108話
柊に依頼した翌日、恵は堂々と彼女に三者面談の希望日を記載してもらった用紙を提出したのだが、なぜか昼休みに鳴海教師に呼び出される。
いつもは三者面談の用紙が未提出なのでそうなるのだが、提出しても同じ状況に恵は納得できない。
「あの、なんで、私は呼び出しを受けたんでしょうか?用紙は出しましたよ。」
「ああ、それは確かに受け取った。」
鳴海教師は重々しく頷く。恵は自分たちの認識が合っていることを確認したのはいいのだが、それでこの状況に納得できない。
「じゃあ、なんで私は呼び出されているんでしょうか?」
「それは、この場所に押してもらった印鑑がお前と違う苗字だからだ。」
彼は恵が提出した用紙をピッと出して印鑑部分を人差し指で指す。恵がそこを見ると確かに記入者が柊なので、当然印鑑も柊だ。
「通常は親が書くからここは生徒と同じ苗字になる。」
「なるほど。でも、それは私は当てはまらないってことを鳴海先生は知っているじゃないですか。」
恵が強めに言うと鳴海教師は、もちろんだ、というように頷く。
「それで、お前の親が佐久良家ということは学校関係者は知っている。その印鑑ならまだしも、見たことがない印鑑と名前を見つければ確認しなければならないだろう?前回は佐久良家の人だったはずなのに、なんで今回に限って柊なんだ?」
鳴海教師はガクッと肩を落としペコッと顔を下げる。
そこまで聞いてやっと恵は呼ばれた理由がわかる。
「なんだ、そんなことですか。」
恵は彼に微笑んで手を叩く。
「柊さんは私の家族代わりなんですよ。佐久良家の人は今回は誰一人として手が空いていないので、彼らから私のことを一任されている柊さんが今回代役になりました。大学出て1年ぐらい経った人なのでこういう場も慣れていると思います。」
「いや、そういうことを心配しているわけじゃないんだが。それじゃあ、佐久良家の人はこれを承知しているってことでいいのか?」
「もちろんですよ。あの人たちは先生のように働いていて忙しいんです。もしかしたら、先生より忙しいかもしれません。そんな人たちがたかが、最近見つかった女1人の進路なんかのために時間をさけませんよ。」
恵は鳴海教師が心配しているだろうことを先読みして答えると、彼は困ったような顔をする。
「いや、まあ、そこまでは言わなくてもいいんじゃないか。あの人たちが俺らのような一教師より忙しいのは事実だが、お前のことを蔑ろにしているわけじゃないだろう。」
「それもそうですね。私としては早く学校卒業して縁を切ってもいいとは思っていますけど。」
「なんで、またそんな風に思うんだ?」
「やっぱり一線があるからですかね。」
主に父親との
なんて恵は言えない。ここまで他人に話したのは初めてだが、それ以上は誰にも言えないだろう。会う人がだいたい佐久良家関連の人なので、なおさらこういう愚痴のような言葉を言える相手は少ない。目の前の彼もその一人だが、少しばかり距離があるし、生徒のプライバシーぐらいは教師として彼だって守ることを見越してのことだ
「まあ、とりあえずわかった。柊さんとは進路相談をしているのか?」
「特には。私の希望はなんでも聞いてくれますよ。」
「おいおい。」
恵の言葉に鳴海教師は呆れ、恵の人選の意図を察しているようだ。
「全く、お前はとんだひねくれものだな。」
「私がですか?そんなことを初めて言われました。」
「周囲が言わないだけだろう。せっかく、援助してくれるっていう大人がいるのに、子供らしく甘えられないことはひねくれだ。」
「そうなんですね。今まで、子供らしくなんて言われたことがないので、こんな17年も経って今更言われてもどう接していいかわからないんですよ。」
「そうか。」
恵の言葉に鳴海教師は同情の視線を送る。
彼なりに恵のことを心配しているのだが、いかんせん、特殊な環境すぎる彼女にかける言葉を見つけられず、結局見ていることしかできないのだ。
恵はやっと解放されて教室に戻る。
「私が甘えられたのはきっと。」
恵は開いている窓から入る風の熱気を感じて、早足で廊下を歩く。
三者面談は来週に迫る。




