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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人形を愛する傀儡術師
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15話

 瑛斗は恵に受け入れられたことを確認した瞬間、ニヤリと笑って何かを唱えると、彼を中心にして周囲を囲むように5つの点、ちょうどすべての点を結ぶと星の形が現れるように、に青い炎が出てくる。

 その炎はどんどん大きくなり、やがて犬型になっていく。犬というより顔を見れば狼に近いかもしれない。白くて体長は恵よりも大きいだろう。


「許可は出た。行け!」


 瑛斗の指示に彼らは従うようにすでに人の原型もとどめていないほどに変化した同級生たちに一斉に襲い掛かる。


「いや、ちょっ。」


 このままいけば、あのよくわからない白い狼たちが同級生たちを食べてしまいそうで、慌てて止めようと手を伸ばしたものの、それより先に動いていた彼らのほうが行動は目的達成は早いことは目に見えている。

 途中で伸ばした手を引っ込めて青い炎に焼かれ悲鳴を上げる彼らの声をただ茫然と聞いている。


「ギャー。」

「うぉ。」

「あー。」


 もはやその悲鳴さえも太くて人があげる声とは全く別の何かだろう。本当にホラーで流れそうな人とは違うものが出しているような声だ。

 あの映像から流れてくる声も声優という人から出てくる声であることは間違いないので、彼らが演技で出したと言われても信じられないことはないが、それはこの光景を見ていなかったらの話だろう。

 青い炎は同級生たちを囲むまでに大きくなる光景を見ながら恵の頭の中は画面を通してみる映像のことを考えてしまう。それほどに、目の前の光景は彼女には受け入れがたいものだからだ。

 足から崩れて座り込んでいる恵に変わらない笑みを浮かべて瑛斗が手を差し伸べる。この状況に似合わない顔をする彼の手を彼女はどうしても取る気にならず、彼のほうをじっと見る。


「桜井さん、あなたは何をして。」

「もちろん、彼らを元に戻しているんです。」

「これは元に戻すとは言いません。彼らの命を奪っているのではないですか?」

「彼らはここに来た時にはすでに手遅れでした。」

「・・・何を言って。」


 恵が言葉を続けようとしたところで、青い炎が消え始める。

 そちらに2人とも目を向けると、すでに人の体はピクリとも動かないどころか白骨になっている。どれが誰の体か判断がつかない状態だ。

 それを見た瑛斗はスマホを取り出して電話を掛ける。


「掛川さん?桜井です。白骨を引き取りに来てください。」

『はあ?なんだって?」

「住所・・・。」


 受話器の向こうから苛立ちを隠さない面倒そうな声が聞こえるが、それをスルーした瑛斗は住所を伝えてすぐに通話を切る。


「恵さん、今から行けば間に合います。」


 そんなことどうでもいいでしょう!

 

 恵は内心そう叫びそうになったのだが、心と体のバランスが取れていないので、体がその気持ちについてきていない。

 時間を指して平然と言う目の前の男性を恵は信じられない。

 ついさっき、人の命を奪っておいて全く動揺せずに、それどころか普通の会話を続けるのだ。そんな正常ではない人の言うことを信じられるわけがない。


「困りました。あなたを学校まで送り届けることが私の今回の使用期間延長を決めるミッションなのに。それが達成できません。」

「そんなこと良いです。」

「それはここまでで延長は叶うということでしょうか?」


 彼の表情には明らかに喜びが出ている。

 恵はそんな彼に向かって睨みつけ立ち上がった勢いで彼の胸倉を掴む。


「そんなわけないでしょうが!!あんたみたいな人でなしがお似合いの人と同じ家に住めるわけないでしょう。人の命を、人生を奪っておいてそんな風に笑えるなんておかしいわ!ここを片づけたら即効出て行って。」


 恵は気持ちをそのまま叫んで全速力で家を出る。

 時間なんて見ていなくて、走ったところでおそらく試験には間に合わないだろうが、あんな家から1秒でも早く離れたい一心だったのだ。


「あんな人がいる家なんて帰れない!!」


 震える手を握ってどうにか力を振り絞っている。

 立っていられる力を。手から伝わる痛みを変えて。

 そうでもしないと、恵はその場で崩れてしまいそうだったから。


 人の顔をしたクモに出会ったことはあっても、知人があんなふうに人とは思えない様相になって敵意を持って襲ってきたり、その人たちが一瞬で天に召されていく様を見ることは恵にとって初めての経験だ。

 それは、恵にとって幼少の頃に受けた家族と思っていた女性から拒絶された時の心の痛みよりも何倍も大きな傷になって心と頭に残っている。


「痛い、痛い。」


 けがなど1つもないのに、痛くて仕方ない胸を押さえて何とかやり過ごそうとするのだ。

 あまりの痛みで通学途中にある駅ビルのトイレの中に駆け込んだのだが、そこから出られたのはちょうど12時の知らせが店内放送で知らせられる時間帯だった。

 すでに試験は終わっている時間ではあるものの、恵にとってそれはもう頭にない。異常な男、桜井が家から出ていく時間を考えてどれくらいの暇をつぶすべきかしか、今の彼女は考えられないのだ。

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