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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
人形を愛する傀儡術師
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11話

 スーツで高身長、頭もよさそうなモテ男を絵に描いたような男性が試験日の朝に恵に対して


『あなたの番犬で”しもべ”です。』


 と言い切ったのだが、早朝であり彼女は面倒ごとを後回しにして無かったことにしようと考え、気持ち悪さからも逃避するためにそこから全速力で逃げた。

 しかし、強烈な一言だったために彼女の頭にはしっかりとこびりついてしまったために、恵は目の前の問題に集中できなかった結果、自分の解答を覚えておらずいつも行っている自己採点なんてできるはずもない。

 周囲が

「難しかったね。」

「赤点かも。」

「さすが、県内一の進学校。問題難しすぎ。」

 とため息を吐いている中、恵の頭はそんな言葉を聞いていられないほどに混乱状態にある。

「西寺、テストできなかったのか?」

 そんな中、いつもの様子と違うことを察したのか鳴海教師が彼女に声をかけてくる。その声に現実に引き戻された恵はパッと顔を上げる。

「いえ、テストは大丈夫です。」


 いや、何が大丈夫?


 心の中で突っ込んではいたもののそれを恵は顔に出さない。ここで、何かを言えば話が長くなるからだ。帰宅時間が遅くなれば厄介ごとを先延ばしにしてしまい、この混乱が長引くことにつながり、結果として恵にとっては不利益なので帰宅を優先する。


「そうか。お前なら心配はいらなかったな。」

「先生、そんなやつより俺らの心配してくれよ。」

「そうよ。無表情よりも私らのほうが可愛げあるでしょう。」

「わかったよ。」


 苦笑いで返す鳴海教師に助け舟?を出したのは例の騒ぐことが好きなグループだ。彼らの声に呆れつつも嬉しそうに対応する鳴海教師は恵に軽く謝った後にそちらに向かう。恵は解放されたのでそそくさと鞄を持って学校を出る。


 買い物のためにスーパーによって時間を稼ぐことで、例の変な人、冬夜が諦めて帰っていることを祈ったのだが、その願いは神様に届かなかったようだ。

 帰宅すると、自宅の前に朝と同じく柵に背を預けている彼の姿がある。容姿が整っているせいで、近所の人だと思われる色んな年代の通行者が彼を振り向き、あまつさえ声をかけている人までいる。そのまま誰でもいいから連れて行ってくれないかと、期待していた恵だが、彼は完全無視をしている。

 袋の中にアイスがあるので、それと天秤にかけて自宅のほうに向かうことにすると、当然恵に気づいた彼は人をかき分けてこちらに向かってくる。


「お帰りなさい、恵様。」


 恵、様??


 呼びなれない敬称と恭しい態度に戸惑い、彼の背後から、つまり恵にとっては真正面から好奇と羨望の視線が突き刺さる。


「あの、それどうにかなりませんか?そんな風にされると目立ちます。あ、いや、あなたの存在そのものが目立ちますので、私としては早くここから立ち去ってほしいのですが。」

「それは無理な相談です。」


 恵の希望はバッサリとその男性によって切られる。


「私はあなたの”僕”なんですから好きなようにお使いください。ですが、あなたの元から去るというのは無理難題です。」

「どうせあれでしょう?佐久良家の命令なんですよね?あの人たちと関わる気はないと言ったはずなんですけど。」

「いいえ、私がお仕えしているのは佐久良家ではございません。」

「え?でも、昨日。」

「はい、昨日は佐久良家と一緒におりましたが、彼らとは確かに遠い親戚筋になります。しかし、私の主は別にいるのです。」

「なるほど。」


 面倒ですね。


 男性の説明に恵はそんな感想を抱き億劫が全面に出てしまう。

 それを察してか、男性は苦笑するのだが、退いてはくれないようだ。


「では、その主という人に拒否の連絡をしたので番号を教えてください。」

 

 恵は彼では埒が明かないと早々に判断し、彼の背後にいる人間にコンタクトを取ることを提案すると、男性は一瞬驚いた顔をしてニコリとほほ笑む。

 その笑みを見た瞬間、恵はホッコリするどころか背筋が寒くなり固まる。


「それほどまでにお嫌ですか?」

「もちろんです。」

「困りましたね。」

「いや、私のほうが十分迷惑をこうむって困っているんですが。」


 特に現状にね!!


 男性を通ってやって来る恵への視線は衰えるどころかだんだん力を増すばかりだ。野次馬根性は誰にでもあるのだろう。本日が高校は試験日、中学校も試験日だったようで、去年まで恵が着ていた制服がチラホラ集団の中に混じっている。


 本当に厄日だよ。


 心の中は大洪水を起こしている。

 一方で前の男性はそんなビームにも気づかず、いや、気づいているが日常茶飯事で慣れているのかもしれないが、この場をさっさと解決しようとは思わないようだ。


「妥協案なのですが、お試しで数日私をあなたの家に置いていただけませんか?使いっぱしりとして。」

「は?」


 数分思案しただろう彼の結論を聞いた恵は驚愕する。

 ”妥協案”、それはお互いの利害が一致して両方にそれらが同等に配分されるように調整された意見のことだろう。一般的には。

 ここで彼からの妥協案に、1ミリも恵にとっての利益がないのだ。それに驚愕して固まる恵を彼はじっと見て返答を見る。

 ここで、恵も少し考える。


 まず、恵にとって今一番はアイスが溶けることを避けることであり、次に彼には早々に帰宅してほしい。それらを2つ叶えるには彼からの案を受けて適当に理由をつけて追い出す方が、この真正面からのビームも避けられることに気づく。


「わかりました。ただ、2日、つまり、この週末の2日間を期間とさせてください。一応、勝手ながら契約書のようなものも用意させていただきます。」

「ずいぶん短いですね。」

「それぐらいに速い結果が出ないなら私には必要ありません。」

「わかりました。」


 自分が何様だ、というのと、不満げな言葉をつぶやく男性に当たり前だ、という感情が入り混じるが、最終的には男性は頷き、2人は恵の自宅に入る。

 アイスは気温がいつもより少し低かったこともあり、無傷であったことに自分が描いた目的1つ達成できてホッとする恵である。

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