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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
はた迷惑な恋物語
112/164

112話

 恵は瑛斗と目を合わせているが一言も話さない。驚愕な状況でいまだに現状が呑み込めないが、むせなくなり体には異常がない。


「恵さんはやっぱりトラブルに首を突っ込むことが好きなんですね。」


 彼は呆れている。それも、明らかに。

 恵は違うと声を大にして言いたいのだが、ここで目立つのはもはや破滅の一途をたどることになるので、声を潜めることにする。


「私は突っ込んでいるのではなく、巻き込まれているんですよ。」

「それはどうでしょうか?」


 恵の言葉を彼ははっきりとは否定しないが、その表情と言葉はそれに近い。彼女はため息を吐きながらも、どうやって鳴海教師と柊に悟られずに出ていくかを検討する。なんといっても、まだまだお腹が満たされていないので、それを満たすまでは恵は帰れないことが問題だ。家での夕飯を断った以上、ここでお腹を満腹とまではいかなくても、8分目までにしなければならない。


「恵さん、何をそんなに考えこんでいるんですか?」


 と、瑛斗の声がかかる。恵は飲み物のグラスを持ったまま時間が経っているようで、彼はじっと彼女を見ている。


「逃走プランを。」

「なぜ?あなたはいま制服ではないんですから問題ないでしょう。」

「いや、学生なんてばれたらまずいです。一般的に。」

「ここが未成年者禁止とは認識しているんですね。」

「もちろんですよ。」


 恵が大きく頷けば、彼は嬉しそうに笑みを浮かべる。


「それなのに、あなたはここに来ているんですね。」


 安堵したのは一瞬で、瑛斗からブーメランがやってくる。恵はそれに口もとが痙攣しているように感じるが、彼女の頭の中はそれどころではない。言い訳を探していたが、何を言っても彼には勝てないことが目に見えている。


「ごめんなさい。」

「はい。やっぱり、今後は家のシェフに作ってもらいましょう。彼らだってあなたの気持ちを汲んでくれますから。」

「はい。」


 恵はおとなしく聞く。今後のことを考えると彼の協力が必須だったということもあるからだ。


「それで、話がそれましたが、恵さんは一体何に悩んでいるんですか?」

「あの、先ほどの来客からの逃げ方について。」

「ああ、あの方たちは長いでしょうからあなたはゆっくりで良いですよ。」

「へ?」


 瑛斗が訳知りのような顔で断言するので恵は驚いて素っ頓狂な声が出る。彼女の反応が面白かったのか、彼はフフッと笑って肩を震わせている。


「柊はお酒が入ると長いんですよ。だから、ゆっくり食べても大丈夫です。あの鳴海教師がどこまで我慢できるかわかりませんが、周囲から聞いたら、柊は我慢が強ければ長く、我慢できない人だと無理やり彼女を引きずるのでとても早いようです。2時間以上の差があるみたいですね。鳴海教師は面倒見がよさそうですから前者ではないですか?」


 と、瑛斗は誰からか仕入れてきた情報を話す。彼の話はとても面白いのだが、その情報と普段見ている柊のイメージがかけ離れていてにわかには信じられない。恵は疑いのまなざしを向けると、瑛斗は苦笑する。


「まあ、疑う気持ちもわかりますよ。私も疑っていましたから。でも、1回だけ誘われて人数がいた飲み会に来た時に、佐久良家の催しの1つだったのですが、そこで彼女が長い間色んな人に絡んだのを見ていました。」

「へえ。」

 

 恵は相槌をうつ。

 恵は実際に見たという彼の言葉を全て信じることができないが、嘘を言っているようにも思えない。彼女が佐久良家に来て1年は経たないがそれに近い期間を過ごしていて、多く催しがあることを知っている。もちろん、彼女は強制ではないので全ての催しに不参加なのだが、そのほとんどでお酒の席が多くあるのは認識している。だから、李家次期当主の白鳳の側近だった彼がそれに参加していてもおかしくはないだろう。ただ、柊はまだ24歳なので4年前ぐらいの催しということになる。


――帰ったら奏にでも聞いてみようかな。


 恵は何となく気が抜けて今後のことを考えられるようになる。


「柊がお酒を飲めばの話ですので、正確には言えないですけど。」


 と、瑛斗が補足する。

 その言葉に恵は一度下がった不安指数が一気に上昇する。


「ええっと、じゃあ、どうすれば?」

「ここは臨機応変に対応ですね。幸い、席は1階と2階で離れていますし、彼らが下りてくれば馴染みのようなので、おかみさんが見送りしますよ。」

「そういえば、そうですね。」


 恵は頷きながら、思いっきり楽しむことにする。

 食べたいメニューを次から次へと頼みつつ、出入り口の方を気にしながらも、運ばれてくる料理に舌鼓をうつ。


「うん、おいしい。」


 恵はにっこりと笑いが出る。それを瑛斗はほほえましそうに見ている。子供っぽいと思われているようだが、恵は気にしないことにする。


「恵さんは揚げ物はあまり好きではないですね。」

「気持ち悪くなりますから。」


 恵の言葉には共感できないようで瑛斗はただ相槌をうつだけだ。

 恵は昔から揚げ物は極力食べないようにしている。どうしても食べたくなる時はあるのだが、それ以外は本当に口にしない。理由は小さい時に揚げ物を毎日のように食べて気分が悪くなったからだ。今にして思えば、2週間前のものを食べたので腐っていた可能性もあるが、それから、揚げ物を見るたびにそれを思い出してため息を吐く。


「あなた、実君が連れてきた女性はすごく飲むわ。」

「そうなのか。まあ、実君は”ざる”だからちょうどいいんじゃないか。」

「その女性は結構酔っているみたいで実君の肩にべったりなの。もう、それを見てキュンキュンしちゃって。」

「そうか。やっと実君も落ち着くのか。あの人もきっと嬉しいだろうな。」

「そうね。全く、実君も御影君もいい男なのに、仕事人間であの人たちは気が気ではなかったものね。」

「うん、全くだ。御影君は見合いかな。あの人と同じ道を歩んでいるんだろう?」

「そうね。でも、あの人は見合いをさせないかもしれないわ。あの人は恋愛結婚ですし。」

「そうだった。」


 少しだけ過去を振り返っていた恵の耳にそんな会話が聞こえてくる。そこには、居酒屋の大将とおかみがいて、2人は嬉しそうにして声を押えて話している。

 彼らと鳴海教師の仲は良いことはうかがえていたが、まさか、家族ぐるみで仲が良いなんて恵は想像もしていない。そして、2人の会話から柊が飲酒していることはほぼ確実になり、恵の中で不安は少し払拭される。恵はおもむろに瑛斗の方を見ると、彼は表情を崩さない。こういう場にいることは慣れているのだろう。どんな場面でも表情を崩さない彼の心臓は恵とは違う特別性だ。


―――半分悪魔だから特別性か。


 恵は瑛斗の出自を思い出して納得する。

 料理を思いっ切り堪能した恵はお腹をさすってつい笑みがこぼれてしまう。


「おいしかった。」


 恵は瑛斗とともに出入り口に例の人物たちがいないことを確認してからお会計を済ませて店から出る。扉をくぐった瞬間、恵は安堵したのだが、その扉が閉まるときにちょうど階段から誰かが下りてくる音がする。


「あら。実君、大丈夫?」


 その声が扉が閉まる際に聞こえて恵は目を丸くしながらも、慌てて瑛斗と一緒に駅方面に走る。

 駅までは何とか無事にたどり着き何もなかったようにして、家に向かう。

 ドキドキハラハラが止まらない数時間の出来事に恵は汗を拭って息を吐く。


―――こんな急展開が多い物語、私の人生には要らない。


 恵は明日柊にも普通に接するように決意しながらも、久しぶりに食べた懐かしい味たちが口の中に残っている気がしていい気分だ。

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