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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人が好きな悪魔と番犬の秘密
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26話

 目を覚ました恵を襲ったのは体に普段は感じない重力だ。その重さに体を動かすのも億劫になっている。

 右手を目の上に置いて、はあ、とため息を吐き、手を下ろせばぼやけていた視界は徐々に回復していくと、それが保健室とは違って自室のものだとわかる。

 その瞬間、先ほどまでの重さなど感じないほどに俊敏に彼女は上体を起こして、気を失いまでのことを思い出す。


「そうだった。秋元先生に押し倒されて、なんかよくわからない会話をした後にドアから入って来たのは転校生だった・・・・あれ?じゃあ、なんで私は今ここにいるの?瞬間移動??幽体離脱??」


 恵は慌てて自分の体に手を当てたり、透けていないかを目で確認するが、しっかりと体はそこにあるように見える。恵は何度も目をこすったり瞬きしたりして念入りに確認をするが、結果は変わらないことに胸をなでおろす。


「はあ、良かった。」


コンコン


 安堵したのもつかの間、ドアがノックされる。この家の同居人は1人しかいないためわかっているが、プライベート空間への立ち入り禁止をルールとして決めているために瑛斗は律儀にノックをする。

 返事をすれば、ドアを彼の体が見えるぐらいまで開いてそこで床に座る。彼が言うには小さい頃から床だろうが畳だろうが、そういう癖をつけられたようで止められないとのことだった。彼に無理を強いてまで恵は何かを強要することはないが、この態度はさすがに彼女も肩肘を張る。


「目覚めてよかったです。ご気分はいかがですか?」

「大丈夫です。とはいえ、毎年この季節はいつもこんな感じですから気にしないでください。もしかして、昨日は早退であなたが連れて帰ってくれましたか?」

「はい、私の役目ですから。朝食の準備はできておりますが、本日もやはり登校されるのでしょうか?」

「ええ、そうしようと思います。学校はこの季節でも通っていましたから問題ありません。気分がすぐれない時は保健室にでも休憩しています。」


 恵は肩をすくめて笑って見せたのだが、瑛斗は顔をしかめている。


「昨日のことは覚えていますか?」

「ああ、秋元先生のことですか?」

「はい、あの人たちと2人っきりにならないでほしいと言った傍から2人っきりになっていましたよね。」

「そうですね。あれは予想外です。秋元先生って常識が通じないので驚きました。普通、教師ならやめさせられないためにスキャンダルは避けるはずなのに、私がそれを言っても拒否でバッサリ切り捨てられて。」


 あの時のことを思うと恐怖よりおかしさがこみ上げる。これが、恵自身が当事者でないならお腹を抱えて笑っているだろうが、残念ながらそうではないので笑えても次がないことを正直に祈っている。


「あの人たちとは関わらないことが吉です。そんな無理をしてでも恵さんはなぜ学校に行くのですか?」

「梅雨の時期の1か月ほど休むと授業に遅れてしまいますし、試験も危うくなります。私はそれは避けたいだけです。少しでも出席数を上げて何とか成績維持を狙いたいんですよ。」

「それだけですか?」


 彼は恵の答えに納得していないようだ。

 瑛斗とはわずか2か月ぐらいのたぶん短い部類の付き合いなのだろうが、彼に隠し事ができないような危機感を恵は感じている。しかし、彼女の答えは半分正解なので彼女はそれで突き通すために彼の目から外さない。


「それで納得しましょう。ただ、保健室へ行くのは避けてください。教室で頭を倒していてもいいので、私が見える範囲に居てください。」

「それは過保護・・・・ワカリマシタ。」


 怖っ!!


 軽口で茶化そうと思った恵は瑛斗の顔を見てすぐに頷く。

 彼の顔は今まで見たことがないほどに顔というより彼が纏っているオーラ、空気のようなものが恵にその軽いノリを許さない。

 そんな感じの威圧感のようなものがある。ただ、それは彼女の肯定と同時に消失する。それに安堵しつつも、恵は今後調子に乗ることは止めようかと思うのだ。


「朝食できていますから準備できたら下りてきてください。おかゆにしましたから調子は悪いでしょうが、食べられる分は食べてください。」

「分かりました!!」


 この時、恵は瑛斗の登校初日に彼に向かって敬礼していたクラスの男子生徒の気持ちがわかる。奇妙な行動に見えても当事者にはそれなりの理由があるのだと彼女は納得して彼がいなくなってから重い体を動かして準備をする。

 どんよりと厚い雲が空を覆い、暗い朝が始まる。

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