22話
恵の瞳、七色瞳は多くの奇跡を起こす。
その際に、普段は光の加減によってその七色に光って見える瞳が強くその時抱いた感情に左右された色が濃く出る、と言われる。世界で最も美しい瞳に指定され、宝石ではなく宝玉と称えられる。
赤は怒り、青は悲しみ、緑は欲望、黄は喜び、茶は懼れ、白は愛情、黒は憎しみ
それら七色のどれかを発した状態で彼らは対象に対して言霊を発する。
それは決してそれを発した本人が対象に対して覆さなければ、一生覆らず、必ず、その言葉通りの人生を対象が歩むことになる。
この1点が李家が普段使用する言霊とは異なる大きな点であり、彼らが七色瞳を持つ者を守護する理由である。
現在だけでなく未来にまで七色瞳を持つ者の言霊は影響するのだから。
その者を他の異能者たちはこう呼んでいる。
”宝玉の預言者”
と。
恵は赤色が強く出る瞳で瓶を傾けつつある対象者を石川教師に向ける。
「自分の欲望を満たすことしか考えていない愚か者が、今この瞬間からお前はすべてを失うことになるだろう。これから先、お前が生きる道をたどる中で与えられるものは、絶望のみだ。それが、自分の欲望のままに人を殺めたお前が支払う対価となる。お前の人生にもはや一切の幸福はない。ただ、絶望のままに地面に這いずって生きていくがいい。」
いつの間にか溶けた傀儡術
恵は人差し指で彼女を指して言い切る。
彼女はすでに立っているのもやっとの状態であり、彼女の後ろにあった水槽から急に動き出した継ぎ接ぎ跡のある男性は立ち上がったと思えば、その継ぎ接ぎの部分が一斉に崩れ落ちる。それを見た石川教師はすでに立っていることすらできない。彼女にとって最後の力、希望はその瞬間完全に崩れ去る。
恵はまだ終わっていないとばかりに、隣の瑛斗を見る。彼もすでに術は解けているようで彼は恵の前に片膝をつく。
「人を好き勝手に振り回したうえに、最後の最後で責任も取らずに捕まった愚かな男。その行動により感じた情はいつまでもお前の心を蝕むだろう。そして、お前の全身を縛る鎖となる。それが、お前が選んだ道だ。後悔と劣等感を感じながらここではないどこかで生きていけ。」
恵はそれだけ言うと赤い輝きはスッと奥に引っ込み、薄い緑色に色づく。
力が抜けてそのまま倒れる彼女は悲しみでゆがませた表情をする瑛斗に抱きかかえられる。
「警察だ!」
そのタイミングで国語準備室の扉の方から掛川たちがやって来て、瑛斗の前に座りこんでいる石川教師を逮捕し、水槽にあるバラバラの人体を回収する。
その際、いつも薄い笑みを浮かべているか、表情が抜け落ちたような無表情であるか、何を考えているかわからない瑛斗が黒い表情をしていることに気づいた掛川は軽口をたたく。
「どうしたんだ?お前、今恐ろしい表情しているぞ。お前のほうが逮捕しないといけない人なんじゃないかと思うほどにな。」
「黙っていてくれ。自分の自惚れに憤りを感じているんだから。」
いつもの丁寧な言葉使いすら忘れている瑛斗のそんな様子、年相応な表情と言葉を使っているところなど掛川には見たことがない。
「まさか、お姫様を危ない目に合わせて呆れられたのか?」
掛川は適当に当てずっぽうで言っただけなのだが、それを聞いた瑛斗がキッと彼を睨みつけてくるので、「マジか」と驚く。
「ハハッ、傑作だな。李家の分家が大事なお姫様に嫌われるなんて。こんな面白いことはないな。」
「お前に何がわかる。」
「さあ、俺は大それた家の出身でもないし、一般人に近いからな。」
「なら、もう余計なことは言わずさっさと出ていけ!」
瑛斗から叱られはしたものの、まったく効いていない掛川は、はいはい、と言って出ていく。
誰もいなくなりシンとした室内で瑛斗はギュッと離さないとばかりに強く横抱きにしている恵を抱きしめる。
「恵様、あなたは私の希望。どうか、私を捨てないでください。この過ちを私は決して忘れませんし、そのためなら、私はどんなことでもしますから。ですから、どうか捨てることだけはしないでください。あなたに捨てられたら私はきっと自分が保てなくなる。」
聞こえないとわかっているが恵の耳もとで瑛斗は囁く。
先ほどの恵から言われた言葉は彼の中で深く刻まれ体中に響いている。




