紀赤林の稽古
二人が転移した先はモミジやイチョウの木が聳え立っており、沢山の葉が地面に落ち色鮮やかな景色となっていた。そしてその景色に似つかない呻き声のような物が前方から聞こえる。
「神羅。不羅の報告に間違いは無いか?」
「間違い無いな。足音や呼吸音を聞く限りはだが。恐らく僕等から一番離れた場所に居る悪鬼がなり損ないだ」
「不羅~増援は~?」
刹羅が上に向かって名前を呼ぶと上から人影が降りてき、その人影が地面に音を立てずに着地する。
「無いよ~!」
「了解~」
「俺がなり損ないを貰うからなッ!」
「いやいや、僕が貰う」
不羅を置いて二人は声の聞こえる方に向かって走り出し、地面に落ちていた葉が舞うと共に前方に一メートルほどの悪鬼が目に入る。
「五体一秒」
「七体一秒」
「これは俺が分が悪いな」
「じゃあ僕が雑魚をある程度処理しておこう」
神羅が下鬼七体に向けて時差を付けて具現化させたクナイを一本ずつ投げる。一投目のクナイが下鬼に避けられるが、その瞬間にクナイが神羅と入れ替わり更に具現化させた刀を使って下鬼の首を刈り取る。中鬼の一体が神羅に向かって氷で構築された槍を投げてくるが次の瞬間にはそこに神羅はおらず、次の下鬼の胴体を切り裂いていた。
そして刹羅だが、刹羅は具現化させた刀を鞘から抜刀し、五体の下鬼の間を縫うように疾走していき下鬼の腕や脇腹などに切り傷を作る。そして刹羅が一体目を切りつけてから一秒が立った頃には致命傷でも無かった筈の下鬼達が辺りに血をぶちまけて爆発して死んで行く。そして下鬼が爆発した事によってその下鬼の血や肉片などが他の下鬼にも付着し、何処からか出現した赤い何かに貫かれて死んで行く。
「不羅ー!かかった時間!!」
「四秒~!!!」
あっと言う間に下鬼達の命は刈り取られ、残った中鬼達はそれぞれ武器を構える。その内二体の中鬼の片方が氷の剣を地面に突き刺し、もう片方が杖を上に掲げる。すると晴天だった空から雨が降り始め、更に地面に突き刺した氷の剣を中心に雨が巨大な雹となり、地面には氷の棘が広がって行く。
「面倒だな。刹羅、僕は爪を使ってる冰鬼の上に飛ぶ」
「了解。なり損ないは俺が殺る」
刹羅の言葉を聞き終えると同時に爪を使っている冰鬼の背後へクナイを投げて入れ替わる事によって背後を捉えるが、蒼鬼が水で構成された斧を使い神羅を真っ二つにしようと襲い掛かってくる。
「ハハッ」
そして神羅はその斧を防ぐように刀をぶつけ、鉄と鉄がぶつかり合うかのようなガキンッ!!と言う音が火花と共になり、斧を弾き返しながら左手でクナイを投げる。
「とった」
クナイを投げた方向には蒼鬼がおり、そのクナイと入れ替わる事によってそのまま蒼鬼の首をとばし、神羅と入れ替わったクナイはスピードを落とす事無く斧を持った蒼鬼の心臓部分に吸い込まれるように深々と突き刺さる。爪を使っていた冰鬼を殺した事によって雹となっていた雨や地面にあった氷の棘が消え去る。そして神羅は入れ替わった勢いのまま槍を持った冰鬼へ急接近し、冰鬼は近づいてくる神羅に気が付き素早い動きで突きを放ってくるが神羅は姿勢を低くすることで避け、刀を下から上に振り上げ冰鬼を切り裂く。残りの蒼鬼が何らかの攻撃をしようとこちらへ構え、攻撃をしてこようとするがその蒼鬼も攻撃を発動する前に接近され胴体を真っ二つにされ他の中鬼と同じ道を辿った。
「稽古としては少し物足りないが、まぁ良いか」
そう言いながら刹羅の方を見ると、なり損ないに止めを刺している所だった。
神羅が中鬼に対して飛んで行くのを目視すると同時に、刹羅は刀を鞘に戻し抜刀の構えをする。そして刀が鞘に収まったと思った瞬間。刀が鞘から抜刀されており、刃先から具現化された赤い斬撃が二つなり損ないに向かって途轍もないスピードで飛んで行き、並の者には何が飛んで行ったかさえも分からずなり損ないの両腕だけが切られたように見えるだろう。
「グアアアァァァァァッ!!!」
生まれて初めて体験する壮絶な痛みになり損ないは両腕が切り落とされた事も分からずに叫ぶ。そしてなり損ないが叫んでいる姿を見ながらもう一度ゆっくりと刀を鞘へと戻し、雹の雨の中へと疾走する。しかし、雹の雨や氷の棘の中に入ろうとした瞬間にどちらも消え、なり損ないへ接近できるようになる。
「痛みは気合で抑える物だぞ」
未だ両腕を切り落とされた事による痛みに苦しんでいるなり損ないの後ろに落ちていた両腕を手に取り、刹羅はなり損ないの目の前で止まる。
「ほら、お前の両腕だ」
なり損ないのりょううでを左手に持ち、それを空中へ投げると共に抜刀し、両腕を輪切りにする。腕を輪切りにした事によって辺りに血が飛び散る。
「中々綺麗に切れたな。お前もそう思わないか?」
刹羅が笑顔でなり損ないにそう問いかけると、なり損ないが激高する。
「殺スッ!!!!!」
「言葉を話すか」
なり損ないが爪を使い氷の両腕を作り出し、その両腕に氷の矢と弓を作り、刹羅に向かって放つ。空中で氷の矢は質量を増し、風を切る轟音を立てながら刹羅に迫る。
「叫んで無いでさっさと氷で両腕を止血するべきだったな」
巨大化した氷の矢だが、刹羅に届くまでに残り数センチという場所で地面から突き出たいくつもの鋭く尖った赤い固体の物に貫かれて衝撃波を残して矢は完全に停止する。
赤い固体は氷の矢を完全に停止させると液体となり地面に落ち、氷の矢は支える物が無くなった事によりバキンッ!!と音を立てながら砕け散る。
「ま、ナイスガッツ」
なり損ないは一瞬何を言われたのか理解出来なかったが、その言葉の意味を理解すると完全に舐められているようにしか聞こえず、先程の怒りを超える勢いで激怒する。
「許サンッ!!貴様ダケハァッ!!!」
今度は曲刀を両手に持ち、刹羅に突っ込んでくる。が、その曲刀は刹羅に届く事は無く消え去る事になる。
「あ~あ。俺しか見ずに足元見てなかったから」
なり損ないは目の前から突き出た赤い固体に走り出すまでも無くその命を強制的に止められた。そして先程と同じように赤い固体はなり損ないの命が完全に停止したのと同時に液体となる。それとほぼ同時に神羅が刹羅の横に来ていた。