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捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
はた迷惑な恋物語
109/164

109話

 三者面談に臨むため、恵は珍しくトイレに行き自分の姿を確認する。家にいるときでも、目を隠すほどの前髪は変わらないが、家の中より俯きで少し猫背にしている。柊にそんなことは伝えていないので、彼女がどんな反応をするのかわからず、恵は少しだけ緊張している。ただ、その猫背も俯きも二年目になる鳴海教師の前では崩れてしまうのだが。


 三者面談は放課後であり、なんと瑛斗が恵の前だ。恵は学校の玄関まで柊を迎えに行くのと同時に瑛斗も同じように玄関に向かう。


「一つ気になっていたんですけど。」


 と、恵は前置きして彼を見上げる。彼もまた笑みを浮かべて恵を見ている。


「桜井さんは前回も今回も誰が保護者になっているんですか?」

 と、恵が尋ねる。

 瑛斗は学校でお金持ちの御曹司となっており、周囲の目を欺くためにも半端な人には務まらない。それに、彼の両親はいないという想定だったと恵は記憶している。

「従兄ですね。もう中年ですが、彼が父親代わりになっています。さすがに、年が近いとは思われません。私の方が10ぐらい上になりますが。」

「従兄、なんていたんですね。わざわざこの日のために来られるんですか?仕事を休んで。とってもいい人ですね。」

「そんな風に言ってもらえるなら彼も役得でしょう。下心からなので、そんな風に褒める言葉はいりませんよ。」


 感心する恵に瑛斗はニコリと笑って言う。その笑みがやっぱり悪魔の微笑みに見えるが、彼がそういうものだということを思い出して恵は納得する。


――この人、半分だけでも文字通りなんだな。


 と、恵は内心思うのだ。


「瑛斗、待たせたな。」

「恵様、お待たせしました。」


 恵と瑛斗の待ち人は同時に到着する。

 瑛斗の待ち人、従兄らしい男性は瑛斗の容姿とはかけ離れていて驚く。瑛斗は細マッチョという印象を受けるが、彼はクマのように大きな人だ。


「遺伝子の神秘。」


 恵は失言してしまう。

 それを聞いた3人は言われた当事者も含めて大笑いする。


「初めまして、姫様。私はこいつの従兄にあたる桜井幹夫さくらい みきおです。李家からの卸をしています。」

「初めまして。西寺恵です。」


 恵はペコリと頭を下げる。

 李家の分家の末端が桜井とは知っていたが、そういう業者とは知らない恵は驚く。佐久良家に入った知ったのだが、李家は言霊での鎮めが本業ではあるのだが、今はいろんなビジネスを手掛ける大きな財閥となっている。彼らがそうしているのはいつか生まれる初代の生まれ変わりを支えるためのようだ。こんな話を1年ほどの居候で小耳にはさんだ恵は内心突っ込んだことを忘れない。


―――あなたたち、進む方向間違っている!どこの貴族??


 恵は少しだけあの時のことを思い出したが、すぐにないものとして、幹夫と少しだけ世間話をしてから柊の方を見る。


「柊さん、本日はありがとうございました。今日はよろしくお願いします。」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。三者面談にはまだ早かったですか?」

「いいえ、ちょうどいい時間です。桜井さんは急がないといけませんが、私たちはゆっくりで大丈夫です。」

「かしこまりました。」


 恵は横目に瑛斗の方を見てから柊に安心してもらうために微笑む。柊はいつもと違ってパンツではなくスカートをはいて髪は一つに結ばずに肩まである長さのものを自然と流し化粧もよく見かけるキャリアウーマンのようだ。恵が心の中で思い浮かべていた理想そのものであり、これなら鳴海教師からも怪しまれずに済みそうだと確信する。瑛斗は先に幹夫とともに行き、恵は柊とゆっくり歩く。教室まで案内する過程で通る教室を見て回る。


「懐かしいですね。」

「柊さんも5年前ぐらいは通っていましたよね?」

「そうですね。もう5年も経つなんて驚きです。」


 彼女は何かをかみしめるように、そして、それをごまかすように苦笑する。


「柊さんはスクールライフとかどうでしたか?文化祭とか。」

「そうですね。修行とかあったので部活とかは入れませんでしたが、文化祭とかは見て回るだけで楽しかったですよ。当時、文化祭でステージに上った人は好きな人に告白するっていうイベントがありましたし。」

「へえ、柊さんも好きな人とかいたんですか?」

「まあ、そうですね・・・・って、私の話はどうでもいいんですよ。今は恵様の話ですから。」

「残念。もう少しで聞けそうでした。」


 恵は柊に舌を出してみた。彼女は呆れたような視線を恵に向ける。


「恵様は恋とかしないんですか?」

「え?私がそんなものをするように見えますか?この容姿で近づく男女がいたら驚きです。」

「ええ、いるじゃないですか。瑛斗さんとか。」

「え?変人はちょっと。」


 恵は柊から出た名前に即答してしまう。

 柊は頭に疑問符を浮かべている。


「恵様、以前から思っていたのですが、なぜ、それほどまでに瑛斗さんのことを変人とかおっしゃっているんですか?」

「あの人、初めて話しかけたときに何て言ったと思います?」

「いえ、普通に挨拶をしたのではないですか?」


 キョトンとして普通のことを彼女は言うのだが、あまりに的外れで恵は笑ってしまう。


「あの人、高校生の私に対して”しもべになります”なんて言ったんですよ。」


 その言葉を聞いた柊はさすがにフォローできないのか口もとがヒクヒクとしている。明らかに引いているその反応に恵は安堵する。


――よかった、自分がおかしいわけじゃない


「ええっと、それは大変でしたね。」


 やっと戻った柊の言葉に恵は噴き出してしまうのだ。


 そんなことを話している間に教室の前に来ると、瑛斗が終わったようで教室の前で鳴海教師も含めて3人で何か話をしている。恵は邪魔しないようにしていたのだが、その3人はすぐに彼女たちに気づく。


「西寺、ちょっと遅かったな。」

「すみません。30分ぐらいかかるかと思ってゆっくり来ていました。」

「こいつも色いろ問題だが、お前ほどじゃないからな。お前が一番の問題だ。だから、この後は誰も予約を入れていないんだ。」

「なるほど、それは困りました。」


 鳴海教師からの嫌味も恵は流す。いつものことだと、人間は慣れてしまいスルースキルはどんどん磨かれていくようだ。

 教室に入ろうと恵が進むのだが、隣の柊は一歩も出さない。いや、そうしないどころか、先ほどから気配を消しているのではなく、彼女は固まっている。

 恵は柊の方を見ると、彼女は一心に鳴海教師の方を見ている。


――少女漫画?


 恵は嫌な予感がしながらも彼女が教室に入らないと始まらないので、彼女の肩を手で動かしてみるが、全く反応がない。


「そっちが柊さん?」

「あ、はい。」


 全く動かない柊をどうにか動かそうとしていると、鳴海教師が尋ねてきたので恵は頷く。彼は柊の前まで来るとにっこりと笑う。


「初めまして、鳴海です。西寺の担任をしています。よろしくお願いします。」


 彼の挨拶を聞いた柊はちょっとだけ悲しそうな顔をする。


―――おおっ、やっぱり?


 恵は先ほどから柊の反応が気になって仕方ない。


「少し長丁場になるかもしれませんが、お時間は大丈夫ですか?」


 と、鳴海教師がこれ以上ないほどに丁寧に訪ねる。柊はやっと正気に戻り何度も首振り人形のように上下に首を振る。そうかと思えば、次に大げさなほどに深いお辞儀をする。


「よろしくお願いします。実《《君》》。」


 柊はあまり大きな声は出さないのだが、声を張っている。

 そんな風に言うのも珍しいが、彼女は鳴海教師を知っているようだ。


「どういうこと?」


 恵は首をかしげて鳴海教師の方を見れば、彼は驚いた顔をする。


「もしかして、柊さんところの子か?凛子っていう名前だったか。」

「うん、そうだよ。」


 鳴海教師が覚えていたことを知った柊の目が一気に輝きを増す。ただ、2人の間の温度差に恵は頭を抱える。


――これって、ハッピーエンド?それとも、バッドエンド?やっぱり少女漫画だったんだ。私、苦手分野なんだけど。


 恵は今後の成り行きをきにしつつも、自分のポジションが好ましくないことを意識して頭を抱える。

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