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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人形を愛する傀儡術師
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12話

 リビングとダイニングが一緒になっており、その部屋にある小さなテーブルと椅子がある。その椅子はかつて住んでいた女性のみが使用しており、恵はいつも2階の部屋に押し込められていたので、向かい合って話すスペースはない。

 訪問者が今までいなかったのが幸いで、必要性もなく彼女が出て行ったあとも家具の追加や買い替えなど考えたことがなかったので、突然、滞在する男性が出てきて慌てて恵は一脚ある椅子に案内する。

 アイスは即座に冷凍庫にしまった恵は一安心して、彼にお茶を持っていく。食器も一通り1組ずつしかないが、幸運にもグラスは1つ置いて行ったのでそれを使う。持ち手の長いワイングラスで見た目と中身のギャップがすさまじい。

 しかし、そこは美男子イケメンパワーなのか、男性が持つとそんなものでも映画のワンシーンのように様になってしまう。

 それが恵にはどこか悔しかった。


「早速だけど契約書を書きませんか?」


 恵はルーズリーフとペンをテーブルに置く。椅子は1脚しかないので恵は立っており、男性を見下ろす形になる。

 彼はスッと立ち上がり、恵に椅子を勧める。


「どうぞ。私は今後仕える身ですので、主を立たせたままにするわけにはまいりません。こちらに座ってください。」

「いいえ、そんなこと気にしないでください。それより、さっさと契約書を作りましょう。お腹も空いています。」

「それはいけません。それなら昼食後にしてはいかがですか?」

「いや、面倒ごとは最初に片づけたい主義ですから、お構いなく。」


 恵と男性との会話の末、話が進まないことにヤキモキした恵が折れて座ることになる。彼女はルーズリーフの一番上に大きく”契約書”と記載する。


「じゃあ、まず1つ目はお互いにプライベートは干渉しないこと。あなたはここに留まってくれて構いません。日曜日まで。その間、あなたは私の指摘事項に一切干渉しないこと。」

「具体的には?」

「そうですね。私に関わっていいのはこの部屋でのみです。他は無視で結構です。その代わり、私もあなたには関わりません。ここに滞在中はあなたはどこか1部屋使用して問題ないです。私の部屋は2階の物置スペースですからそれ以外でお願いします。部屋数は結構ありますから特に問題ないと思います。ただ、余っている部屋の中には、以前住んでいた女性が使用していた部屋がそのまま残されていますから、そのあたりは好きにしてください。私は通常自分の使用しているスペースしか掃除しませんので、汚いかと思います。」

「わかりました。ただ、それだと私のいる意味がないと思います。」

「不満なら今すぐに出て行ってください。何度も言いますが、私は別にあなたもあなたに命令した人も必要としておりません。」


 完全なる拒絶を恵が示せば、不服をあらわにしつつも男性は頷く。


「では、2つ目は敬称もそのかしこまった口調も結構です。自然体で過ごしてください。年上にそんな風に話されると家の中で肩が凝ります。」

「わかりました。ただ、口調は誰に対してもこんな感じで癖ですから考慮してください。恵様、ではなく、恵さんとお呼びします。」

「”さん”も違和感が大きいです。西寺と苗字で呼び捨てが最も呼びなれているのですけど。」

「それはご勘弁を。」


 恵が苗字呼びを提案すると、明らかに男性は嫌な顔をする。苗字は嫌悪を抱く対象のようなので、そこは恵が手を打つ。


「私からは以上です。そういえば、あなたの名前を知りませんでした。」

「これは失礼しました。桜井瑛斗さくらいあきとと申します。」

「桜井さんですね。あなたからの要望はありますか?」

「では、この部屋の一切は私が担っても良いでしょうか?ここでしか、あなたの役に立てることを示すことができないようですので。」

「まあ、いいですけど。私は食事とトイレと風呂以外は自室にいますから困ったことがあれば呼んでください。ただ、全室防音完備なので、呼ぶときはノックをしてください。」

「はい、かしこまりました。」


 瑛斗は恭しくこうべを垂れる。

 その所作は美しく思わず見入ってしまった恵だが、それをされる自分を傍から見た時を想像すると吐き気がする。


 似合ってないな。壊滅的に。


 恵はそんな感想を抱くのだった。


「では、桜井さん、今日から2日よろしくお願いします。」


 恵は気を取り直して手を差し出すと、それを瑛斗は少し迷いながら恐る恐るといったようにゆっくりと取る。


「はい、こちらこそよろしくお願いします。恵さん。」


 こうして、恵にとって初めての共同生活が始まる。


「あれ?これって異性と同じ屋根の下ってやつ?バレたらまずい???」


 ベッドに入って状況を整理して初めて恵は重要なことに気づく。

 ・・・のだが、短期間であるためそんな懸念はなかったことにしたのだ。

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