17話
リビングで一脚だけある椅子と向かいに置かれているのは外にあったビーチ用の椅子だ。それがあるのは違和感があるのだが、恵も瑛斗も気にせず、瑛斗が違和感のある方に当然のように腰かける。
「恵さんはこの世に人ではない人のようでありながらそうではないものがいることはご存じでしょうか?」
「少し前に人の顔をしたクモなら会いました。手をたくさん操っていましたね。」
「そういうものです。彼らは人の憎悪から生まれると言われていますが、実際のところ良く分かっていません。その中には神ともいわれる存在もおり、その神と呼ばれる存在は人から恐れられていることもありとても強いです。あなたがお会いしたクモはその神の守りでしょう。クモは神の使いとしてよく挙げられます。」
「なるほど。あのクモさんは準ボスみたいなものですね。」
「いえ、神の使いの中でも蜥蜴のしっぽ切りでしょうから、そこまでのランクではないと思います。」
クモの重要性で、おお、と感動していた恵を見て瑛斗は苦笑してその感動を打ち消す。こちらを上げといて急に下げられたようで恵は頬を膨らましそうになるも、それは出さずに続けてもらう。
「そして、今日襲ってきた彼らですが、彼らはすでに命がございませんでした。つまり、彼らの遺体に術を施したものがいるのです。ここでポイントになるのは、これは傀儡術というのですが、私が先ほど使用した青い炎と同じで異能と呼ばれています。つまり、彼らを操っていたのは人の力です。」
「まさか。人ではないものの説明をしておいて、先ほどのは人がやったことだというんですか?」
「そうです。背後に人ならざるものがいるかもしれませんが、実行したのは人でしょう。」
瑛斗の見解に恵は呆然とする。
事件の話を耳にすることはあるが、それはあくまでも彼女にとって二次元の話でしかない。こんな現実でしかも当事者になるなど予想できる範囲にない。
そして、彼の話を聞いて恵は1つの仮設にたどり着き冷や汗をかく。
「犯人が人だとして、彼らが私の同級生だと知っているならその実行犯の狙いは、私、ですね?そうなんですね?」
その仮説を口にした途中で瑛斗が苦しげな顔をした瞬間を見逃さない恵は確認に変わってしまい乾いた笑いが出る。
「私が誰かに恨まれているということですか?」
「それがすべてではありません。実際、彼らはドアを壊すことに刃物を使用していたのに対して、あなたには決して刃物ではなく自分の牙を当てようとしてきました。」
「確かに、それはそうですよね。彼らがもし刃物で襲い掛かって来ていたら、私は一発であの世行きです。」
混乱の中、瑛斗の言葉に恵は同級生が襲い掛かって来た場面を思い出す。
「彼らの牙には体の自由を奪う毒が塗られていたことが先ほどの警察によってわかりました。もしかしたら、あなたを捕まえることが狙いだったかもしれません。」
「ええ、捕まえてなぶり殺しですか?それも嫌ですね。」
「いえ、そうではなく。」
瑛斗は何か続けようとしたところで口を閉じて首を横に振る。
「いえ、今は止めておきましょう。とりあえず、今後あなたの警護はより強化しなければなりません。」
「いや、いいですよ。そういえば、人だけでなく人ではない人も私を狙っているんですよね。なんか”恨み”とか言っていましたから。クモが。」
「そうですか。」
「あと、私に恨みを持つ人と言えば、母と名乗った女性とその人の娘らしいあまり似ていない親子がいます。」
「それは関係ないでしょう。」
「そうですか?母と名乗った女性は狐を出していましたけど。静電気の。」
「はい、彼らが関係ないことは断言できます。」
瑛斗は力強く言い切る。その言い切りには何か含むところがあるように感じられて恵はこれ以上足を踏み入れまいと質問を止める。
「ところで、今日は学校を休んだんですね。」
「はい、行く気にならなかったので。どうしてですか?」
彼が休んだことを知っていることを不思議に思い恵が尋ねると、彼は固定電話のほうを見るので、彼女もつられてそちらに目を向ける。
「担任から連絡がありました。鳴海と名乗っていました。」
「そうなんですね。何か言っていましたか?」
「なんでも他に休みの生徒もいるから、再試験を特別にするということで日程は最終試験日の翌日の放課後だそうです。」
粗野な印象ではあったが、細かい気配りができる教師だと知り驚きつつも、意外と試験を詰めてくるあたりが、彼の性格の悪さをうかがえる。そして、瑛斗の口から告げられた鳴海の伝言により、あの同級生たちがすでにいないのだと実感もさせられる。
「わかりました。ありがとうございます。」
「そうですか。では、今後のことをお話させてください。」
避けたくて話題を変えたはずの恵の思惑通りにはいかず、瑛斗はそのあとしっかりと今後の恵の警護について提案するのだ。
結果として、瑛斗が学校の間も傍にいることを了承させられた恵なのだが、最後まで彼がどうやって傍にいるのかは知らされなかった。
この時、何としてでも聞き出しておけばよかったと。
恵は後悔することになる。




