表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬  作者: ハル
はた迷惑な恋物語
107/164

107話

新章開始です。

皆さんのおかげで10000PV達成できました。

ぜひ、今後も引き続き読んで楽しんでいただけたら幸いです。

 恵は机に置いた一枚の紙を眺める。

 それはA4用紙で今日クラスで鳴海教師から配られたものだ。


 修学旅行は事件によって中止になり、修学旅行積立金は一部返還になるらしく、それを元手に生徒たちは仲がいいもの同士で遊びに行くようで、周囲は盛り上がっている。恵は教室で相変わらず本を読んでいるかぼうっとしているかで過ごしている。

 ただ、修学旅行前後で恵に向けられる視線は嘲笑とか嫌悪とかいった悪意でも無視でもなく、なぜか恐れといった一歩引いた感じのものばかりだ。恵が通ると廊下の道が開いていくのでトイレへ行くのも気が引ける。


――私は別に神様でもなんでもないっていうの


 恵は内心ツッコムが、声には出さない。

 そんな彼女とは真逆に隣の席に座る瑛斗はニコニコとなんともご機嫌な笑みを浮かべている。彼においても変化があって、いつも周囲に侍っていた女子の姿が今は全くいないのだ。彼に対して女子の印象が、王子様から魔王様へと変更されたのかもしれない。相変わらず、少し距離を置いたところからの女子の視線は星のようにあるが、彼にとっては邪魔でなければ気にしないようだ。そんな彼にとって快適になった環境なので、恵にとっては望んでいないもので憂鬱になる。

 また、修学旅行の時に連れ去られた数名の生徒は京都の病院に運ばれたものの、軽傷だったので、すぐに戻ってきて学校にも登校している。ちなみに、彼らの記憶は誰かによって消去されている。恵はチラッと瑛斗の方を見てから近くに座る誘拐された生徒の一人を見る。彼らはとばっちりで同情しか抱けない。


「お前ら、さっさと座れ。今日はこれで最後なんだからな。これが終わったら明日から休みだ。」


 鳴海教師がそう言って檀上に立つ。

 そして、修学旅行の件や今後の学校行事の予定などなどの説明をしてから、プリントを一枚配る。

 恵はそれを見てすぐに固まる。


【三者面談のお知らせ】


 単語に目がいき、恵は一瞬白目になりそうなのをこらえて何とか平常を保つ。


「お前らも来年には受験だ。そして、このクラスは進学だから、三者面談をすることになる。将来のことを含めて進学先を決める話し合いだからな。お前らもそれとなく親と話しておくように。以前の面談の時には特に具体的な話はしなかったが、今回はするからな。」


 と、鳴海教師は言いながら恵の方を見ていた気がするが、彼女はそれを無視する。


「特に、前回は真面目にしなかったやつは長くなることは覚悟しておくように。」


 という声が聞こえた恵は内心引きつった声を上げる。

 恵はこのプリントでこの日は疲れが出たように立ち眩みがする。


 そうして、帰宅した恵は自室で今日配られたプリントを眺める。眺めていたって解決するものではないのだが、恵としては佐久良家の誰かに来てもらいたくはないのだ。それに、前回は秋生に参加してもらったが、あの人にまた頼むのは気が引けて誰に頼むべきか思案する。

 一応真面目に考えるだけ、恵も少しだけ成長したのだ。


 考えていて疲れたので、恵はプリントをズボンのポケットに入れて部屋を出る。少し脇に控えていた柊がスッと出てくる。


「恵様、どうされましたか?」

「少し外に行こう・・・あ!」


 恵は柊を見てピンとくる。

 大きな声を出さない彼女が叫ぶので柊は驚いて固まっている。そんな彼女に構うことなく、恵は柊の両肩に手を置いて頭を下げる。


「柊さん、一生のお願いがあります。私の保護者役として三者面談に出てください!」


 恵の言葉に柊は間があけて


「はい?」


 とだけ言う。何がなんだか呑み込めていない彼女は明らかに困惑している。ただ、恵はこれしかないという意気込みなのだ。テンションがかつてないほどに上がっている。


――これぞ、妙案って感じ


 恵はワクワクしており、三者面談というものに対して、まるで敵対する相手のように、「まっていろよ!」なんて意気込んでいる。


「恵様、申し訳ございません。全く話がついていけないのですが。」


 そこで待ったをかけたのは柊だ。

 彼女としては全く現状を把握していないままに話を勧められた形になるので、これで何かあれば彼女の責任になり、それはエリートの彼女にとってはたまったものではない。


「ああ、そうですね。説明をしていませんでした。」

「はい、そこはされていません。」


 恵は柊と一緒にダイニングに向かい、遠慮する彼女を無理やりテーブルの自分の席の向かいに座らせる。主である恵を置いて仕えている側の柊が上座になれば、遠慮するのは当たり前だろう。いかんせん、恵はそういうことには気づかない。これを周囲が見れば、何かを言われるのは柊の方だろう。だが、柊はそれを分かっていながら完全に拒否もできない。そんな中、マイペースの恵は用意してもらったお茶をすすりながら話しだす。


「柊さんにこんなお願いをするのはどうかと思ったのですが、現状、あなたにしか頼めないのです。」

「三者面談でしょうか?それでしたら、恵様のお父様にあたる次期様にお頼みすればいいかと思いますが。」

「いいえ、それはできません。」


 やんわり柊が提案すると、恵は即答で断る。

 恵がここで暮らしてからというもの、父である貴明は彼女に話しかけようかと彼女とたまに共にする食卓の席でソワソワしている。恵は聞かれたら答えるのでそれほど尻込みする必要がないのだが、彼としては恵に対する罪悪感が大きくてそういう対応になってしまう。

 それを周囲は知っているので、どうにか、二人が少しでも親子のようになれるように、柊のように案内をしようとするのだが、なかなかうまく行っていない。もう、出会ってから一年ぐらいになるというのに。


「あの人は忙しいですし、佐久良家のお世話には今なっていますが、生活以外でなる気はありません。あと、三者面談ではおそらく教師から将来について色々言われるので私が何を言っても賛同してくれる人が必要なんです。あの人たちがいたら、なんかあの教師と意気投合しそうですし。」

「あの方々は恵様のことを思っていらっしゃいますから、きっとそんなことにはならないと思いますよ。」

「柊さん、私は高校を卒業したらどこか安いアパートを借りて、在宅で仕事をしながらのんびりと生きていこうと思うんです。それをあの人たちが許してくれると思いますか?今でさえ、桜井さんとかあなたとかいろいろがっちりと固めているのに。」


 恵が苛ついたように言うと柊は困ったように微笑む。


「それは反対なさるかもしれません。私としましても、あなたを一人で暮らすことは少しばかり気が引けます。」

「やっぱり。でも、私からお願いすれば柊さんはどんなことを教師に言われても大丈夫ですよね。なんといっても、私は主人で柊さんは付き人ですし。」


 初めて恵は主従関係について口にする。

 改めて言うと、彼女は気恥ずかしさで顔が熱くなるのだが、それは俯くことで見られないように回避する。


「それに相手は鳴海教師ですよ。私の事情をよく知っているようですし。」

「ああ、警察の鳴海家、確か次男でしたか。」

「そんな風に言われているんですね。とりあえず、そういうことなので、相手に情報はほとんど渡っていると考えてください。それを考慮しての人選なんです。」

「な。なるほど。」


 柊は頷いたが戸惑いの表情を隠せない。いつも冷静に対処する彼女としては珍しい姿だ。


「お願いします。このお願いを聞いてくれたら、私ができる範囲で柊さんに誕生日プレゼントを豪華なものにしますよ。」

「・・・・え?」


 恵から出た単語に柊は反応が遅れる。

 その驚愕の表情に恵は、してやったり、と思う。


「柊さんの誕生日は三日後ですよね?だから、その時にプレゼントを要望してくれれば、私が出せる範囲で最高のものを渡します。」


 恵が胸を張っていうのだが、柊の中では悲鳴だ。

 いまだに、誰も誕生日プレゼントを恵からもらったことがない状況で第一号に選ばれたことは喜ばしいのだが、柊としてはもらった後のことを考えるだけで寒気がする。


「いいえ、必要ありません。こうしてお仕えできるだけで十分です。もちろん、そのお役目もさせていただきます。」

「本当ですか!?」

「ええ、本当です。」


 恵はガバッと両手をテーブルについて立ち上がり身を乗り上げて柊との距離を詰める。


「見返りは期待しててください!」


 恵はルンルンと機嫌よくダイニングを出ていく。

 出たところで瑛斗に会うのだが、彼は聞かなかったようで恵と軽く会話をしてから別れる。恵には瑛斗と目が合ってまるで地獄の門の前に立ったような顔をする柊は見えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ