の言葉で気を抜いていた恵はあっという間に壁がなくなり、顔を見える状態になってしまう。何とか、最後の抵抗として顔を俯かせようと思うが、すでに顔が熱いので、その抵抗が無意味ということを自覚する。

 恵はすでに諦めと勢いで彼を真正面から見て、彼の視線と自分のそれを交差させるのだ。


「桜井さん、本当に助かりました。また、貸していただけたら嬉しいです。」

「ええ、喜んでお貸ししますよ。いつでも必要な時は言ってください。」


 恵はもう半分自棄だっただろうが、それをにこやかに彼は頷いて答えている。同い年なのに、彼には大人の余裕があり何となく彼女は悔しい気分になって、それを隠すように彼をおいて歩き出す。


「じゃあ、そういうことで。」

「はい。」


 彼女に返事をしつつ瑛斗は決して離れないように彼女の隣よりは少し後ろに歩くのだ。最初よりは距離が近い後ろからの気配に大股で歩く彼女は見えないように口角を上げる。

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