リレー小説が描きたい日もある 2
「……なんだこれ」
「あら……もしかしてつまらなかったかしら。申し訳ないわね……」
「違う……違う違うちがぁぁぁう!!!」
「にゃっ!?急にどうしたのかしら!?」
部室にて優真と榊原。
本当に一日で書き上げてきた榊原のリレー小説の原稿。
それを読み上げた優真は──怒っていた。
その理由こそ
「なんで一日でこんなの書けるんだよ!というか面白すぎるだろ!これ出版しよ!?もうさ!?榊原さん!君一人で書き上げて出版しよ!?」
「ちょっ!?近い!近い!」
「知るかァァァァァァ!!」
「落ちつけぇ!」
スパーンと。
部室に入ってきた衛藤が頭を叩き、何とか意識が戻るは優真。
優真の怒りの根源。それは榊原のあまりの『強さ』である。
強さとは握力とか物理的な話ではなく文章力の話。
その彼女が書き上げた文章。
それは主人公とヒロインだけでなく、他の様々なヒロイン、そして主人公の親友、家族が繰り広げる日常系ラブコメを描いた物だった。
原稿用紙100枚に詰まった彼らの日常は、いつまでも読んでいけると自信を持って言えるほど。
榊原恵の文章力をマジマジと叩きつけられ、嫉妬のあまりキレたという訳だ。
そんな理不尽すぎる理由でキレた優真をとめた衛藤もその原稿に目を通す。
「おいおい何だこれ……。ホントにこれは出版した方がいいレベル……。なぁ榊原。これの続き書いてください。お願いします……」
「いやあなたにお願いされてもねぇ……。まぁ面白いなら良かったですが」
「なんかお前俺にはキツくね……?」
「はっ……。俺は一体何を……。あ。榊原さん。原稿描きました?」
「記憶喪失……?」
「おぉう……。また暴走を止めなきゃな……」
本気で心配する榊原と再び頭に一撃を入れるための準備をする衛藤である。
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「ほぉ……。これはまた。凄いな。こんな物を私達だけで読んでいいものか……?」
「ダメに決まってるでしょう。ほら。出版しましょ」
「何言ってるんだお前は……。私たちで作るんだろう……」
あれ以降3度の暴走を経てやっと通常状態になった優真。
その目の前で話しているのは暴走の原因を読む藤宮。
藤宮もその文章力に驚いていた。
「随分と好評みたいね。いつも通り書いたつもりなのだけれど」
「ううん。こんなに面白いの初めてだよ〜?『らいとのべる』よりもなんて言うか……なんか心こもってるって言うのかな。面白いよ〜」
だるーんと答える朝比奈。
これで文芸部全員が榊原の原稿を読んだ訳だがいずれも好評──否、大好評であった。
「んでこれの次が俺な訳ね……。最悪すぎるだろこれ……」
「頑張れよ初心者。お前でクオリティを下げてくれ」
「うるせーな……」
次に書く衛藤に想像以上のプレッシャーがかかる中、その後の3、4、5番目の3人もこの小説の続きを書いていいのか……?と言わんばかりの心境。
榊原恵はとてつもないプレッシャーを置いていったとさ。
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「あ。お兄ちゃん。おかえり」
「ただい……ま?」
玄関にて。
仁王立ちするのは妹、明奈。
「ど……どうした。何かあったか」
「あのね。読んだよ小説」
「そうか。どうだった?」
「どうだった?じゃなぁーい!」
「おう!?どうした急にって……おい!」
明奈に突然押し倒され、
明奈が優真の上に覆い被さるような体型になる。
「あのー……ホントにどうした」
「小説の、中にさ」
「おう……」
「妹モノの。あったよね」
「あぁ……うん。んでいつまでこの姿勢で……」
「あれのヒロインさ」
優真の問はガッツリシカトし、
「私の事書いてるでしょ」
的確な一言に思わずドキリとする優真。
「な……なぜ?」
「いやどう考えても私じゃん。どう考えてもさ」
「あ……。それが気持ち悪かったか……。申し訳ない……」
「えっ……?違う違う!そうじゃなくて!」
ワタワタとし出す明奈(姿勢は変わらず)は少し頬を赤らめこう告げる。
「その……あの小説の主人公さ。私をモデルにしてるキャラクターに恋してるじゃん?」
「そうだな。なんか人気だけど……」
「それって……」
「もしかしてお兄ちゃんも……私の事好きなの……?」
「うん」
「でぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「そりゃ家族だし。本当に心の底から愛してるからな」
「なんだ家族でね……。びっくりさせないでよ」
ジト目になりながらやっと立ち上がる。
「おん……。よく分かんないけど飯食べよう。お腹空いた」
「はいはい。もうあるから」
妹の素っ気ない態度に珍しいなぁと思いながらリビングに入る優真。
その背後。
リビングの扉が閉じ、1人玄関に残る明奈。
そしてポツリと。
「……恋愛的な意味じゃ……ないんだね」
呟く。
この言葉の意味は。
当の本人である明奈にしかまだ分からない。