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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
はた迷惑な恋物語
113/164

113話

 柊の様子がおかしくなったのはそれからすぐのことだが、恵は気づかないふりをする。よくないことなのは目に見えているからだ。しかし、放置するのも恵にはできず、奏の部屋を訪ねることにする。

 夕食時にあらかじめ行くことは伝えておいたので、彼の部屋のドアをノックするとすぐに対応してくれてすぐに入るように促してくれる。恵の部屋と雰囲気は似ているが、広さは恵が使用している部屋の倍ぐらいはあるだろう。そして、ここは恵が過ごす別棟ではなく、本家の家族が住む屋敷なのでもともとの広さが段違いだ。彼が使っている部屋は二つにふすまで分かれており、一つは彼のプライベート空間、もう一つは長方形の木のテーブルが置かれて四つの椅子とセットになっている。

 彼は恵を椅子の一つに座らせて、自身は向かいに座る。それと同時に、お茶も配られて、給仕をする柊のような黒服を着た男性がそのまま部屋から出ていく。


「恵さんが言いたいのは柊のこと?」


 と、奏が急に本題を話す。

 それに驚いたものの恵は助かった部分がある。

 やはり、この当主の間がある棟には長くは居られない。


「そうなんです。様子がおかしいのでしばらくは私の付き人を外したいんです。」

「当主であるおじい様に言った方が早いと思うけど、どうして僕に言うの?」

「そ、それは相談しやすいから?」


 恵はいま思いついた理由で最後が疑問符を浮かべてしまう。わざとではなく、そんな理由を問われると考えていなかったのだ。


「恵さん、別に話しにくいならいいんだけど、そんな風に無理をして言わなくてもいいんだ。ただ、本心を隠してほしくないだけ。話すことができないなら沈黙してくれればいいんだよ。」


 1カ月ほどしか誕生日が変わらない腹違いの弟にそんな風に言われて、恵はなんとなく情けなさを感じる。同い年の男子に子供のように扱われているのと同じだ。


「ごめんなさい。奏さん。実は、柊さんがあんな風になってしまった原因の一端は私にあるんです。実は、彼女はいまとある病気に侵されているんです。」

「え?病気?それは早く医者に見せないと。」


 彼が立ち上がりそうになったので、恵が彼の手を掴んで止める。


「いいえ、医者では絶対に治りません。だって、彼女が患っているのは”恋の病”なんです。」

「ええ?」


 恵の断言に奏は素っ頓狂な声を上げる。混乱して恵を見る奏に彼女は大きく頷く。


「それで、私の付き人と外せられれば、柊さんも時間ができますし、そうすれば、今はちょっと変になっている柊さんも落ち着いてくると思うんです。」

「・・・・恵さんの話は分かった。ところで、なんで・・その、柊のそれと恵さんが結びつくの?」


 どことなく奏は言いづらそうにする。冷静でどこか大人びている彼も思春期真っ只中の男子であることに恵は安堵する。


「それは、彼女の相手が私の担任で、私が彼らを出会わせるようなことをしてしまったからです。」

「担任と迎えの付き人がなんで?恵さんはいつも外に車で迎えに来てもらっていたよね?学校は終日瑛斗さんが見ているから問題ないと思うけど。」

「あー。うん。」


 恵は奏から痛いところをつかれてしまい、視線を揺らす。動揺は簡単に奏に伝わってしまうが、彼は先ほど恵に言ったことを守るようで笑って流す。


「そこは深く聞かないよ。恵さんには目的があって柊に頼んだのだろうから。」

「ありがとうございます。ただ、これだけは言わせてください。あれは不可抗力でした。私は担任と柊さんが昔の知り合いなんて知らなかったんです。」

「それ、無罪を訴える人の訴え文句。」

「確かに。」


 恵は奏に言われて納得する。それと同時に、彼らは笑ってしまう。


「話は分かったよ。じゃあ、おじい様と相談しよう。付き人の件もあるから。」

「奏さん、私に付き人って必要ですか?」

「そこは当主の判断だよ。僕は恵さんがこの家からほとんど出ないならつけなくてもいいと思っている。瑛斗さんだけで事足りるから。でも、頻繁にあの夜のように遊びに出かけるなら居た方がいい。瑛斗さんがいつでも対応できるかと言われればわからないから。」

「そうですか。」


 恵は奏の説得に失敗するどころか、逆に納得させられてしまう。


――もうすぐ、出ていく身の上なんだけど。


 恵が高校を卒業するまで残り半分になりつつある。

 2年後の春にはもう、この家にはいないだろう。それなのに、恵の周囲に人を置いて万が一のことがあれば、彼らに罪悪感しかない。恵は2年後に備えてそんな遺恨は残したくないから断っていたが、自分に何かあった方が大ごとのようだ。

 何もできなくはないらしい恵の操作不可能の力を周囲が重要視しているので彼女には何もできない。実際に、少しだけ操作はできるのだが、感情を思うままに形にしてしまう暴走になると、彼女は無意識に力を発揮してしまう。それを失くすために一番いいのは深く関わる人を極力減らすことだ。

 それに気づいたとき、恵は瑛斗が最初に発した言葉に納得する。

 ―――”しもべ”や”番犬”は彼の本意であったのかもしれないが、恵に対する気遣いの表れだったんじゃないのだろうか。


 柊に対しては、恵はあまり感情を動かされないように、あとに何かの感情を柊が持たないように接することを当主の間に行く間に決意する。

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