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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人形を愛する傀儡術師
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18話

 学校に行くと、瑛斗とともに行動することで恵の予想通り注目が集まる。それだけならいいが、昨日恵と同じく休んでいた5名が『すでにこの世にいない』という知らせを受けている生徒たちの視線は好奇心よりも疑心や恐怖のほうが大きい。その5名と恵が不仲なのはクラスで最初の頃に起きたことを知っていれば想像が容易いだろう。なぜか、あのトラブルも被害者であるはずの恵が悪者になっているのは今でも彼女にとっては腑に落ちない。


 ただ、これらは恵にとっては予想の範囲内だ。しかし、何が問題かというのは隣の席に座っている男性だろう。どう見ても高校1年には見えないほどに大人びた黒髪銀色の目の美男子イケメンは学校中からすでにスター扱いだ。

 彼、瑛斗が恵と同じ16歳とは彼女も全く頭になかった。それを知ったのは、朝同じ高校の制服を着た姿をリビングで見た時だった。

 その時の衝撃で一瞬固まったが、恵は瑛斗を問い詰めずにはいられなかった。


『桜井さん、いくら何でも年齢詐称は犯罪です!』

『ご安心ください、恵さん。私の年齢は16歳です。ちなみに、あなたより2日ほど誕生日が早いですから年上であることには変わりありませんが。」

『ええ!?16??その風貌で!?』


 あまりにあっさりと言う彼の姿は恵にとっては雷に打たれる衝撃だった。

 これほどまでに驚愕したことはそんなにないだろう。それも、こんなプロフィール段階で。

 それからあいた口がふさがらず固まっていたら、


『恵さん、そこに固まっていないで早く朝食を食べてください。そうでなければ、学校に遅れます。それとも、その口に私が食べ物を。』

『いや、大丈夫です。食べますよ。』


 彼が箸で食材を掴んでスタンバイをしようとしたところで正気を取り戻した恵はそれを躱してすでに用意されている朝食の席に着いたのだ。

 しかし、驚愕で心乱れているせいか、せっかくキラキラと輝くほどのプロ級の朝食もそんな恵にとっては砂を食べているような心地だった。


 朝から驚き疲れのある恵は学校到着してから周囲のありきたりの視線などもはや気にする余裕もなく、机に突っ伏す。


「ねえ、あんな人いた?」

「え?知らない。いや、いないでしょ。あんなかっこいい人がいたら覚えているって。」

「そうだよね。やばいよ、テレビに出る俳優なんか掠んじゃう。」

「それ言える。俳優かモデルなのかな。」


 クラスに集まって来る全校生徒のささやき合いは、もはやその意味を果たしていない。自分のことを言われているにもかかわらず、瑛斗は全く気にする素振りもなく恵のほうに度々話しかけてくる。

 この状況で1つ疑問に思うことがあるとすれば、授業はすでに始まっているのに、彼が恵の横に座っていることに誰も何も突っ込まないことだ。

 普通転入生が来た場合は担任と一緒に入って来て自己紹介から始まり、空いている席に座るものだろう。人数が減ったことでその候補が増加したとしても、断じて恵の隣は埋まっていることが正しい彼女自身がよく知っている。なぜなら、そこの昨日までの持ち主は一番前の席に座っているからだ。


「あの、初めまして。今日から転入してきた桜井さんですよね?先ほど、担任の鳴海先生から覗いました。空いている席に座っていいと言ってはいましたが、席を勝手に移動するのはいかがなものかと思うのですが?」


 昼休みに差し掛かったところで勇者が現れる。

 誰も聞かないことをクラスの委員長と言われている女子生徒だ。彼女は直視できないのか俯きがちな顔でもはっきりとした口調で伝えている。狼狽えているのは見てわかるが、その行動に恵は内心拍手を送る。


 いいぞ、もっと言って!私はその方がうれしいから。


 自分勝手ではあるが、恵はか弱い女子を全力で応援する。


「初めまして。私は桜井瑛斗と申します。席のことでしたら昨日まで座っていた方と交渉をした末に快く許可をいただいておりますから問題ないかと思います。」

「はい!僕が譲りました!!」


 脅されているの??何か弱みを握られているの?


 恵はそう思ってしまう。

 なぜなら、瑛斗の視線が前に座っていた男子生徒のほうへ向けられた瞬間、彼は直立不動で今にも敬礼までしそうな勢いで肯定するからだ。絶対的な権力者に対しては逆らわないのに限る。彼の態度はまさに戦時中の歩兵のような態度だ。

 それを見た委員長は一応納得した様子で頷く。


「ま、まあ、それなら良いのですが。そういえば、鳴海先生からあなたの校内案内するように頼まれたのです。昼食は購買ですか?それとも持参ですか?」

「持参です。恵さんと食べるのでどうぞお気遣いなく。それと、せっかくのお申し出はありがたいのですが、その案内は恵さんにしていただくのでそちらも気にしないでいただきたい。」


 その瞬間、静まった室内だったが、急に悲鳴がとどろく。いや、これは悲鳴というより2人の関係に興味深々という黄色がついているだろう声だ。


 人前で”恵さん”呼びを訂正するのを忘れていた。


 恵は他人事と思って弁当を開けた瞬間だったので、彼の発言で失念していた自分の落ち度に愕然とし、弁当箱の蓋を落としてしまう。


「恵さん、落ちましたよ。蓋でよかったですね。」

「ありがとうございます。桜井さん。」


 いかにもわざとらしく、彼は蓋を拾って再度恵の呼称を強調している。それが嫌味に見えても恵は何とかこらえるのだ。


「校内案内よろしくお願いします。」

「今日は放課後試験がありますから、ここは彼女にお願いした方がいいです。私は準備がありますから。」

「そう悲しいことを言わないでください。では、試験の後というのはいかがですか?」


 あくまで恵に校内案内をさせる気なのか、簡単には引き下がらない様子だ。

 そのうえ、先ほどまで彼の前に立っていたはずの委員長はすでに少し離れたグループの中に溶け込んでしまっており、彼女をその集団が慰めている様子。そして、その集団からの熱い視線が痛くて恵は首を軽くひねる。


「わかりました。下校時間の少し前に案内しましょう。」

「ありがとうございます。」


 勝ち誇った笑みを浮かべる瑛斗をその場で殴り飛ばさなかった恵は自分を褒めることで何とか怒りを抑える。

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